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リリーはなんだか夢の中を漂っているような、ふわふわとした心地でいた。頭の中がとろんとして、難しいことは考えられない状態である。
『・・・・・・そうだ、確か自分は以前ゼウやゼヌ、ゼノのことを好きだったはずなのに、どうして彼らを好きになったか思い出せなかったんだった・・・・・・』
そんな、よくわからないような不思議な感覚の中、リリーはふんわりとそう思った。すると最近の自分の身の回りにあった記憶が次々と思い起こされる。大好きな兄たちに一方的に怒鳴ってしまったこと、思ってもいないのに『嫌い』だと言ってしまったこと、大人数の生徒たちに襲われた体験とそれから助けてくれたフラウと過ごした数日間・・・・・・。だがそれは感情を伴わず、ただ客観的な記憶を淡々と眺めているようで、確かに自分が経験したことなのに、あまり実感が沸かない。
でも、うっすらと、何となくは覚えていて、兄にキツい言葉を投げてしまったことに胸がズキリと痛んだ。
今まで見ることのなかったフラウの甘く優しい顔は、少し前ならばドキドキと胸を躍らせるものだったような気がするのだが、今はそんなことはない。顔は整っており、格好いい男性だとは思う。が、今の自分の心の中にいるのはやはり前と同じように、第三王子と呼ばれるあの三人だった。
・・・・・・そう、あれは幼少期で、勉強を終えてクォードやギムリィのやることが終わるまで四人で待っていた時のこと。
ふとリリーが、『ゼウもゼヌもゼノも、しゅごぃねぇ・・・・・・。おにぃしゃんたちをまもるのがもくひょぉれ、しょのために、まいにちたんれん、してぅんだもんね・・・・・・』と三人の優秀さと努力に関心の意を零すと、『おぅ!おれたち将来、兄さんたちを助けてこの国を守ってみせるんだ!!』とゼヌは少しだけ照れながら自身満々に言い放った。
『ぼくも、にぃしゃんたちをまもりたい!!』と心を熱くさせながら言うと、ゼウがリリーの両手を自分の手で包み込み、『国だけではありません。私、リリーのことも守りますから。というか、守らせてくださいね』とその秀麗な顔を近づけてにこりと優しく微笑んだ。言われた言葉にも近づけられた顔にもびっくりして、咄嗟に顔を赤くしていると、それを見たゼヌが強引にゼウの手をリリーから離し、自分の手でギュッとリリーの手を握った。『おれも!リリーのこと、守りたい。兄さんや国も大事だけど、おれにとってはリリーもすごく大事なんだ』そう、いつにもなく真面目な目をして握っている手の力をさらに強くする。いつもと違う顔に『あ・・・・・・ぅ・・・・・・』と何を言って良いかわからずにいると、今度はゼノが『二人とも、ずるーい!!』と言いながらゼヌに体当たりをしてリリーから手を離させ、自分はそっとリリーの手に手を添えて、『僕も!!僕もリリーを守るからね!!リリーのこと、大好きなんだから!!』と愛くるしい笑みを浮かべたのだった。
リリーは、その時から彼らのことが恋愛的な意味で好きになったのだ、と思い出した。あの日、三人からそれぞれの温かい気持ちをもらった。ゼウタールからはどっぷりと浸かってしまいそうな、幸福感に似た安心感、ゼヌタールからはキュンッと胸を締め付けられるときめき、そしてゼノタールからは、甘くて甘い、ズクンとした胸の甘やかな疼きをもらったのだ。
はっきりと彼らへの想いを思い出した時、リリーは瞼を照らす光にピクンと皮膚を震わせた。
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