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4.侯爵家三男の災難
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数日前の事だった。
シャーロット・ロセッティに婚約を申し込んだばかりの、侯爵家の三男は震えあがっていた。
それは彼が帰宅途中に、急に一人の男から声を掛けられ、振り返ったことが発端だった。
今、彼の対面に立っているのは、キース・グレアム。
この国の貴族で彼を知らぬ者はいない。
公爵家の次男で、まだ年若いが、文武両道で魔術の才にも長けており、王太子も一目置くほどの逸材らしい。
また、見目も美しく、ひとたび夜会に出れば令嬢達が列をなしてこの男に群がるという。
誰から見たとしても、この男を敵に回すのは愚策でしかないだろう。
だが、その男は現在、自分に対して恐ろしい程の殺気を向けている。
相手は徒手で、何一つ凶器になりそうなものなど手にはしていないのに、まるで喉元に刃物を突き付けられているような感覚があった。
長身で蝋人形のように整った容貌は、ある種の不気味ささえ感じさせる。
心当たりは無いが、何かこの男の気分を害するような事を自分はしてしまったのだろうか・・・。
背中を嫌な汗が伝った。
自分が何故呼び止められたのか、そして何故相手がこんなにも怒気を発しているのか、彼にはその理由がさっぱり理解できなかった。
キースは震える彼を上から下まで観察するように、眺めた。
「君が例の男? ふーん・・・」
「あの・・・何の御用でしょうか・・・」
「シャーロット・ロセッティ伯爵令嬢に婚約を申し込んだんだって?」
「はぁ・・・それが何か?」
「君はずいぶん世間知らずみたいだな・・・。噂を知らない?彼女に手を出すとどうなるのか・・・」
◇
侯爵家の屋敷に帰った彼は、まだ震えも治まらないうちに、ただちにペンを握った。
そして、先日婚約を結んだばかりのシャーロット・ロセッティ宛に、今すぐ婚約を解消したいという旨の書面を送ったのだった。
「ロセッティ伯爵令嬢。一見すると地味だが、良く見れば顔はそれなりに整っているし、年増とはいえ悪くない女だと思った。しかし、いつまでも売れ残っているのは何かしら理由があるのだろうとは思っていたが・・・。
それにしても、あんな恐ろしい男が後ろにいたら、それは誰も寄り付かないだろう・・・」
彼はようやく、思いのほか魅力的だった彼女が、未だ独り身でいるという事実に対する、真の意味を理解したのだった。
シャーロット・ロセッティに婚約を申し込んだばかりの、侯爵家の三男は震えあがっていた。
それは彼が帰宅途中に、急に一人の男から声を掛けられ、振り返ったことが発端だった。
今、彼の対面に立っているのは、キース・グレアム。
この国の貴族で彼を知らぬ者はいない。
公爵家の次男で、まだ年若いが、文武両道で魔術の才にも長けており、王太子も一目置くほどの逸材らしい。
また、見目も美しく、ひとたび夜会に出れば令嬢達が列をなしてこの男に群がるという。
誰から見たとしても、この男を敵に回すのは愚策でしかないだろう。
だが、その男は現在、自分に対して恐ろしい程の殺気を向けている。
相手は徒手で、何一つ凶器になりそうなものなど手にはしていないのに、まるで喉元に刃物を突き付けられているような感覚があった。
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心当たりは無いが、何かこの男の気分を害するような事を自分はしてしまったのだろうか・・・。
背中を嫌な汗が伝った。
自分が何故呼び止められたのか、そして何故相手がこんなにも怒気を発しているのか、彼にはその理由がさっぱり理解できなかった。
キースは震える彼を上から下まで観察するように、眺めた。
「君が例の男? ふーん・・・」
「あの・・・何の御用でしょうか・・・」
「シャーロット・ロセッティ伯爵令嬢に婚約を申し込んだんだって?」
「はぁ・・・それが何か?」
「君はずいぶん世間知らずみたいだな・・・。噂を知らない?彼女に手を出すとどうなるのか・・・」
◇
侯爵家の屋敷に帰った彼は、まだ震えも治まらないうちに、ただちにペンを握った。
そして、先日婚約を結んだばかりのシャーロット・ロセッティ宛に、今すぐ婚約を解消したいという旨の書面を送ったのだった。
「ロセッティ伯爵令嬢。一見すると地味だが、良く見れば顔はそれなりに整っているし、年増とはいえ悪くない女だと思った。しかし、いつまでも売れ残っているのは何かしら理由があるのだろうとは思っていたが・・・。
それにしても、あんな恐ろしい男が後ろにいたら、それは誰も寄り付かないだろう・・・」
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