今宵、薔薇の園で

天海月

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8. side シャーロット

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まさか、キース様を紹介されるなんて思っても見なかった・・・。


シャーロットは思いがけないアルバートからの提案に驚いていた。

てっきり、彼の知人の誰かが候補として紹介されるのだろうと思い込んでいた。





キースのことは弟のようにしか思えないが、嫌いではなかった。

正直なところ、アルバートの言う通り、彼をすぐに婚約者にしてしまっても構わないとも思った。

幼い頃から見てきている彼の人柄には、何の不満も無かった。

それに、彼のように心優しい人間であれば、男女の愛情などなくとも結婚生活も上手くやっていけるに違いないだろうとも思えた。



それでも、わざわざ婚約者ではなくとして、と条件を出したのは、自分への自信の無さからだった。


キースは、小さな頃から、公爵家に遊びに行けば、よくシャーロットに付いてまわる愛くるしい子で、彼女にとっては、幾ら大人になっても、背を追い越されても、彼はどこか庇護の対象だった。

だが、今の彼をシャーロットのような目線で見るものはいないだろう。


優秀で見目麗しく育った彼を、周囲の女性は放っては置くまい。

実際、彼を婿にと望む家も多いだろう。

茶会に出向いた先で、彼の名前を聞くことも少なくない。


キースは、自分が望んでシャーロットの婚約者候補に立候補したのだと言った。

けれど、それは意外にも嬉しかった半面、どこか信用しきれなかった。

その理由は、彼が不誠実な人間だからという意味では決して無い。

今は若者特有の年長者への憧れにも似た気持ちから、自分がシャーロットに好意を抱いていると錯覚しているのかもしれないが、現実を見れば同年代のほうが話も合うし、気安いものだということに、そのうち気付くに違いない。

そうなれば、年増の自分など忽ちお払い箱になってしまうだろう。

もし、これから自分が彼を手放しがたいと感じるほどに惹かれてしまってたとして、そうなってから無碍にされたとしたら、とても耐えられそうになかった。

彼は優しいから、表立ってシャーロットに飽きたという態度は見せないかもしれないが、そういう事は隠そうとしても自然と滲み出てしまうものだろう・・・。

嫌になったら、すぐに解消するようにと言ったのも同じ理由だった。





彼を弟のように思っている気持ちは今でも変わりないはずだった。

だがあの時、彼が真剣な顔をして『自分の話を聞いてほしい』と言った事を思い出すと、どこか見知っている可愛らしい彼とは違う、大人の男性のように見えて、心悸の高まりを感じてしまった。


若い彼は、いつ心変わりするか分からないのだから、年長者らしく、物分かり良く、いつでもあっさりと彼の手を放せるようでいなくては・・・。

彼に本気になってはいけない。

シャーロットは自分が傷つくかもしれない恐ろしさから、そんなことを思った。

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