16 / 41
16.あなたを飾りたいⅠ
しおりを挟む
「キース、今日はどこへ行くのですか?」
シャーロットは公爵家の馬車に乗っていた。
今朝がた、キースが伯爵家まで彼女を迎えにやって来たのだ。
◇
「ね・・・いや、シャーロットが夜会で着るドレスを一緒に見に行きたいと思って」
「キースはお忙しいのでしょう?こんなことに時間を割くなんて勿体ないです。それに、いつもあまり眠っていない様ですし、休日は良く休んだ方が・・・」
シャーロットが弟に言い聞かせるように話しだしたのを、キースが遮る。
「こんなことなんて言わないでください。僕にとっては大切な事なんです。寧ろ今日みたいな日の為に、僕は仕事をしていると言っても過言ではないのですから・・・」
「キース・・・」
「ともかく、もうすぐ店に着きますから」
わざわざ店に足を運ばずとも、職人を屋敷に呼びつければ済むことだったが、キースは彼女と二人で出掛ける口実を作りたくて店まで出向くことにしたのだった。
◇
店に着くと、さっそく店主が二人を出迎えた。
「お待ちしておりましたよ、キース坊ちゃま」
キースは真っ赤な顔で、今すぐ坊ちゃまと呼ぶのは止めるようにと店主に言った。
こんな店に来たのは久方ぶりだったシャーロットは、少し緊張していたが、それは目の前のやり取りですぐに解れた。
店主はゴホンとわざとらしく咳をして、仕切りなおす。
「では、あらためましてキース様。こちらの方は?」
店主は会話の流れ上、そう訊いてはみたものの、キースの返答を聞く前にシャーロットの頭に留められた群青色の髪飾りを見つけ、目を細めた。
「シャーロット・ロセッティ伯爵令嬢。色々事情があって細かく説明するのは難しいけれど、僕にとっては婚約者だよ」
「この方が・・・承知しました」
そんなやりとりをしている間に、職人が店の奥からデザイン画の束を持ってきた。
「気に入ったものがあれば、仰ってください。基本のタイプは幾つか仕立ててあるものがありますから、試着もしていただけますよ?」
シャーロットは公爵家の馬車に乗っていた。
今朝がた、キースが伯爵家まで彼女を迎えにやって来たのだ。
◇
「ね・・・いや、シャーロットが夜会で着るドレスを一緒に見に行きたいと思って」
「キースはお忙しいのでしょう?こんなことに時間を割くなんて勿体ないです。それに、いつもあまり眠っていない様ですし、休日は良く休んだ方が・・・」
シャーロットが弟に言い聞かせるように話しだしたのを、キースが遮る。
「こんなことなんて言わないでください。僕にとっては大切な事なんです。寧ろ今日みたいな日の為に、僕は仕事をしていると言っても過言ではないのですから・・・」
「キース・・・」
「ともかく、もうすぐ店に着きますから」
わざわざ店に足を運ばずとも、職人を屋敷に呼びつければ済むことだったが、キースは彼女と二人で出掛ける口実を作りたくて店まで出向くことにしたのだった。
◇
店に着くと、さっそく店主が二人を出迎えた。
「お待ちしておりましたよ、キース坊ちゃま」
キースは真っ赤な顔で、今すぐ坊ちゃまと呼ぶのは止めるようにと店主に言った。
こんな店に来たのは久方ぶりだったシャーロットは、少し緊張していたが、それは目の前のやり取りですぐに解れた。
店主はゴホンとわざとらしく咳をして、仕切りなおす。
「では、あらためましてキース様。こちらの方は?」
店主は会話の流れ上、そう訊いてはみたものの、キースの返答を聞く前にシャーロットの頭に留められた群青色の髪飾りを見つけ、目を細めた。
「シャーロット・ロセッティ伯爵令嬢。色々事情があって細かく説明するのは難しいけれど、僕にとっては婚約者だよ」
「この方が・・・承知しました」
そんなやりとりをしている間に、職人が店の奥からデザイン画の束を持ってきた。
「気に入ったものがあれば、仰ってください。基本のタイプは幾つか仕立ててあるものがありますから、試着もしていただけますよ?」
1
あなたにおすすめの小説
不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら
柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。
「か・わ・い・い~っ!!」
これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。
出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました
海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・?
何故、私を愛するふりをするのですか?
[登場人物]
セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。
×
ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。
リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。
アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?
【完結】氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話
miniko
恋愛
王太子であるセドリックは、他人の心の声が聞けると言う魔道具を手に入れる。
彼は、大好きな婚約者が、王太子妃教育の結果、無表情になってしまった事を寂しく思っていた。
婚約者の本音を聞く為に、魔道具を使ったセドリックだが・・・
笑わない妻を娶りました
mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。
同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。
彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。
【完結】謀られた令嬢は、真実の愛を知る
白雨 音
恋愛
男爵令嬢のミシェルは、十九歳。
伯爵子息ナゼールとの結婚を二月後に控えていたが、落馬し、怪我を負ってしまう。
「怪我が治っても歩く事は難しい」と聞いた伯爵家からは、婚約破棄を言い渡され、
その上、ナゼールが自分の代わりに、親友のエリーゼと結婚すると知り、打ちのめされる。
失意のミシェルに、逃げ場を与えてくれたのは、母の弟、叔父のグエンだった。
グエンの事は幼い頃から実の兄の様に慕っていたが、彼が伯爵を継いでからは疎遠になっていた。
あの頃の様に、戻れたら…、ミシェルは癒しを求め、グエンの館で世話になる事を決めた___
異世界恋愛:短編☆(全13話)
※魔法要素はありません。 ※叔姪婚の認められた世界です。 《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる