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19.若い二人
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伯爵家の前に停まった馬車から降りた娘は、屋敷の方に駆け出した。
「お姉様!」
「レティシア、久しぶりね。元気にしていた?それにしても急に走ったら危ないわ」
「ごめんなさい。はしたないのは分かっていたのだけれど、お姉様に早く会いたくて・・・」
レティシアはしゅんとした。
「それは私も嬉しいけれど、そんな調子で王宮では大丈夫なの?」
シャーロットは心配そうに訊いた。
「そこは問題ありませんので、どうか安心なさってください、お姉様!王宮での仕事の時は、上手くやっていますから、大丈夫です。女官長から褒めていただいた事もあるんですよ」
妹はどこか誇らしそうに言った。
「頼もしいわね」
シャーロットは、妹の成長を嬉しく思った。
◇
「たまたま近くに用事があったから、ついでに寄ってしまったのだけれど・・・」
キースが伯爵家に訪ねてきた。
シャーロットは捌かなくてはいけない書類が溜まっていたので、ちょうどそれに取り掛かり始めたところだった。
キースは忙しいようなら出直すと言ってくれたが、折角来てくれたのだから、少しはゆっくりしていって欲しいと彼女は思った。
「私は切りの良いところまで書類を片付けたら、後から行きますので、先にレティシアとお茶でも飲んでいてください」
◇
書類を片付けたシャーロットは、応接間に急いだ。
早く彼の声が聴きたい・・・。
シャーロットが入口に近づくと、キースとレティシアの楽しげな話し声が耳に入ってきた。
足を止め、ちらりと部屋を覗くと、二人はとても親密そうな様子に見えた。
レティシアが耳打ちをしたあと、キースは頬を真っ赤に染め、彼女をじっと見つめている。
話の内容までは聞き取れなかったが、シャーロットは目の前の光景から視線を逸らしたくなった。
華やかな美女と、人形のように端正な容貌の青年・・・。
この若い二人はどこからどう見てもお似合いだった。
全てが釣り合っているといって良いだろう。
とても自分の入る隙などあるようには見えない。
自分とキースは仮とはいえ婚約しているはずだった。
だが、こうして仲睦まじそうな二人を目の前にすると、自分ではなくレティシアの方が彼の婚約者なのだという方がしっくりくるように見えた。
キースは元々レティシアを好いていたが、彼女が結婚をしたがらないから、代替品としてシャーロットで妥協することにしたに違いない。
可哀相なキース・・・。
あの時キースは、自分の意志でシャーロットの婚約者になるのだと言ったが、やはりそれは彼の優しい嘘だったのだ。
アルバートに押し付けられて、渋々自分の婚約者候補になったというのが真実だろう。
シャーロットは、のぼせあがっていた頭に、突然冷や水を浴びせられたようだった。
気立ての良くて可愛らしい自慢の妹に嫉妬するなど、情けない事この上ない。
二人を見ているのも辛いが、何よりも、そう思うことに対する自己嫌悪に耐えられそうにない。
とにかく、これ以上醜態を晒さないうちに、彼を手放さなくては・・・。
本来であれば、今すぐ自分から関係の解消を伝えるべきではあるが、以前誘われた夜会が間近に迫っている。
流石に急に欠席するというのは具合が悪いだろうから、差し当たり夜会には出ることにしよう。
そして、その後、別れを切り出せば良い・・・。
今度の夜会は、彼と過ごせる最後の時間だと思って、悔いのないように楽しまなくては・・・。
シャーロットはそんなことを考えた。
「お姉様!」
「レティシア、久しぶりね。元気にしていた?それにしても急に走ったら危ないわ」
「ごめんなさい。はしたないのは分かっていたのだけれど、お姉様に早く会いたくて・・・」
レティシアはしゅんとした。
「それは私も嬉しいけれど、そんな調子で王宮では大丈夫なの?」
シャーロットは心配そうに訊いた。
「そこは問題ありませんので、どうか安心なさってください、お姉様!王宮での仕事の時は、上手くやっていますから、大丈夫です。女官長から褒めていただいた事もあるんですよ」
妹はどこか誇らしそうに言った。
「頼もしいわね」
シャーロットは、妹の成長を嬉しく思った。
◇
「たまたま近くに用事があったから、ついでに寄ってしまったのだけれど・・・」
キースが伯爵家に訪ねてきた。
シャーロットは捌かなくてはいけない書類が溜まっていたので、ちょうどそれに取り掛かり始めたところだった。
キースは忙しいようなら出直すと言ってくれたが、折角来てくれたのだから、少しはゆっくりしていって欲しいと彼女は思った。
「私は切りの良いところまで書類を片付けたら、後から行きますので、先にレティシアとお茶でも飲んでいてください」
◇
書類を片付けたシャーロットは、応接間に急いだ。
早く彼の声が聴きたい・・・。
シャーロットが入口に近づくと、キースとレティシアの楽しげな話し声が耳に入ってきた。
足を止め、ちらりと部屋を覗くと、二人はとても親密そうな様子に見えた。
レティシアが耳打ちをしたあと、キースは頬を真っ赤に染め、彼女をじっと見つめている。
話の内容までは聞き取れなかったが、シャーロットは目の前の光景から視線を逸らしたくなった。
華やかな美女と、人形のように端正な容貌の青年・・・。
この若い二人はどこからどう見てもお似合いだった。
全てが釣り合っているといって良いだろう。
とても自分の入る隙などあるようには見えない。
自分とキースは仮とはいえ婚約しているはずだった。
だが、こうして仲睦まじそうな二人を目の前にすると、自分ではなくレティシアの方が彼の婚約者なのだという方がしっくりくるように見えた。
キースは元々レティシアを好いていたが、彼女が結婚をしたがらないから、代替品としてシャーロットで妥協することにしたに違いない。
可哀相なキース・・・。
あの時キースは、自分の意志でシャーロットの婚約者になるのだと言ったが、やはりそれは彼の優しい嘘だったのだ。
アルバートに押し付けられて、渋々自分の婚約者候補になったというのが真実だろう。
シャーロットは、のぼせあがっていた頭に、突然冷や水を浴びせられたようだった。
気立ての良くて可愛らしい自慢の妹に嫉妬するなど、情けない事この上ない。
二人を見ているのも辛いが、何よりも、そう思うことに対する自己嫌悪に耐えられそうにない。
とにかく、これ以上醜態を晒さないうちに、彼を手放さなくては・・・。
本来であれば、今すぐ自分から関係の解消を伝えるべきではあるが、以前誘われた夜会が間近に迫っている。
流石に急に欠席するというのは具合が悪いだろうから、差し当たり夜会には出ることにしよう。
そして、その後、別れを切り出せば良い・・・。
今度の夜会は、彼と過ごせる最後の時間だと思って、悔いのないように楽しまなくては・・・。
シャーロットはそんなことを考えた。
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