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24.夜会Ⅰ
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キースに手を引かれ、侯爵家の馬車から降りたシャーロットは気持ちを切り替えた。
会場にたどり着いてしまった今でも、自分が彼の隣に相応しいようには思えない。
けれど、だからといって不安で背を丸めているようでは、ただでさえ冴えない自分が更にみすぼらしく見えるに決まっている。
エスコートしてくれるキースに恥をかかせる訳にはいかない、そう感じたシャーロットは、今だけは自分が『彼の隣に立つ価値のある存在』なのだと無理にでも思い込むことにして、すっと背筋を伸ばした。
◇
キースは彼女の手を取って歩を進めた。
夕闇の中、シャンデリアの灯りに浮かび上がる会場は、まるで幻のように煌びやかだった。
暖かな光に照らされ、隣に立つ想い人は、全身を彼の色に染め上げられている。
その鮮やかな群青色は、理知的で清楚な彼女の魅力を引き出していた。
それは彼が幼いころから、夢にまで見た光景だった。
キースは、これは本当に夢なのではないだろうかと一瞬思った。
同時に、このまま彼女を自分以外の誰の目にも触れないようにどこかに隠してしまいたいと思う衝動と、ここに居る全ての人に見せつけて自慢したいという矛盾した思いに苛まれた。
今までどんな夜会に参加しても、いつも始まった瞬間に終わりが待ち遠しいとしか思わなかった。
だが、今夜はずっと終わりが来ないでほしいと彼は心から思った。
先ほど伯爵家で、自分が贈った装いに身を包んだ彼女を見た瞬間は、一人で幾度も想像した姿よりずっと美しくて、思わず何も話せなくなってしまった。
けれど、そんな調子ではいけない。
すぐに舞い上がって、そんな余裕の欠片もないような稚拙な態度をとってばかりでは、彼女に愛想を尽かされてしまう。
レティシアにも窘められたが、パートナーらしく大人の男として、彼女をしっかりエスコートしなくては・・・。
◇
主催者に挨拶を済ませ、しばらくするとダンスの演奏が始まった。
「僕と一曲踊っていただけませんか」
「はい」
微笑みかけたキースに、シャーロットは頷いた。
会場にたどり着いてしまった今でも、自分が彼の隣に相応しいようには思えない。
けれど、だからといって不安で背を丸めているようでは、ただでさえ冴えない自分が更にみすぼらしく見えるに決まっている。
エスコートしてくれるキースに恥をかかせる訳にはいかない、そう感じたシャーロットは、今だけは自分が『彼の隣に立つ価値のある存在』なのだと無理にでも思い込むことにして、すっと背筋を伸ばした。
◇
キースは彼女の手を取って歩を進めた。
夕闇の中、シャンデリアの灯りに浮かび上がる会場は、まるで幻のように煌びやかだった。
暖かな光に照らされ、隣に立つ想い人は、全身を彼の色に染め上げられている。
その鮮やかな群青色は、理知的で清楚な彼女の魅力を引き出していた。
それは彼が幼いころから、夢にまで見た光景だった。
キースは、これは本当に夢なのではないだろうかと一瞬思った。
同時に、このまま彼女を自分以外の誰の目にも触れないようにどこかに隠してしまいたいと思う衝動と、ここに居る全ての人に見せつけて自慢したいという矛盾した思いに苛まれた。
今までどんな夜会に参加しても、いつも始まった瞬間に終わりが待ち遠しいとしか思わなかった。
だが、今夜はずっと終わりが来ないでほしいと彼は心から思った。
先ほど伯爵家で、自分が贈った装いに身を包んだ彼女を見た瞬間は、一人で幾度も想像した姿よりずっと美しくて、思わず何も話せなくなってしまった。
けれど、そんな調子ではいけない。
すぐに舞い上がって、そんな余裕の欠片もないような稚拙な態度をとってばかりでは、彼女に愛想を尽かされてしまう。
レティシアにも窘められたが、パートナーらしく大人の男として、彼女をしっかりエスコートしなくては・・・。
◇
主催者に挨拶を済ませ、しばらくするとダンスの演奏が始まった。
「僕と一曲踊っていただけませんか」
「はい」
微笑みかけたキースに、シャーロットは頷いた。
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