今宵、薔薇の園で

26.夜会Ⅲ

キースの視線に気づいたアリステアは、二人に向かってにこやかに笑みを浮かべると、こちらに向かってきた。

彼は確実にシャーロットにも興味を持った様子だった。

自分が向こうを見てしまったから気付かれてしまったのだろうか、彼に気付かなければ良かったのに・・・。

キースはそう思ったが、今更もう目が合ってしまったものは仕方がなかった。


そうしている間にも、アリステアとの距離はどんどん縮まっていく。

気の利いた思考を組み立てているような時間的な余裕は無かった。

キースはとっさに、彼をシャーロットから遠ざけなくてはならないとだけ考えた。



キースは彼女に何も理由を説明しなかった。

「ここで待っていてください」

シャーロットにそれだけ告げると、彼は切羽詰まった顔でアリステアの方に自ら駆け寄っていった。

そして、わざとらしく丁寧な挨拶をした後、誘導でもするように相手を伴ったままバルコニーに消えた。


慣れない場所に一人取り残されたシャーロットは急に心細くなった。


この夜会は、そこまで格の高いものではなかったが、国際的な親善目的を兼ねたもので、半分が他国からの招待客だった。

その為、彼女の数少ない知人はこの場に誰も居なかった。

どのくらい時間が経ったのか分からない。

キースと二人でいる時には気にならなかった雑音が急に気になり始める。

夜会の喧騒の中、たった一人で彼を待つ時間はやけに長く感じられた。


シャーロットは、手持ち無沙汰から飲みたくもないのに直ぐに空になってしまったグラスを握りしめ、取ってつけたような作り笑いを浮かべながら、壁際にただ立っていることしか出来なかった。


キース・・・早く戻ってきて・・・。