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28.夜会Ⅴ
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夢中で会場から抜け出してきたシャーロットだったが、実用性よりも装飾性に重きを置いて作られた美しい靴は想定外の負荷に耐えられなかったらしく、建物から出てすぐのところで、ヒールが折れてしまった。
バランスを崩して倒れそうになる瞬間、客観的に見れば、あまりにも醜悪な自分の現状に、彼女は心の中で自らを嘲笑した。
とっさに、このまま倒れてしまう・・・、と思わず目を瞑ったシャーロットだったが、どれほど経っても、その瞬間がやってくることはなかった。
恐る恐るゆっくりと目を開けると、よろめいた彼女は、誰かに支えられていた。
それは、泣きだした彼女の姿を見て、急いで人込みを抜け、追いかけてきたキースだった。
彼は、ヒールが折れて、髪も乱れてしまい、泣き腫らしたぼろぼろのシャーロットを、後ろから抱き寄せて、懇願するように言った。
「どこにも行かないで・・・」
悲しいのはシャーロットの方だったはずなのに、キースの方が今にも泣き出しそうな声をしていた。
そして、彼女を抱きしめるその腕は、力強いけれども、宝物でも扱うように優しかった。
そんなキースの様子から、彼の気持ちを垣間見たような気がしたシャーロットは、今度は嬉しくて涙が止まらなくなった。
それと同時に、理由をつけては誤魔化し続けてきた自分の本心を、初めてはっきりと自覚した。
私はキースを愛してる・・・。
◇
靴が使い物にならなくなり、足を痛めているシャーロットをキースは横抱きにした。
「今日はもう帰りましょう」
腕の中の大切な人に、キースは優しく微笑みかけた。
彼女は無言で頷いた。
バランスを崩して倒れそうになる瞬間、客観的に見れば、あまりにも醜悪な自分の現状に、彼女は心の中で自らを嘲笑した。
とっさに、このまま倒れてしまう・・・、と思わず目を瞑ったシャーロットだったが、どれほど経っても、その瞬間がやってくることはなかった。
恐る恐るゆっくりと目を開けると、よろめいた彼女は、誰かに支えられていた。
それは、泣きだした彼女の姿を見て、急いで人込みを抜け、追いかけてきたキースだった。
彼は、ヒールが折れて、髪も乱れてしまい、泣き腫らしたぼろぼろのシャーロットを、後ろから抱き寄せて、懇願するように言った。
「どこにも行かないで・・・」
悲しいのはシャーロットの方だったはずなのに、キースの方が今にも泣き出しそうな声をしていた。
そして、彼女を抱きしめるその腕は、力強いけれども、宝物でも扱うように優しかった。
そんなキースの様子から、彼の気持ちを垣間見たような気がしたシャーロットは、今度は嬉しくて涙が止まらなくなった。
それと同時に、理由をつけては誤魔化し続けてきた自分の本心を、初めてはっきりと自覚した。
私はキースを愛してる・・・。
◇
靴が使い物にならなくなり、足を痛めているシャーロットをキースは横抱きにした。
「今日はもう帰りましょう」
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彼女は無言で頷いた。
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