今宵、薔薇の園で

天海月

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39.髪飾り

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翌日、キースは兄を通じて、都合がつけばなるべく早く公爵家に来てほしいとシャーロットに連絡を入れた。

『急ぎで』と伝えられたことは、キースの怪我を知ったとき以来だった。

その文面から、何かただならぬ様子を感じたシャーロットは、またキースに何かあったのだろうか、容体が急変したのかもしれないと不安になった。

直ぐにでも彼のもとへ駆けつけたかったが、その日はどうしても外せない所用があった。

早く終わらせなくてはと急いだつもりだったが、伯爵家に帰ってきた頃にはもう日が暮れてしまっていた。


こんな時間になってからお邪魔するだなんて、きっと迷惑に違いない・・・。

けれど、もしキースに何かあって、もう彼に会えなくなってしまうとしたら、後悔してもしきれない。

たとえ常識外れと罵られたとしてもかまわない。

彼女は今からでも公爵家に向かう事を決めた。

そして、ずっと大切に保管してあった群青色の髪飾りを箱から取り出し、お守り代わりに髪に挿した。

どうか、彼に何もありませんように・・・。





シャーロットが公爵家に着くと、屋敷の明かりは殆ど消えていた。

彼女に気付いた執事が声を掛ける。

「キース様がお待ちです」

彼女は何故か、屋敷の中には通されず、庭園の方に来るように促された。

白い吐息が、冬の夜の静かな冷たさを感じさせる。

枝葉を落とし、今は死んだ枯れ木のように眠っている薔薇の間を抜けて歩く。

執事は、次の角を曲がった先に彼が居ると告げると姿を消した。


キースを見つけたシャーロットは、思わず彼に駆け寄った。

「こんなに寒いのに、外に出ていて大丈夫なのですか?キース・・・さ、ま・・・」

彼は彼女の声に振り返った。

そして、懐かしそうにその目を細めて彼女に言った。

「シャーロット、もう何も取り繕わないで・・・。また僕のせいであなたを独りにしてしまった・・・どうか赦して下さい」

その言葉に、シャーロットは一人で途方に暮れていたあの夜会の晩の事を思い出した。

記憶を失ってからの彼は、彼女の事をシャーロットと呼ぶ。

シャーロットは聞き違いだったのだろうかと、確認するように彼の瞳をじっと見つめた。


キースは彼女の髪に挿されている、かつて自らが贈った髪飾りに触れた。

「まだ持っていてくれたんですね・・・」

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