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39.髪飾り
しおりを挟む翌日、キースは兄を通じて、都合がつけばなるべく早く公爵家に来てほしいとシャーロットに連絡を入れた。
『急ぎで』と伝えられたことは、キースの怪我を知ったとき以来だった。
その文面から、何かただならぬ様子を感じたシャーロットは、またキースに何かあったのだろうか、容体が急変したのかもしれないと不安になった。
直ぐにでも彼のもとへ駆けつけたかったが、その日はどうしても外せない所用があった。
早く終わらせなくてはと急いだつもりだったが、伯爵家に帰ってきた頃にはもう日が暮れてしまっていた。
こんな時間になってからお邪魔するだなんて、きっと迷惑に違いない・・・。
けれど、もしキースに何かあって、もう彼に会えなくなってしまうとしたら、後悔してもしきれない。
たとえ常識外れと罵られたとしてもかまわない。
彼女は今からでも公爵家に向かう事を決めた。
そして、ずっと大切に保管してあった群青色の髪飾りを箱から取り出し、お守り代わりに髪に挿した。
どうか、彼に何もありませんように・・・。
◇
シャーロットが公爵家に着くと、屋敷の明かりは殆ど消えていた。
彼女に気付いた執事が声を掛ける。
「キース様がお待ちです」
彼女は何故か、屋敷の中には通されず、庭園の方に来るように促された。
白い吐息が、冬の夜の静かな冷たさを感じさせる。
枝葉を落とし、今は死んだ枯れ木のように眠っている薔薇の間を抜けて歩く。
執事は、次の角を曲がった先に彼が居ると告げると姿を消した。
キースを見つけたシャーロットは、思わず彼に駆け寄った。
「こんなに寒いのに、外に出ていて大丈夫なのですか?キース・・・さ、ま・・・」
彼は彼女の声に振り返った。
そして、懐かしそうにその目を細めて彼女に言った。
「シャーロット、もう何も取り繕わないで・・・。また僕のせいであなたを独りにしてしまった・・・どうか赦して下さい」
その言葉に、シャーロットは一人で途方に暮れていたあの夜会の晩の事を思い出した。
記憶を失ってからの彼は、彼女の事をシャーロット嬢と呼ぶ。
シャーロットは聞き違いだったのだろうかと、確認するように彼の瞳をじっと見つめた。
キースは彼女の髪に挿されている、かつて自らが贈った髪飾りに触れた。
「まだ持っていてくれたんですね・・・」
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