あなたが残した世界で

天海月

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7. side ロザリア

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『私の騎士が帰ってきた』

剣を佩き自分の足元に跪く彼を見たロザリアはそう思った。

彼女の前に突然現れた彼は、近衛騎士時代とは比べ物にならないような質素な服を纏っていた。

その姿はまるで、俗世との交流を絶った禁欲的な修道士を思わせるような佇まいすら感じさせた。

未だ前回の再会による失望感を引きずっていたロザリアは、この数か月で彼に一体何があったというのだろうか、と驚いた。

だが、彼女を真っ直ぐに見つめた彼のその瞳は、微かな陰を感じさせるようなところはありながらも、初めて出会ったときと同じように強い意志を秘めているようだった。

ロザリアは、自分のもとに戻ってきてくれた彼を見た途端、先ほどまでの鬱々とした気持ちが全て吹き飛んで、心の中が晴れ渡るように感じられた。

今まで悩んでいたことの何もかもが、ひどく些細な事だったように思えた。

こんな気持ちは、今から死ぬために出掛けるというのにおかしいかもしれない。


生贄に選ばれてしまったときは、神を恨んだ。

けれど、ロザリアはそのお陰でまたアーロンに会えたことを神に感謝した。


彼女は自分の知っている彼が戻ってきてくれたことが、ただ何よりも嬉しかった。

それが、これから残っている僅かな生の間だけだったとしても。

自分が生贄になったから、またアーロンに会えたのだとしたら、寧ろ生贄に選ばれて良かったとすらロザリアは思った。


それほどまでに、彼女は彼の存在を渇望していた。

幼いころから、全てが王太子である兄中心にまわっていた彼女を取り巻く世界。

そこで彼女を心から気に掛けてくれる存在は、アーロンただ一人だけだった。

彼がそこにいるだけで、ロザリアには救いだった。

彼女は何もなくても彼さえいれば良かった。


彼はもう自分は騎士ではないと言ったが、身分の事など彼女にとっては些末なことだった。

ロザリアにとって、彼はいつでも、いつまでも身分にかかわらず自分だけの騎士だったから。

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