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10.アーロンの追憶Ⅰ
しおりを挟むどうして私は病気は治せないのかしら・・・。
怪我だったら、どんなものでもすぐに治せるのに・・・。
私だってアーロンの役に立ちたいのに、いつも私が助けてもらってばかりだわ・・・。
ベッドに眠ったまま目を覚まさないアーロンの寝顔を見つめながら、ロザリアはため息をついた。
◇
彼は昔の夢を見ていた。
十七歳で騎士の試験に合格したばかりの彼は、近衛騎士に配属された。
近衛といえば出世頭で鼻も高かったが、彼は自分が幼い王女の専属になるのだと聞いたときは外れくじを引かされたのだと思った。
王女は、その兄である王太子と比べ、国王夫妻からの扱いに雲泥の差があるという。
王太子自身も彼女を冷遇しているという。
その理由は、彼女が冷たく我儘な性格だからなのだと、臣下の間では専らの噂だった。
けれど、騎士団長であったアーロンの父は、「私が知るロザリア様はそんな方ではない。何が本当で信じるべきものなのかお前自身の目で見極めてみろ」と彼に言った。
尊敬している父はそう言ったけれども、正直、王女に初めての挨拶に行くのは彼にとって気が重かった。
庭園の一角で彼女が待っていると聞き、そこへ向かおうとしたが、王家の庭園は広く迷路のようで、はじめてそこを訪れる者にはある種手厳しい場所だった。
曲がり角を間違えた彼は迷ってしまった。
約束の時間に間に合わなくなりそうだと、焦って彷徨っていると、彼の前に銀色の髪の少女が現れた。
そして、透き通るような藤色の瞳でアーロンを見上げた。
「こっちよ、来て」
彼女はこの庭園を知り尽くしているらしく、迷いなく緑の中を進んでいく。
にこにこと可愛らしく笑いながら、彼の手を引いて走る彼女は、まるで花の妖精のようだった。
これから自分の仕える主がこんな方だとしたら良かったのに・・・。
彼は、これからこの少女と別れて、王女の元に行かなくてはならない事を考えると憂鬱になった。
だが、それは杞憂だった。
ティーセットが乗ったテーブルの前までやってきた少女は立ち止まって、口を開いた。
「ここでずっと待っていたのだけれど、なかなか来てくれないから私から探しに行ってしまったわ。あなたが今日から私の騎士になってくれるのでしょう?」
「?」
「私の名前は、ロザリア。あなたの名前を教えて?」
運命は彼の味方だった。
彼に姉妹はいなかったが、まるで妹のように可愛らしい彼女を、彼女に冷たいという本当の兄の代わりに、自分が慈しんで守ってやりたいと彼は思った。
アーロンはその日から彼女に忠誠を誓った。
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