12 / 29
11
しおりを挟む
屋敷に戻ったカノンは一人思案していた。
バートンとの話し合いで、このまま引き延ばせば延ばすほど二人にとって良くないのだから、すぐにでも彼女に全てを伝えるべきだと言われ、自身でも納得したものの、どこからどう話を切り出せば良いものかわからなかった。
せめて、出来ることだけでもと思い、周囲の者に掛けていた魅了だけは解いてみたが、それ以上のことは何も出来ずにいた。
記憶がない彼女に、いきなり前世がどうのと話しても、気が違っているのではないかと疑われでもしたら・・・と思うととても冷静ではいられなかった。
ならば、先に正体を明かすにしても、今まで妹だと思っていた者が、得体も知れぬ男だとわかったら・・・それでも、彼女は自分を傍に置いてくれるだろうかという恐れ。
だが、きっと彼女はそんな些末な事は気にしないでくれる筈だという期待。
それ以上に、つらい記憶を思い出させて、彼女を苦しめたくないという思い。
何より、昔から腕っ節ばかりで、気の利いたことを思いつくことが出来ず、大切な存在を守りきれなかった自分自身がもどかしかった。
様々な考えが、頭の中に浮かんでは消えてを繰り返し、カノンは上手く考えをまとめることが出来なかった。
「これだけ待ち続けて、ようやくまた出会えたというのに・・・こんなに近くにいるのに・・・なんて、あなたは遠いのだろう」
◇
王宮でのある日の午後。
王に呼び出され、話を聞いた宮廷魔術師バートンは、平静を装いながらも内心穏やかではいられなかった。
「舞踏会の夜にお主と話しておったブラン家の令嬢だ。名は何と言ったか・・・」
「エレーヌ嬢・・・でしょうか?」
「実に興味深い令嬢だ。魔術師としてお主も気になったのではないか、あの夜、身に着けていたのは魔蚕のドレスであろう?」
「はい・・・恐らく」
(目敏い方だ・・・)
「私は長らく、いつかあれを見てみたいと思っていたのだ。だが、ほとんど伝説に近いもので、本当に存在するのかどうかさえ話半分という代物。まさか、現物を目にすることができるとは思ってもみなかった!
こんなことが稀にある故に、この耐えがたい程につまらない王座にも少しは価値があると思えるものだ。
お主が令嬢と話しているのを横目に、気になって仕方がなかったのだが、あの日は下らないが蔑ろにはできぬ付き合いの為に席を外すことがかなわなくてな・・・」
この時代、魔族の殆どは別の大陸に移動し、魔力を持った人間は一部の貴族や王族に限られていた。
この国の王は、その僅かなうちの一人だった。
そして、彼は魔術史の研究に精通する、無類の魔道具の収集家でもあった。
その実、立場上、仕方なく王位を継承したが、本人はその地位に対して何の執着も持たぬ自由人な性質の人間だった。
「エレーヌ嬢も魔道具に興味があるのだろうか?今度、あらためてかの令嬢をここへ呼び、お主も交えて魔道具の話をしようではないか。出来れば譲ってもらえれば最高だが・・・」
「はぁ・・・」
(ずいぶん面倒な事になってしまったようですよ・・・カノン様)
バートンとの話し合いで、このまま引き延ばせば延ばすほど二人にとって良くないのだから、すぐにでも彼女に全てを伝えるべきだと言われ、自身でも納得したものの、どこからどう話を切り出せば良いものかわからなかった。
せめて、出来ることだけでもと思い、周囲の者に掛けていた魅了だけは解いてみたが、それ以上のことは何も出来ずにいた。
記憶がない彼女に、いきなり前世がどうのと話しても、気が違っているのではないかと疑われでもしたら・・・と思うととても冷静ではいられなかった。
ならば、先に正体を明かすにしても、今まで妹だと思っていた者が、得体も知れぬ男だとわかったら・・・それでも、彼女は自分を傍に置いてくれるだろうかという恐れ。
だが、きっと彼女はそんな些末な事は気にしないでくれる筈だという期待。
それ以上に、つらい記憶を思い出させて、彼女を苦しめたくないという思い。
何より、昔から腕っ節ばかりで、気の利いたことを思いつくことが出来ず、大切な存在を守りきれなかった自分自身がもどかしかった。
様々な考えが、頭の中に浮かんでは消えてを繰り返し、カノンは上手く考えをまとめることが出来なかった。
「これだけ待ち続けて、ようやくまた出会えたというのに・・・こんなに近くにいるのに・・・なんて、あなたは遠いのだろう」
◇
王宮でのある日の午後。
王に呼び出され、話を聞いた宮廷魔術師バートンは、平静を装いながらも内心穏やかではいられなかった。
「舞踏会の夜にお主と話しておったブラン家の令嬢だ。名は何と言ったか・・・」
「エレーヌ嬢・・・でしょうか?」
「実に興味深い令嬢だ。魔術師としてお主も気になったのではないか、あの夜、身に着けていたのは魔蚕のドレスであろう?」
「はい・・・恐らく」
(目敏い方だ・・・)
「私は長らく、いつかあれを見てみたいと思っていたのだ。だが、ほとんど伝説に近いもので、本当に存在するのかどうかさえ話半分という代物。まさか、現物を目にすることができるとは思ってもみなかった!
こんなことが稀にある故に、この耐えがたい程につまらない王座にも少しは価値があると思えるものだ。
お主が令嬢と話しているのを横目に、気になって仕方がなかったのだが、あの日は下らないが蔑ろにはできぬ付き合いの為に席を外すことがかなわなくてな・・・」
この時代、魔族の殆どは別の大陸に移動し、魔力を持った人間は一部の貴族や王族に限られていた。
この国の王は、その僅かなうちの一人だった。
そして、彼は魔術史の研究に精通する、無類の魔道具の収集家でもあった。
その実、立場上、仕方なく王位を継承したが、本人はその地位に対して何の執着も持たぬ自由人な性質の人間だった。
「エレーヌ嬢も魔道具に興味があるのだろうか?今度、あらためてかの令嬢をここへ呼び、お主も交えて魔道具の話をしようではないか。出来れば譲ってもらえれば最高だが・・・」
「はぁ・・・」
(ずいぶん面倒な事になってしまったようですよ・・・カノン様)
16
あなたにおすすめの小説
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
転生者と忘れられた約束
悠十
恋愛
シュゼットは前世の記憶を持って生まれた転生者である。
シュゼットは前世の最後の瞬間に、幼馴染の少年と約束した。
「もし来世があるのなら、お嫁さんにしてね……」
そして、その記憶を持ってシュゼットは転生した。
しかし、約束した筈の少年には、既に恋人が居て……。
【完結】サポートキャラって勝手に決めないで!
里音
恋愛
私、リリアナ・モントン。伯爵令嬢やってます。で、私はサポートキャラ?らしい。
幼馴染で自称親友でヒロインのアデリーナ・トリカエッティ伯爵令嬢がいうには…
この世界はアデリーナの前世での乙女ゲームとやらの世界と同じで、その世界ではアデリーナはヒロイン。彼女の親友の私リリアナはサポートキャラ。そして悪役令嬢にはこの国の第二王子のサリントン王子の婚約者のマリエッタ・マキナイル侯爵令嬢。
攻略対象は第二王子のサリントン・エンペスト、側近候補のマイケル・ラライバス伯爵家三男、親友のジュード・マキナイル侯爵家嫡男、護衛のカイル・パラサリス伯爵家次男。
ハーレムエンドを目指すと言う自称ヒロインに振り回されるリリアナの日常。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
多人数の視点があり、くどく感じるかもしれません。
文字数もばらつきが多いです。
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる