27 / 29
26
しおりを挟む
「何を考えている、人の王よ」
何か裏があるのではないかと思い、怪訝な表情で返すカノン。
「魔術史を学んだ私は、以前から、いつか伝承にある『西の王子』が現れたならば、この地を本来の持ち主である王子に返すべきだと考えてきたのです。
そうして、自分に向いていない国王など辞め、何ものにも囚われず、自由にひとりの学者として探求の旅に出たいと秘かにずっと願ってまいりました。立場上、表立って口にすることは出来ずとも、それは私の悲願だったのです!そして今、私の前にあなたが現れた」
国王はどこか夢見るような表情で語った。
「王位に未練はないのか?」
「私にとって、自由の価値に勝るものはありません」
「・・・確かに、王となれば背負うものも多い・・・自由を求めるお前の心情も理解できる。だが、私もかつて王子だったとはいえ、一度は国を棄てた者。そして、今はようやく再会が叶ったエレーヌと誰にも邪魔されずに過ごしたい・・・」
国王から話を聞いたカノンは、彼の性根がただの自由を求める一研究者なのだと理解したうえで、なるべくならその願いを叶えてやりたいとも思った。
彼は玉座に座るには善良すぎて辛いのだろうとも感じた。
だが、愛する存在を失い傷心の末に、義務も権利も全てを投げ出し、世捨て人のような生活を長く送ってきた自分に、再び権力者の座など相応しくないという思いもあった。
そして、何より、自分が王位につけば、また愛しい人を権力と陰謀の世界に巻き込み喪ってしまうかもしれないという事に対しての恐れが強かった。
ここで半端な慈悲をかけたせいで、また彼女を失くしてしまったら今度こそ耐えられそうにない。
「悪いが、お前の願いを聞いてやることは・・・」
◇
「殿下・・・そろそろ下ろしてください」
カノンの腕の中から、エレーヌが恥ずかしそうに声をあげた。
「エレーヌ・・・」
カノンは名残惜し気に、壊れ物でも扱うように、彼女を自らの腕から下した。
「先ほどから、お話を伺っていたのですが、国王陛下のお願いを聞いて差し上げることは出来ないのですか?」
エレーヌからの問いに、カノンは困ったような顔をした。
「それは・・・王というのは存外難しく面倒なもので、真面目にやろうと思えば、あなたと過ごす時間が無くなってしまう・・・かと言って、いい加減にすれば民が苦しむ・・・」
「今の話を聞いたら、殿下は善き王になれそうな気がしますけれど・・・」
「王になれば、力を持てば、意図しない様々な思惑に曝されるのです・・・あなたも良く知っているでしょう。私はそうやって、またあなたを失ってしまうかもしれない事が何よりも恐ろしい・・・」
カノンは苦し気な顔でそう吐露したが、それを聞いたエレーヌは微笑んだ。
「理由は私の事だけですか?優しいあなたは、本当は国王陛下の願いを叶えて差し上げたいと思っていらっしゃるのでしょう?
だとしたら、あなたには私のせいで立ち止まってほしくはありません。私はもうずいぶん長い間、あなたの足を止めてしまった・・・。
殿下なら・・・私が知っているカノンなら、民を慈しむ立派な王になれると思うのです。今の私には何の力もありませんが、それでも、そんなあなたを傍で支えたいのです!
それに、もう簡単にあなたの前から消えたりしませんから・・・」
「しかし・・・」
「もしもの時は、きっとあなたが助けてくださるのでしょう?」
カノンは観念したように言った。
「わかりました・・・。あなたが傍にいてくれて、そして、そのあなたが私が王になることを望むなら・・・私はあなたの思いに応えたい」
カノンは国王の方に向き直ると、為政者の顔をして告げた。
「お前の願いを聞き入れよう」
何か裏があるのではないかと思い、怪訝な表情で返すカノン。
「魔術史を学んだ私は、以前から、いつか伝承にある『西の王子』が現れたならば、この地を本来の持ち主である王子に返すべきだと考えてきたのです。
そうして、自分に向いていない国王など辞め、何ものにも囚われず、自由にひとりの学者として探求の旅に出たいと秘かにずっと願ってまいりました。立場上、表立って口にすることは出来ずとも、それは私の悲願だったのです!そして今、私の前にあなたが現れた」
国王はどこか夢見るような表情で語った。
「王位に未練はないのか?」
「私にとって、自由の価値に勝るものはありません」
「・・・確かに、王となれば背負うものも多い・・・自由を求めるお前の心情も理解できる。だが、私もかつて王子だったとはいえ、一度は国を棄てた者。そして、今はようやく再会が叶ったエレーヌと誰にも邪魔されずに過ごしたい・・・」
国王から話を聞いたカノンは、彼の性根がただの自由を求める一研究者なのだと理解したうえで、なるべくならその願いを叶えてやりたいとも思った。
彼は玉座に座るには善良すぎて辛いのだろうとも感じた。
だが、愛する存在を失い傷心の末に、義務も権利も全てを投げ出し、世捨て人のような生活を長く送ってきた自分に、再び権力者の座など相応しくないという思いもあった。
そして、何より、自分が王位につけば、また愛しい人を権力と陰謀の世界に巻き込み喪ってしまうかもしれないという事に対しての恐れが強かった。
ここで半端な慈悲をかけたせいで、また彼女を失くしてしまったら今度こそ耐えられそうにない。
「悪いが、お前の願いを聞いてやることは・・・」
◇
「殿下・・・そろそろ下ろしてください」
カノンの腕の中から、エレーヌが恥ずかしそうに声をあげた。
「エレーヌ・・・」
カノンは名残惜し気に、壊れ物でも扱うように、彼女を自らの腕から下した。
「先ほどから、お話を伺っていたのですが、国王陛下のお願いを聞いて差し上げることは出来ないのですか?」
エレーヌからの問いに、カノンは困ったような顔をした。
「それは・・・王というのは存外難しく面倒なもので、真面目にやろうと思えば、あなたと過ごす時間が無くなってしまう・・・かと言って、いい加減にすれば民が苦しむ・・・」
「今の話を聞いたら、殿下は善き王になれそうな気がしますけれど・・・」
「王になれば、力を持てば、意図しない様々な思惑に曝されるのです・・・あなたも良く知っているでしょう。私はそうやって、またあなたを失ってしまうかもしれない事が何よりも恐ろしい・・・」
カノンは苦し気な顔でそう吐露したが、それを聞いたエレーヌは微笑んだ。
「理由は私の事だけですか?優しいあなたは、本当は国王陛下の願いを叶えて差し上げたいと思っていらっしゃるのでしょう?
だとしたら、あなたには私のせいで立ち止まってほしくはありません。私はもうずいぶん長い間、あなたの足を止めてしまった・・・。
殿下なら・・・私が知っているカノンなら、民を慈しむ立派な王になれると思うのです。今の私には何の力もありませんが、それでも、そんなあなたを傍で支えたいのです!
それに、もう簡単にあなたの前から消えたりしませんから・・・」
「しかし・・・」
「もしもの時は、きっとあなたが助けてくださるのでしょう?」
カノンは観念したように言った。
「わかりました・・・。あなたが傍にいてくれて、そして、そのあなたが私が王になることを望むなら・・・私はあなたの思いに応えたい」
カノンは国王の方に向き直ると、為政者の顔をして告げた。
「お前の願いを聞き入れよう」
19
あなたにおすすめの小説
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
転生者と忘れられた約束
悠十
恋愛
シュゼットは前世の記憶を持って生まれた転生者である。
シュゼットは前世の最後の瞬間に、幼馴染の少年と約束した。
「もし来世があるのなら、お嫁さんにしてね……」
そして、その記憶を持ってシュゼットは転生した。
しかし、約束した筈の少年には、既に恋人が居て……。
学園は悪役令嬢に乗っ取られた!
こもろう
恋愛
王立魔法学園。その学園祭の初日の開会式で、事件は起こった。
第一王子アレクシスとその側近たち、そして彼らにエスコートされた男爵令嬢が壇上に立ち、高々とアレクシス王子と侯爵令嬢ユーフェミアの婚約を破棄すると告げたのだ。ユーフェミアを断罪しはじめる彼ら。しかしユーフェミアの方が上手だった?
悪役にされた令嬢が、王子たちにひたすらざまあ返しをするイベントが、今始まる。
登場人物に真っ当な人間はなし。ご都合主義展開。
【完結】土壇場で交代は困ります [おまけ1話更新]
himahima
恋愛
婚約破棄⁈いじめ?いやいや、お子様の茶番劇に付き合ってる暇ないから!まだ決算終わってないし、部下腹ペコで待ってるから会社に戻して〜〜
経理一筋25年、社畜女課長が悪役令嬢と入れ替わり⁈ 主人公は口が悪いです(笑)
はじめての投稿です♪本編13話完結、その後おまけ2話の予定です。
【完結】シロツメ草の花冠
彩華(あやはな)
恋愛
夏休みを開けにあったミリアは別人となって「聖女」の隣に立っていた・・・。
彼女の身に何があったのか・・・。
*ミリア視点は最初のみ、主に聖女サシャ、婚約者アルト視点侍女マヤ視点で書かれています。
後半・・・切ない・・・。タオルまたはティッシュをご用意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる