この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

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20話

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 それは放課後の静寂を切り裂くように、突然始まった。

 ノア・クロス学園都市、中央棟近くの人工庭園区域。
 陽光が斜めに射す芝生の広場で、生徒たちの歓声が断ち切られる。

 「なんだ……?」

 俺――文哉が異変に気づいたのは、空気が変わったからだ。
 風の音が、急に重く、冷たくなった。ざわり、と草が鳴る。
 そしてその向こうから、歩いてくる影が一つ。

 黒髪の少女だった。
 黒曜石のように硬質な眼差しと、整った顔立ち。
 制服ではなく、戦闘スーツ――否、あれはバイオギアか……?

 「これは……強制起動……?」

 見たことのない構造。白と金、そして聖緑。
 咲き誇るような花弁型の粒子を纏いながら、少女は足を止めた。

 「空は……青いな」
 その声は、澄んでいて、どこか乾いていた。

 次の瞬間、彼女の背から聖剣型の粒子ブレードが閃いた。
 意図は明白。これは“襲撃”だ。

 「避難しろ! ここから離れ――!」

 言い終える前に、爆風。地面が割れる。

 俺はすぐさま、バイオギアを起動した。

 〈アカツキ=バーンブレイカー〉
 炎の如く燃える紅の光と共に、俺の身体に装甲が纏われる。
 手に収まるのは、火炎剣《グレイモア=バーン》。
 咆哮のようなブースト音と共に、俺は少女――と対峙した。

 「お前……一体、何者だ?」

 「私はノノ。この世に戦いを為すためだけに作られたもの。
  人と名乗るには、少しばかり血が足りぬ」

 その笑みは、寂しさを隠すようで、冷たい。

 「文哉様、後退を!」
 遠くで護衛科の誰かが叫ぶ声がする。だが俺は首を振った。

 「いや、これは俺が受ける。逃げ場のない攻撃を止められるのは――ここにいる、俺だけだ!」

 ノノは静かに構えを取った。
 両手には聖剣型の実体ブレード。まるで舞うような構え。
 バイザーの奥の瞳が、俺を映し込む。

 「ならば……君に、試練を与える。私の剣で、君の心を問う」

 その刹那、ノノが消えた。

 高速移動。見失うほどの加速から、真正面に斬撃。

 「チッ――!」

 俺もすぐに反応し、火炎ブレードで受け止める。
 火花が散り、二つの剣が空中で火と光を交差させた。

 「君の剣には、迷いがある」
 ノノはそう言い、滑るように背後に回り込む。

 「迷いのない剣なんて……怖いだけだろ!」

 回し蹴りで牽制し、距離を取る。
 バーナーブーストで上空へ。俺は、全身の力を込めて構え直した。

 「だったら、俺は――“迷ったままでも、守る”って決めたんだ!」

 バーンチャージ、最大解放。
 俺の全身から、赤熱の粒子が放たれる。

 ノノの瞳が、わずかに見開かれた。

 「ほう……面白い。ならば、それが折れるまで試させてもらおう」

 交差する剣撃。
 衝撃波が周囲の木々をなぎ倒し、地面が裂ける。

 熱と光の中で、俺は全力でノノの刃を受け止めた。
 だが、彼女は一切、力を緩めない。

 「私は、生まれて初めて……自分の意思で剣を振っている気がする。
  君という存在が、私の……何かを、揺らした」

 その一言に、俺は――心のどこかが、揺れた。

 それでも、負けるわけにはいかない。

 「こい、ノノ!」

 「応じよう。これは、私の生を刻む戦いだ!」

 剣が、ぶつかる。
 光が、砕ける。
 バイオギアの粒子が舞い、金の花弁が空に散る。

 ――そして。

 「……ッ!」

 俺の剣が、彼女の胸元をかすめた。
 だが、トドメを刺すその瞬間。

 「また会おう。赤き剣士よ」

 ノノの姿は、粒子の残光を残して消えた。

 残された俺は、ただ拳を握る。

 (……あれは、何なんだ? 本当に、人間なのか……?)

 けれど、どこかで確かに感じていた。
 あの瞳に宿った一瞬の熱を。
 彼女もまた――何かを、求めている。

 ノノの姿が粒子の中に消えた瞬間――

 重く淀んだ空気が、ようやく破られた。

 芝生の広場。辺り一帯には焦げた匂いと、バイオギアの粒子がまだ漂っていた。
 倒壊しかけた木々、えぐれた地面、熱で波打つ空気。
 数秒の静寂の後、どこからともなく悲鳴と駆け寄る足音が響き始める。

 「――文哉くん!」

 真っ先に声を張り上げたのは、桜葉梨羽だった。
 ポニーテールを風になびかせ、駆けてくる姿はいつもよりずっと真剣で――焦りに満ちていた。

 「無事!? 怪我してないよね!? ねえ、ちょっと、顔見せて!」

 「大丈夫……動けるし、ちゃんと立ってるよ」

 そう答えても、梨羽は息を荒げたまま、俺の胸元に突っ込んできた。

 「バカぁ……っ、心配させないでよ……本気で、死んじゃったかと思った……!」

 ぐいっと俺のシャツを掴む手が震えている。
 それを見て、俺もようやく実感した。
 ――俺は、本当に死ぬかもしれなかったのだと。

 「……でも、逃げなきゃもっと誰かが傷ついた。だから、やるしかなかったんだ」

 「そんなの知ってるよ……でも、でもさ……!」

 涙を堪えるように顔を伏せた梨羽の背に、そっと手を添える。

 その後ろから、息を切らしながら駆けつけた影がもう一つ。

 「……文哉……」

 柊真帆だった。
 スケッチブックも持たず、制服のまま――息を切らして立ち尽くしていた。

 「怖かった……本当に、怖かったんだよ。あんな、殺意に満ちた……女の人が、文哉に、剣を向けて……!」

 言葉に詰まり、震える手を胸元に押し当てる。
 普段の彼女からは想像できないほど、声が大きく、涙ぐんでいた。

 「真帆……」

 「わたし……っ、絵に描きたいんじゃない。ずっと見てたいんだ、文哉の……生きてる顔を……!」

 その声に、梨羽がふと振り返り、ぴくりと何かを感じ取るように表情を強張らせた。

 「……アンタも、来るんだ……」

 「……うん。来たよ。だって……好きだから」

 短くて率直な真帆の言葉は、逆に強い。

 空気が張り詰めた、ほんの一瞬――

 「おいおい、修羅場じゃないよな、これ……」

 場の空気をやや和らげたのは、海里しずくだった。
 ジャケットを脱ぎ、肩にかけたまま、顔には安堵と皮肉が混ざったような笑みを浮かべていた。

 「とりあえず、無事でよかった。あんな化け物、あたしでも対応できたか自信ないよ。あんな粒子の散らし方……尋常じゃなかった」

 「しずく……お前は……」

 「一応、文哉の護衛なんだからさ。こんなときぐらい、気の利いたこと言わなきゃね」

 軽口を叩きつつも、その眼差しは真剣だった。

 そして、最後に姿を現したのは――黒崎美苑だった。

 制服のまま、だが風紀委員の腕章が汚れもせずに光っている。
 顔は冷静を装っているようで、その奥に張り詰めた怒りが滲んでいた。

 「文哉様……あのような無法者を、独断で迎撃なさったのですか」

 「……すまない。でも、他に方法が――」

 「いいえ。責めているのではございません。ただ……ただ――」

 彼女はふいに視線を落とし、唇を噛んだ。

 「……もし、文哉様が倒れていたらと思うと……この胸が、張り裂けそうでした」

 普段の凛とした姿からは想像できない、小さく震える声だった。

 「美苑……」

 「わたくしは、風紀を守る者……そして、文哉様の貞操監視官。
  けれど……いまはそれ以上に、ただの一人の……あなたを想う、女ですわ」

 その言葉に、梨羽と真帆が同時にぴくりと反応し、しずくは目を細めた。
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