この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

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33話

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 街路灯のない裏路地を、黄と黒の残光が切り裂いた。

 メタリックイエローのバイオギア〈リファイン=カレント〉が、ビルの影を縫うように跳躍し、廃ビルの屋上から屋上へと風のように駆ける。その背には、浮遊するドローンユニットが低く唸りを上げ、目標の位置を補足していた。

 プティの眼差しは、遠くに赤く染まり始めた空を見据えたまま険しい。

 (間に合わない……早く戻らなきゃ……)

 彼女の胸中をよぎるのは焦りと苛立ち。そして、残された“使命”に対する執着だった。

 だがその瞬間、彼女の眼前に、夜の帳を割るように黒と金の影が降り立った。

 「ストップ、プティ。……ここから先には行かせないよ!」

 鋭く響いた声の主は、漆黒のバイオギア〈オブシディアン=ヴェノム〉を纏った少女――海里しずく。

 薄い金のラインを脈動させるその装甲は、彼女の意思の強さを象徴するかのように地を打ち鳴らす。背中のナノブレードウィングが展開し、闇夜に毒のような光の尾を残す。

 プティは目を細め、吐き捨てるように笑った。

 「……へぇ。邪魔するの、アンタ?」

 「うん、当然でしょ。あたし、文哉くんを守るって決めたから」

 「フン。名前を出すとは思ったけど……やっぱり、男のためなのね」

 プティのバイザーが赤く瞬き、同時にドローンユニットが展開――戦闘態勢に入った。

 しずくも応じるように、脚部の推進装置から黒煙状のエネルギーが漏れ、アスファルトをえぐるような轟音が響いた。

 次の瞬間、空間が切り裂かれる。

 二つの機体が激突し、火花が散る。ナノブレードとドローンアームが絡み合い、音速を超える格闘が狭い路地で展開された。

 だが、衝突の一瞬、プティはふっと距離を取り、息を吐く。

 「……ねぇ、そんなに男を必死に守って。バカみたい」

 「何を言ってるの?」

 「アンタたち、ほんと何も知らないのね」

 プティの声色が低く、冷たくなった。

 「この辺り……今夜中に、ある“スパイ”が撒くのよ。あんたの“大事な人”だけが死ぬウイルス」

 しずくの目が、見開かれた。

 「……っ、なに、それ……!」

 「男だけに効く設計。身体を蝕み、脳を焼く。人類の“至宝”は、あっけなく死ぬの。学園も、あの男も」

 「そんな……!」

 しずくは、無意識に文哉の顔を思い出す。護衛として、女として、彼の側にいると決めた――その全てが、黒く崩れ落ちるような恐怖だった。

 だが――

 「なら、なおさら……!」

 しずくは一歩、前に出る。

 「ここで、アンタを止めなきゃダメだってことだよね」

 プティは嘲笑し、低く言った。

 「止められるならね、小娘」

 再び火花が散った。

 黒と黄が交錯し、夜の空気が悲鳴を上げる。
 戦場のただ中で、しずくの胸にあるのはただ一つ――“守る”という決意だけだった。


✿✿✿✿

─戦況は、あまりにも一方的だった。

 「くっ……!」

 歪んだ軌跡を描きながら襲いかかるコアーの〈ファングエッジ・ツインクロー〉を、文哉が辛うじて刃で受け止める。だが、受け止めたはずの瞬間、圧力が数段階に変調し、装甲に亀裂が走る。

 「チッ……!」

 左腕の装甲が音を立てて剥がれた。ダメージは骨にまで到達していた。痛みと熱が皮膚の奥から滲み出す。

 「甘いのよ。その程度の覚悟で、“創造主”に届くとでも?」

 獣のように笑うコアー。彼女の〈セレスト=ファングレア〉は、むしろ戦うほどに研ぎ澄まされていくかのようだった。
 猛獣の咆哮が響き、ファングレア・ラッシュが再展開される。

 「ッ──!」

 逃げ場はない。文哉は身体を盾にして、背後の真帆を守るように飛び込んだ。

 そして、次の瞬間──

 ズガァンッッッ!!!

 烈火のような衝撃波が文哉を直撃し、〈アカツキ=バーンブレイカー〉の全装甲が一斉に点滅する。胸部ユニットが爆ぜ、推進翼は焼け落ち、複眼バイザーは砕け散った。
 そのまま彼の身体は吹き飛び、部屋の隅へと叩きつけられた。

 「──っ! 文哉くんっ!!」

 叫ぶ真帆の声も届かない。文哉のバイオギアは半壊し、彼の意識はその場で断ち切られていた。

 赤い光が収まり、空間が沈黙に包まれる。

 そして、残されたのは──ただ一人。

 〈ファム=ヘヴィリオン〉をまとった、柊 真帆だった。

 呼吸が乱れる。血が滲む。
 でも、彼女は逃げなかった。

 「……よく立っていられるわね。男に媚びて生きてきた、無力な雌にしては上出来よ」

 そう言ってコアーは、悠然と歩み寄ってきた。

 「……どうして……あなたは……そこまで、男を憎むの……」

 真帆の問いに、コアーはその唇をひどく歪めて笑った。

 「……ああ、知りたい? じゃあ教えてあげる。これは、女の革命なのよ」

 彼女は右手のブレスレットをいじりながら、ゆっくりと語り出した。

 「私が開発した遺伝子適合技術。ホムンクルスのベース理論も、バイオギアの神経接続も、全部、私が生み出したの。でもね、それが世に出たとき──“男が開発した”ことにされたのよ。理由? そんなの簡単。女は男より下だから。たった、それだけ」

 目を細めたコアーの瞳は、異様なほど透明で──底がなかった。

 「それだけで私は消され、成果は奴らに奪われた。そして気づいたの。女は、男の下にいる限り、ずっと道具でしかないってことにね」

 真帆は、かすかに拳を握りしめた。

 「でも、それって……あなたが本当に望んだ未来じゃないはず……!」

 「……なに?」

 「私は……彼の、文哉くんといるんじゃない……
 文哉くんの“横”に、立ちたいって思ったから──だから私は、戦ってる……!」

 声は震えていた。全身が痛みに軋んでいた。
 でも、真帆の瞳は、まっすぐだった。

 コアーの顔から、一瞬だけ、表情が消えた。

 そして──

 「……愚かね。そんな“幻想”で、生き延びられると思ってるの?」

 ファングクローが再展開された。殺意に満ちた軌道が、真帆を貫こうとする。

 真帆は、目を閉じた。

 「──お願い、文哉くん……」

 そして、自身の〈ファム=ヘヴィリオン〉の最大出力を解放する。
 キャノンユニットが赤熱し、胸部のパルスコアが焼け爛れるまで輝き──

 撃った。

 ──自爆に等しい距離から、最大火力で放たれる直撃砲。

 爆風が空間を貫き、コアーの姿すら包み込む。

 崩落する天井。火花を散らす有機配線。機械の悲鳴のような音が響く中、真帆は崩れ落ちるように膝をついた。

 ──そして、煙が晴れる。

 そこに立っていたのは、微塵も傷を負っていない、〈セレスト=ファングレア〉の姿だった。

 コアーの唇が、まるで憐れむように、静かに笑う。

 「……無駄よ」

 真帆の視界が、滲んだ。
 焼けた装甲の下、皮膚が裂け、血が滲んでいた。

 それでも──彼女の瞳には、まだ光が残っていた。
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