『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます

エリモコピコット

文字の大きさ
24 / 52

第24話:何もしない一日と甘い特権

しおりを挟む

 体の痛みは引いたけれど、私の心はまだ布団の中から出られずにいた。

「……やる気が出ない」

 窓の外は快晴。でも、指一本動かしたくない。いわゆる「燃え尽き症候群」というやつだ。昨日の今日で、精神的な疲れがどっと出ているらしい。

「エリス姉、村長さんが来たよー」

 モコの声で、私は渋々玄関に向かった。

「昨日は本当にありがとうございました。これは村からの感謝でしてな」

 村長さんが差し出したのは、籠いっぱいの贈り物。

「おや? 驚かれましたかな」

 中身を見た瞬間、私の目がカッと見開かれた。

「こ、これは……『鶏の卵』と『新鮮なミルク』!?」

「いえいえ、昨日の働きに比べれば安いものですよ。滋養がつきますから、ぜひ食べてください」

 この世界では、どちらも貴重なタンパク源だ。その瞬間、私の脳内で「休息のためのレシピ」が組み上がった。

「よし。今日は全力で『ダラダラするための努力』をするよ!」

   † † †

 まずは腹ごしらえだ。私は保存しておいた、カチカチに硬くなったパンを取り出した。そのまま食べたら歯が欠けそうなやつだ。

「これを、さっきの卵とミルク、あと少しの砂糖を混ぜた液に浸します」

「パンがびちゃびちゃになっちゃうわよ?」

 ピコが不安そうに見ている。

「乾燥したパンほど、水分をよく吸うの。スポンジと同じ原理だよ」

 たっぷりと卵液を吸わせて、パンがずっしりと重くなったところで、フライパンへ。貴重なバター(以前、ミルクから分離させて作った虎の子だ)を溶かす。

 ジュワワワワァ……。

 甘くて濃厚な香りが、部屋中に爆発した。

「んん~っ! いい匂い!」

 モコが尻尾を振ってコンロに張り付く。両面に綺麗な焦げ目がついたら、お皿に盛り付け。仕上げに、森で採っておいた「ハチミツ」をトロ~リとかける。

「完成! 『黄金のフレンチトースト』!」

「「いただきまーす!」」

 モコが大きな一口を頬張る。

「はふっ……んぐっ! ……あまーーーーい!!」

 モコが頬を押さえて悶絶した。

「なにこれ! パンじゃないよ! プリンみたいにプルプルで、甘くて、幸せの味がする!」

「……ん。悔しいけど、疲れが吹き飛ぶわね」

 ピコも目を細めて、ナイフで切り分けている。

「糖分は脳のガソリンだからね。疲れた時は甘いものに限るよ」

 カチカチだったパンが、卵とミルクの力で極上のスイーツに変わる。口いっぱいに広がるバターのコクと、ハチミツの甘さ。私たちは無言で、甘い特権を堪能した。

   † † †

 お腹が満たされた後は、メインイベントだ。私は丈夫な布とロープを持って庭に出た。

「エリス姉、何するの?」

「『究極のおひるね装置』を作るの」

 庭の木と木の間隔を見繕い、ロープを渡す。結び方は「巻き結び(クローブ・ヒッチ)」。体重がかかっても解けにくく、木への負担も少ない。そこに布の両端を固定すれば——。

「完成! 特製『ハンモック』!」

 私はさっそく、布の上にゴロンと寝転がった。ゆら~り、ゆら~り。木漏れ日が揺れ、風が通り抜ける。地面の硬さも感じない。

「……最高」

 意識が溶けそうだ。

「ズルイ! モコも乗る!」

 ドサッ!モコが遠慮なく飛び乗ってきた。

「ぐえっ。ちょ、ちょっとモコ、狭いってば」

「……ふん。そんな不安定な布切れ、何がいいのよ」

 ピコが腕を組んで見ている。でも、尻尾がウズウズしているのが丸わかりだ。

「ピコちゃんも、おいでよ」

「……っ。ま、まあ? 乗り心地のテストくらいなら、してあげてもいいけど?」

 ピコがおずおずと足をかけ、コロンと転がり込んできた。

 その瞬間だった。

 ミシッ……。

 不穏な音が、頭上の枝から聞こえた。三人の動きが止まる。

「……ねぇエリス。今の音、なに?」

「……定員オーバーの警告音かな」

 冷静に考えれば、育ち盛りの三人分だ。合計で100キロは超えている。即席の支柱が耐えられるわけが——。

 バキィッ!!

「「「きゃああああああっ!?」」」

 視界が回転し、私たちは団子状態になって地面に転がり落ちた。

「いったぁ……」

「もう! だから言ったじゃない!」

 ピコが怒って、モコの背中の上でジタバタしている。その様子がおかしくて、私は吹き出してしまった。

「あははは! やっぱり三人じゃ無理だったかぁ」

「笑い事じゃないよぉ~」

「……はぁ、もう……しょうがないわね」

 モコもつられて笑い出す。空を見上げると、青い空と新緑が眩しかった。地面に寝転がったまま、私はふと思った。

(……でも、このハンモック、支柱を太くすればいけるかも)

(庭の柵も、もっと頑丈な組み方があるはず)

 甘いものを食べて、大笑いして。空っぽだった心に、少しずつエネルギーが戻ってくるのを感じた。

「……よし!」

 私は立ち上がり、服の泥を払った。

「明日から『リフォーム計画』始動だよ! 庭も家も、もっと良くしてやるんだから!」

「おー!」

   † † †

 翌朝。昨日のハンモック騒動で耕された庭の片隅に、小さな新しい芽が出ていた。季節はもうすぐ、暑くて賑やかな夏を迎えようとしていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~ 【書籍化決定!】 本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました! 第1巻は10月下旬発売! よろしくお願いします!  賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。  その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。  一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。  こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

処理中です...