『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます

エリモコピコット

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(幕間・モコ視点)冷たい泥とお日様の匂い

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 三月。森には、もう花が咲き始めていた。

 でもモコの世界は冬のままだった。

 お腹が空いて、目が回る。 地面から生えてきた草を食べようとして、一歩踏み出した時だった。

 ガチンッ!!

 足首に、焼けるような痛みが走った。錆びついた鉄の罠(トラバサミ)。

 冬の間、雪の下に隠されていたそれが、雪解けと共に牙を剥いたんだ。

「……ぅ、あ……」

 痛い。寒い。春の風は、濡れた体には氷みたいに冷たい。

  傷口から流れる血が、泥に吸われていく。鉄の匂いと、土の匂い。

(……これで、終わり?)

 遠い記憶。父ちゃんと母ちゃんがいた村も、魔物に燃やされた。

  赤い炎。逃げ惑う熱さ。一人ぼっちになってから、ずっと震えていた気がする。

  誰にも見つからないように、息を殺して隠れて生きてきた。

 まぶたが重い。森の木々が、風でザワザワと笑っている。 

 『お前はいらない子だ』って、言われてる気がした。

  ごめんね。弱くてごめんね。

 体を丸めて、冷たい泥の中で目を閉じた……。

 † † †

「……しっかりして!」

 遠くで、誰かの声がした気がした。春風よりも、ずっと優しい声。

 目を開けようとしたけれど、重くて開かない。ただ、凍りついた足に、「ふわっ」とした温かい光(まほう)が吸い込まれていくのが分かった。

  痛みが、少しだけ遠ざかる。そのあと、体がふわりと浮いた。

(……あったかい)

 それは、冷たい泥の感触じゃなかった。誰かの背中。トクトクと、優しい音が聞こえる場所。

 いい匂いがした。 薬草の匂いと、お日様みたいな匂い。 夢心地の中で、その「温かいなにか」にギュッとしがみついた。

 ここから離れたら、また寒い場所に戻っちゃう。だから、離さないで。祈りながら、深い眠りに落ちていった……。

 † † †

 次に目を覚ました時、目の前に湯気が立っていた。 桜色の髪をした女の子が、お椀を差し出している。

『ふふっ。ちょうど出来たところだよ』

 夢じゃなかった。一口飲むと、野菜の甘い味が口いっぱいに広がった。

『おいしい……あったかい……』

 涙が止まらなくなった。ただのスープなのに。体が心が解けていく。

 怖かった。

 怪我が治ったら、「役立たずはいらない」って捨てられるのが怖かった。 

 だから、必死で働こうとした。

 でも、エリス姉は怒った。 そして、ギュッと抱きしめてくれた。

『捨てないよ。何もしなくても、絶対に捨てない』 『家族だよ』

 その時、モコの中の長い冬が終わった。 

 この人は、モコが見つけた、世界でたった一つのお日様だ。

 † † †

 チュン、チュン。  小鳥の声で目が覚める。

 鼻をくすぐるのは、冷たい泥の匂いじゃない。  乾燥した藁(わら)の香ばしい匂いと、エリス姉の甘い匂い。

「……んぅ」

 隣を見る。エリス姉が、無防備な顔で寝ている。 その向こうには、あの生意気な猫(ピコ)が丸くなっている。

 足を見る。 傷跡はもう残っていない。

 この足があったから、昨日は地面を強く踏ん張れた。大きな丸太を支えて、エリス姉を守り切れたんだ。

(……えへへ)

 モコは布団の中で、小さく尻尾を振った。窓の外は、本当の春。

  でも、この家の中はもっと温かい。

「……エリス姉、おはよう」

 まだ夢の中にいるエリス姉に、小さく囁く。

  今日は森で、美味しいものを探そう。 

 春の森には、ご馳走がいっぱいだから。 エリス姉をびっくりさせて、いっぱい褒めてもらうんだもん!
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