『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます

エリモコピコット

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第45話:糸紡ぎ棒と眠くなる午後

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 11月に入ると、空気がぐっと冷たくなってきた。

 朝起きると、窓ガラスに霜がびっしり。吐く息も白い。

「さむーい……」

 モコが布団から顔だけ出して、ぷるぷる震えている。

「起きて起きて。今日は糸作りをするよ」

「いとー?」

「うん。フェルトで帽子とか作ったでしょ? 残りの羊毛で糸を作って、織物にするの」

「織物! マフラーとか!?」

「そうそう」

 モコがパッと目を輝かせて、布団から飛び出してきた。

  † † †

 糸を作るには、羊毛をねじりながら細く伸ばしていく必要がある。

「手だけでやると大変だから、道具を作ろう」

「道具?」

「うん。糸紡ぎ棒っていうの。棒をクルクル回すと、糸がねじれていくんだ」

 私が説明すると、トトがコクリと頷いた。

「……作る。どんな形?」

「えっと……細い棒の下に、丸い重りがついてるの。重りが回り続けることで、糸がねじれていく仕組み」

「……重り」

 トトが少し考え込んだ。

「鉄だと重すぎるかも。……粘土でいい?」

「うん、それでいこう!」

 私たちは早速、作業に取りかかった。

 まず、トトが納屋から真っ直ぐな木の棒を選んできた。

 指の太さくらいの、しっかりした枝だ。

「……これ、乾いてる。折れない」

「さすがトトちゃん」

 次に、重りを作る。

 私は粘土をこねて、ドーナツ型に成形した。

「この穴に棒を通すの。重りが下にあることで、棒が安定して回り続けるんだよ」

「へぇー!」

 モコが興味津々で見つめている。

 成形した粘土を、囲炉裏のそばでじっくり乾かす。

 その間に、棒の先端に小さな切り込みを入れた。

「ここに糸を引っ掛けるの」

 しばらくして、重りが乾いた。

 棒を穴に通して……完成だ。

「おおー! できた!」

 シンプルだけど、これが糸紡ぎ棒——スピンドルだ。

  † † †

 暖炉の前で、糸紡ぎを始めた。

「まず、羊毛をちょっとだけ引き出して……」

 私は毛の束から少しだけ繊維を引き出して、スピンドルの先に絡ませた。

「こうやってクルッと回すと……」

 スピンドルをクルクルと回す。

 重りの力で棒がくるくる回り続け、その勢いで繊維がねじれていく。

「おおー! ねじれてる!」

「でしょ? これを繰り返すと、糸ができるよ」

 クルクル、クルクル。

 スピンドルが静かに回り続ける。

 ねじれた繊維を少しずつ引き出していくと、だんだん細い糸になっていった。

「すごーい! 糸だ!」

「やってみる?」

「うん!」

 モコに棒を渡すと、嬉しそうにクルクル回し始めた。

「あっ、からまった!」

「ゆっくりゆっくり。焦らなくていいよ」

「んー……こう?」

 モコが真剣な顔でスピンドルを回している。

 尻尾まで一緒にクルクル回っているのが可愛い。

  † † †

 しばらくすると、みんなでスピンドルを回すようになった。

 私とモコが交代で糸を紡ぎ、トトは羊毛をほぐす係。

 ピコは……暖炉の前で丸くなっていた。

「ピコ、手伝わないの?」

「……見守り役よ」

 目を細めて、ウトウトしている。

 クルクル……クルクル……。

 スピンドルの回る音と、暖炉のパチパチという音だけが部屋に響く。

「……んー」

 気がつくと、ピコは完全に眠っていた。

 猫耳がピクピク動いている。

「ピコ、寝ちゃったね」

 モコがクスクス笑う。

「……ボクも、眠い」

 トトまでウトウトし始めた。

「ちょっとちょっと、みんな起きてよー」

 私が笑いながら言うと、モコが首を振った。

「だって、あったかいし……音が気持ちいいし……」

「それに、エリス姉が糸を紡いでるの見てると、なんか安心するんだもん」

 モコが暖炉の前でゴロンと横になった。

「モコ、ちょっとだけ目を閉じる……」

 そう言って、あっという間に寝息を立て始めた。

「……もー」

 私は苦笑しながら、スピンドルを回し続けた。

 クルクル……クルクル……。

 みんなが寝てしまっても、スピンドルだけは静かに回り続ける。

  † † †

 窓の外を見ると、木の葉がハラハラと落ちていた。

 赤や黄色の葉が、風に乗って踊っている。

(秋も終わりだなぁ)

 暖炉の火がパチパチと爆ぜる。

 ピコとモコとトトが、気持ちよさそうに眠っている。

 私は糸を紡ぎながら、この穏やかな時間に浸っていた。

 クルクル……クルクル……。

 スピンドルの音が、時計みたいにゆっくりと時を刻む。

 糸が少しずつ巻き取られていく。

 ふわふわで温かい糸。

 これで、冬の間に織物を作ろう。

 マフラーとか、膝掛けとか。みんなで使えるものがいい。

「……ふふ」

 私はスピンドルを回しながら、窓の外を見つめた。

 外は寒くなってきたけど、この部屋は温かい。

 みんながいて、やることがあって、作りたいものがある。

 それだけで、冬なんて怖くない。

 クルクル……クルクル……。

 スピンドルの音が、静かな午後に溶け込んでいく。

 私は糸を紡ぎながら、穏やかな幸せに包まれるのだった……。
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