52 / 52
第48話:凍る野菜と床下のむろ
しおりを挟む朝起きると、窓の外が白くなっていた。
霜だ。ガラスの代わりに張った油紙にも、うっすらと氷の結晶がついている。
「さむさむ……」
私は毛布にくるまりながら、棚に並んだ保存食を眺めた。燻製ベーコン、ジャムの壺、乾燥させた野菜たち。
(これだけあれば、冬は乗り越えられる……はず)
でも、一つだけ心配なことがあった。
「ねえ、みんな。ちょっと相談があるんだけど」
朝食の後、私は暖炉の前に集まったみんなに切り出した。
「なーに? エリス姉」
モコが首を傾げる。
「保存食のことなんだけど……外に置いておけないかなって思ってたの」
「外? 寒いから冷蔵庫みたいになるってこと?」
ピコが片眉を上げた。
「そう。外気で冷やせば、野菜も長持ちするかなって」
「いいんじゃない?」
ピコがあっさり賛成した。モコも尻尾を振っている。
でも、私はふと手を止めた。
「……待って」
「どうしたの?」
「冬って、外のほうが寒いよね」
「当たり前じゃない」
「ってことは……野菜が凍っちゃう!」
私は頭を抱えた。
そうだ。冷蔵庫は「冷やす」けど「凍らせない」のがポイントだ。でも真冬の外気は氷点下。ジャガイモも人参も、カチカチに凍って、解凍したらグズグズになってしまう。
「やばい、全滅しちゃう……」
「ど、どうするのエリス姉!?」
モコが慌てた。
私は必死に考えた。凍らない温度で、でも腐らない程度に冷たい場所……。
「地下だ」
「地下?」
「うん。地面の下って、年中ほぼ同じ温度なの。夏は涼しくて、冬は凍らない」
私は床を指差した。
「だから、床の下に穴を掘って、そこに野菜を入れれば……」
「凍らないし、腐らない!」
モコが目を輝かせた。
「そういうこと。むろって言うんだよ」
† † †
早速、床板を外して、作業開始だ。
「よーし、モコがんばるー!」
モコが気合を入れて、土に手を突っ込んだ。
ザクッ。ザクッ。ザクッ。
素手なのに、土がザクザク掘れていく。
「モコー! いい調子!」
私が声をかけると、モコは振り返ってニコッと笑った。尻尾がブンブン回っている。
トトは黙ってモコの横に立つと、掘り出された土を両手ですくい始めた。
「……」
コクリと頷いて、外へ運んでいく。
誰に言われるでもなく、自然と役割分担ができていた。
ドサッ、ドサッ。
モコが掘る。トトが運ぶ。私も一緒に土を外へ出す。
ピコは暖炉のそばで、温かいお茶を準備していた。
「休憩したくなったら言いなさいよ」
そう言いながら、時々こっちをチラチラ見ている。尻尾がゆらゆら揺れていた。
† † †
お昼過ぎには、人が一人入れるくらいの穴ができていた。
深さは腰くらい。幅は両手を広げたくらい。
「ふぅー、できたー!」
モコが穴の中から顔を出した。全身泥だらけだ。
「お疲れ様、モコ。トトちゃんも」
(モコがいなかったら、こんなに早く終わらなかったなぁ。ありがたい)
私は穴の中に降りてみた。
ひんやりとした空気が、足元から這い上がってくる。
でも、外のような刺すような冷たさじゃない。
しっとりとした、生暖かい空気。
「ここ、外より暖かいね」
私がそう言うと、ピコが覗き込んできた。
「本当?」
「うん。触ってみて」
ピコがそっと手を伸ばす。
「……あら、ほんとだ」
耳がピクピク動いた。
「ここなら、野菜も安心だね」
私は穴から上がると、木箱を運んできた。
「ガラムさんに納品する木箱、しばらく使わないし……ここに置いちゃおう」
モコが木箱を穴の底に降ろす。
ドスン。
その上にもう一つ。
ドスン。
「よし、ぴったり」
木箱の中に、ジャガイモや人参を入れていく。藁を敷いて、その上に野菜を並べる。
「これで、冬の間も凍らないよ」
「やったー!」
モコが両手を上げた。
「よし、じゃあお部屋に戻ろうか。みんな汚れちゃったし」
私は床板を元に戻しながら、みんなを促した。
† † †
夕方。
私たちは暖炉の前に集まって、温かいスープを飲んでいた。
モコは濡れた布で身体を拭いて、すっきりした顔をしている。
「今日はたくさん働いたね」
「うん! モコ、いっぱい掘ったー!」
モコが胸を張った。
「トトちゃんも、ありがとね。土運び、すごく助かったよ」
「……ん」
トトが小さく頷いた。耳がピョコンと動く。
「ピコちゃんも、お茶の準備してくれてありがとう」
「べ、別に。アンタたちが勝手に疲れて倒れたら困るから準備しただけよ」
ツンとそっぽを向くピコ。
「ふふ。でもありがとね」
スープの湯気が、ふわりと立ち上る。
私はみんなの顔を見回しながらスープを啜って、穏やかな達成感に包まれるのだった……。
48
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい
鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~
【書籍化決定!】
本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました!
第1巻は10月下旬発売!
よろしくお願いします!
賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。
その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。
一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。
こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。
平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。
どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について
いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。
実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。
ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。
誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。
「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」
彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。
現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。
それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下
akechi
ファンタジー
ルル8歳
赤子の時にはもう孤児院にいた。
孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。
それに貴方…国王陛下ですよね?
*コメディ寄りです。
不定期更新です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続き楽しみに待ってます✨️((o(´∀`)o))✨️
スローライフやDIYモノが好きなので、小説家になろうで一気読みしました。続きを楽しみにしています。
ありがとうございます!うれしい!
一週間ぐらい前は余裕がなくて、なろうの方へ誘導してしまいましたが、
アルファポリス様でも今後は連載予定なのでよろしくお願いします!
めちゃくちゃ面白い!
続きが気になり、早速『小説家になろう』で全話読みました(。˃ ᵕ ˂。)
寒くなり、体に気を付けて、ムリせず頑張って下さい(,,ᴗ ̫ᴗ,,)ꕤ*.゚
わー!わざわざありがとうございました…!
これからも頑張って更新していきたいと思うのでよろしくおねがいします!₍⑅ᐢ.ˬ.ᐢ₎
みーさんもお体にお気をつけてくださいね