覇王に執着される傾国の男装騎士〜忘却の接吻を、愛しき宿敵へ〜

甘塩ます☆

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 アーサーは自室に籠もったが、ここはカイルの城だ。王であるカイルはマスターキーを使い、躊躇なく中へ入った。

「アーサー」

「……王たる者は、妃を娶り世継ぎを残すことも仕事のはずだ。それを全うできぬのであれば、私は貴方を王として認められない」

 背中を向けるアーサーの言葉に、カイルは感情を爆発させ、彼をベッドに押し倒した。 

「乱暴する気か? 私の身体は奪えても、心までは奪わせないぞ」

 アーサーは皮肉めいた笑みを浮かべ、カイルを嘲笑う。
 カイルは痛感していた。出会いがあまりに最悪すぎたと。もはや、取り返しはつかない。しかし、あの出会いがなければ、彼をこれほど深く愛することもなかっただろう。

「……分かった。エレーヌと婚約しよう。そして、世継ぎも残す。だが、それだけだ。彼女を愛することはない。俺が愛するのは、お前だけだ」 

 たとえ、それが報われない一方的な愛だとしても。
 カイルはアーサーの額に一度だけ口づけを落とすと、その拘束を解いた。

「お前の好きにするがいい。俺の傍らに居てくれるなら、何をしても構わない。俺を恨み、隙を見て命を狙ってもいいさ。ただ……俺の目の届く場所に居ろ」

 カイルはそれだけを告げると、逃げるようにアーサーの部屋を後にした。
 残されたベッドの上で、アーサーは波打つ胸を抑えた。
 カイルは折れたのだ。王としての義務を果たす代わりに、アーサーを「傍ら」という名の檻に閉じ込める道を選んだ。

(馬鹿な男だ。男を愛するなど……)

 今の自分にできることは何もない。
 いや、いっそ自分が女であると告げれば良いのかもしれない。彼は「男」である私を愛してしまっている。女だとバレれば、あるいは幻滅して興味を失ってくれるのではないか。
 それなのに、どうしても真実を言えないのは——。

「……これでいい。これで」

 自分に言い聞かせるように呟き、きつく締め上げていた晒しを解く。解放された胸の痛みよりも、心にぽっかりと空いた穴の痛みの方が、今の彼女には堪えた。





 数日後。
 城内はエレーヌ嬢との婚約成立の報に沸き立っていた。
 しかし、当事者であるカイルの瞳からは完全に光が消えていた。あの日を境に、彼はアーサーを「専属メイド」から「近衛騎士」の装いに戻させた。常に自分の背後、視界に入る場所に縛り付けておくために。


「陛下、エレーヌ嬢がお見えです。今夜の晩餐会の打ち合わせを……」

「……入らせろ」

 執務室に現れたエレーヌは、勝利者の笑みを浮かべていた。彼女はカイルのすぐ後ろに直立不動で控えるアーサーを、勝ち誇ったような目で見やる。

「カイル様、楽しみにしておりますわ。……ところで、そちらの騎士様は? いつまで貴方の側に置くおつもりかしら。不快ですわ」

「こいつは俺の影だ。寝所まで付き添わせる。……不満があるなら、今すぐその指輪を返せ」

 氷のように冷徹なカイルの言葉に、エレーヌは顔をひきつらせた。
 そんな険悪な空気の中、アーサーはただ無表情に、石像のように立ち続けていた。だが、視線の先でカイルの手が微かに震え、ペンを握る指先が白くなっていることに気づいてしまう。

(この男は、私を側に置くために、自らの心を削り続けている……)





 その夜。

 泥酔して自室に戻ったカイルの介抱を、唯一の入室を許されたアーサーが担うことになった。

「……アーサー……。お前が、女だったら……っ」

 カイルがうわ言のように、アーサーの手を握りしめた。その掌は酷く熱く、汗ばんでいる。

「お前が女なら……俺は、こんなに苦しまずに済んだ。お前を王妃として、誰に憚ることなく愛せたのに……」

 カイルの目から一筋の涙が溢れ、枕を濡らした。
 鉄の意志を持つはずの王が、寝物語に吐き出した本音。アーサーは彼の手を振り解くことができなかった。それどころか、無意識のうちにその熱い掌を包み込むように握り返していた。

「……申し訳ございません、カイル様」

 アーサーは、彼に届かないほどの細い声で囁いた。
 男である自分に興味が有るのだと思っていた。女性でも愛して下さるのか。
 自分が女性である事を認めてくれる。彼は唯一の人であったのに……
 自分が素直でないばっかりに、今更言ったところで遅いだろう。
 そもそも、彼と自分では身分に差があり過ぎる。周りからの目も良いものではないだろう。
 この想いは私の心の中にしまった方が良いのだ。

「私は女性だなんて……今更言えない」

 届くはずのない、孤独な告白。
 しかしその刹那、カイルの指がぴくりと動き、握りしめる力が強まった。

「……今、何と言った」

 カイルの目が、ゆっくりと開かれる。
 酒の熱を孕んだその瞳には、今まで見たこともないような、鋭く、そして狂おしいほどの光が宿っていた。
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