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「はぁっ、あ、カイル……カイル、さま……っ!」
アーサーは己の意志とは無関係に、カイルの名前を何度も呼び、その背中に縋り付いた。
脳を灼くような快楽の波が幾度も押し寄せ、内側を突き上げるたびに視界が真っ白に弾ける。カイルの激しい動きに翻弄されながら、彼女の身体は彼を受け入れるためだけに存在するかのように、熱く、しなやかにうねった。
「そうだ、アーサー。……俺だけを見ていろ。お前の初めても、その身体も、心も……すべて俺がもらう」
カイルの瞳は、狂おしいほどの愛着で潤んでいた。
彼はアーサーの腰をさらに深く抱え直し、彼女の最奥を貫くように最後の一突きを繰り出す。
「アーサー……っ! 愛している……!」
「あ、ああああぁぁっ……!!」
その瞬間、二人の間に閃光が走った。
アーサーの内側が限界までカイルを締め付け、熱い奔流が彼女の深奥へと注ぎ込まれる。アーサーもまた、カイルの首筋に顔を埋め、言葉にならない叫びを上げながら、かつてないほどの絶頂へと突き落とされた。
激しい息遣いだけが部屋に響く。
二人は繋がったまま、汗ばんだ肌を密着させ、互いの心音の速さを確かめ合うように重なっていた。
「……はぁ、はぁ。……アーサー」
カイルは、疲れ果てて目を潤ませるアーサーの髪を優しく撫で、そのこめかみに何度も口づけを落とした。その手つきには、先ほどまでの荒々しさは微塵もなく、ただ愛する者を尊ぶような慈しみだけが宿っていた。
「もう、何も怖がる必要はない。エレーヌとの婚約など、俺が責任を持って白紙にする。……誰が何と言おうと、俺の王妃はお前だけだ」
「……本気、なのですか。国を、敵に回しても?」
アーサーが震える声で問うと、カイルは彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、力強く頷いた。
「国など、お前一人を得るための代償に過ぎない。お前を『男』としてでも傍に置くと決めた時から、俺の覚悟は決まっていた。……それが、こうして女としてお前を抱けるなんて。神に感謝したいくらいだ」
カイルはアーサーの左手を取り、その薬指に誓いのようなキスをした。
「俺の騎士であり、唯一の愛しい妻になれ。お前の人生のすべてを、俺に預けてくれ」
アーサーの目から、一筋の涙が溢れた。
それは恐怖でも屈辱でもなく、あまりに重く、真っ直ぐな愛に触れた喜びの涙だった。
彼女はもう、彼を拒むことはできなかった。カイルの首に腕を回すと、自分からその唇にそっと重ねた。
「……馬鹿な、王様。……私も、貴方以外の主など、もう選べません」
かつての宿敵、そして今の唯一無二の恋人。
窓の外では夜が明け始め、新しい時代の光が、抱き合う二人の姿を静かに照らし出していった。
窓から差し込む朝陽が、絡み合ったまま眠る二人を優しく照らしていた。
カイルの胸の中で目を覚ましたアーサーは、あまりにも幸福な体温に、一瞬だけすべてを忘れそうになる。しかし、視界に入ったカイルの脱ぎ捨てられた上着と、その紋章が、彼女を残酷な現実へと引き戻した。
(……この人は、王なのだ。私一人のために、すべてを捨てさせていい人ではない)
エレーヌ嬢との婚約を破棄し、素性の知れぬ「男装の騎士」を王妃に据える。それがどれほどの波風を立て、彼を苦しめるか。アーサーには容易に想像がついた。自分との愛を選べば、カイルは「愛欲に溺れた暗君」として歴史に汚名を残すことになるだろう。
(愛している。だからこそ……私を忘れて、立派な王になってほしい)
アーサーは震える身体でベッドを抜け出し、先日カイルが買い与えてくれた山のような魔法具の中から、一つの小瓶を手に取った。
『忘却薬』――代償に術者の最も大切な記憶を一つ捧げることで、対象から特定の記憶を消し去るという秘薬。
「……すまない、カイル」
アーサーは薬を自らの口に含んだ。苦い液体が喉を焼くが、それ以上に心が痛い。
気配を察したのか、カイルがゆっくりと目を開けた。
「……アーサー? そんな格好でどうした、寒かろう。こちらへ……」
寝ぼけ眼で愛おしげに腕を伸ばすカイル。アーサーは最期の覚悟を決め、彼に覆いかぶさるようにして、その唇を塞いだ。
深い、深い、別れの口づけ。
カイルは驚きに目を見開いたが、すぐにアーサーからの情熱的な誘いだと思い込み、彼女の腰を抱き寄せようとした。しかし、口内に流れ込んできた異質な液体の味に、即座に違和感を抱く。
「……っ、ん、は……っ! アーサー、何を……何を飲ませた!!」
カイルは激しく咽せ込みながらアーサーを突き放した。視界が急速に歪み、意識が混濁し始める。彼は裏切られた衝撃と、嫌な予感に顔を歪め、執念でアーサーの手首を掴んだ。
「答えろ……っ、何を……俺から何を奪おうとしている……!」
「……貴方の、輝かしい未来を返しただけです。カイル様」
アーサーは涙を堪え、冷徹な騎士の顔に戻った。そして、意識が朦朧としているカイルの首筋へ、容赦なく鋭い手刀を叩き込んだ。
「なっ……あ……さ……」
カイルの手が力なく解け、彼はそのまま深い眠りへと落ちていく。
薬の効果が始まったのだ。明日、彼が目を覚ますとき、その記憶の中に「アーサー」という女の存在はもういない。
「……さようなら、私の唯一の主」
アーサーは乱れた服を整え、騎士服を纏うと、一度も振り返ることなくバルコニーから夜明けの街へと身を投げた。
背後で、カイルの寝息だけが静かに響いていた。
アーサーは己の意志とは無関係に、カイルの名前を何度も呼び、その背中に縋り付いた。
脳を灼くような快楽の波が幾度も押し寄せ、内側を突き上げるたびに視界が真っ白に弾ける。カイルの激しい動きに翻弄されながら、彼女の身体は彼を受け入れるためだけに存在するかのように、熱く、しなやかにうねった。
「そうだ、アーサー。……俺だけを見ていろ。お前の初めても、その身体も、心も……すべて俺がもらう」
カイルの瞳は、狂おしいほどの愛着で潤んでいた。
彼はアーサーの腰をさらに深く抱え直し、彼女の最奥を貫くように最後の一突きを繰り出す。
「アーサー……っ! 愛している……!」
「あ、ああああぁぁっ……!!」
その瞬間、二人の間に閃光が走った。
アーサーの内側が限界までカイルを締め付け、熱い奔流が彼女の深奥へと注ぎ込まれる。アーサーもまた、カイルの首筋に顔を埋め、言葉にならない叫びを上げながら、かつてないほどの絶頂へと突き落とされた。
激しい息遣いだけが部屋に響く。
二人は繋がったまま、汗ばんだ肌を密着させ、互いの心音の速さを確かめ合うように重なっていた。
「……はぁ、はぁ。……アーサー」
カイルは、疲れ果てて目を潤ませるアーサーの髪を優しく撫で、そのこめかみに何度も口づけを落とした。その手つきには、先ほどまでの荒々しさは微塵もなく、ただ愛する者を尊ぶような慈しみだけが宿っていた。
「もう、何も怖がる必要はない。エレーヌとの婚約など、俺が責任を持って白紙にする。……誰が何と言おうと、俺の王妃はお前だけだ」
「……本気、なのですか。国を、敵に回しても?」
アーサーが震える声で問うと、カイルは彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、力強く頷いた。
「国など、お前一人を得るための代償に過ぎない。お前を『男』としてでも傍に置くと決めた時から、俺の覚悟は決まっていた。……それが、こうして女としてお前を抱けるなんて。神に感謝したいくらいだ」
カイルはアーサーの左手を取り、その薬指に誓いのようなキスをした。
「俺の騎士であり、唯一の愛しい妻になれ。お前の人生のすべてを、俺に預けてくれ」
アーサーの目から、一筋の涙が溢れた。
それは恐怖でも屈辱でもなく、あまりに重く、真っ直ぐな愛に触れた喜びの涙だった。
彼女はもう、彼を拒むことはできなかった。カイルの首に腕を回すと、自分からその唇にそっと重ねた。
「……馬鹿な、王様。……私も、貴方以外の主など、もう選べません」
かつての宿敵、そして今の唯一無二の恋人。
窓の外では夜が明け始め、新しい時代の光が、抱き合う二人の姿を静かに照らし出していった。
窓から差し込む朝陽が、絡み合ったまま眠る二人を優しく照らしていた。
カイルの胸の中で目を覚ましたアーサーは、あまりにも幸福な体温に、一瞬だけすべてを忘れそうになる。しかし、視界に入ったカイルの脱ぎ捨てられた上着と、その紋章が、彼女を残酷な現実へと引き戻した。
(……この人は、王なのだ。私一人のために、すべてを捨てさせていい人ではない)
エレーヌ嬢との婚約を破棄し、素性の知れぬ「男装の騎士」を王妃に据える。それがどれほどの波風を立て、彼を苦しめるか。アーサーには容易に想像がついた。自分との愛を選べば、カイルは「愛欲に溺れた暗君」として歴史に汚名を残すことになるだろう。
(愛している。だからこそ……私を忘れて、立派な王になってほしい)
アーサーは震える身体でベッドを抜け出し、先日カイルが買い与えてくれた山のような魔法具の中から、一つの小瓶を手に取った。
『忘却薬』――代償に術者の最も大切な記憶を一つ捧げることで、対象から特定の記憶を消し去るという秘薬。
「……すまない、カイル」
アーサーは薬を自らの口に含んだ。苦い液体が喉を焼くが、それ以上に心が痛い。
気配を察したのか、カイルがゆっくりと目を開けた。
「……アーサー? そんな格好でどうした、寒かろう。こちらへ……」
寝ぼけ眼で愛おしげに腕を伸ばすカイル。アーサーは最期の覚悟を決め、彼に覆いかぶさるようにして、その唇を塞いだ。
深い、深い、別れの口づけ。
カイルは驚きに目を見開いたが、すぐにアーサーからの情熱的な誘いだと思い込み、彼女の腰を抱き寄せようとした。しかし、口内に流れ込んできた異質な液体の味に、即座に違和感を抱く。
「……っ、ん、は……っ! アーサー、何を……何を飲ませた!!」
カイルは激しく咽せ込みながらアーサーを突き放した。視界が急速に歪み、意識が混濁し始める。彼は裏切られた衝撃と、嫌な予感に顔を歪め、執念でアーサーの手首を掴んだ。
「答えろ……っ、何を……俺から何を奪おうとしている……!」
「……貴方の、輝かしい未来を返しただけです。カイル様」
アーサーは涙を堪え、冷徹な騎士の顔に戻った。そして、意識が朦朧としているカイルの首筋へ、容赦なく鋭い手刀を叩き込んだ。
「なっ……あ……さ……」
カイルの手が力なく解け、彼はそのまま深い眠りへと落ちていく。
薬の効果が始まったのだ。明日、彼が目を覚ますとき、その記憶の中に「アーサー」という女の存在はもういない。
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