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1 四年目の片想い
第六話
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引越しから二日、入学式が執り行われ、聖利は正式に高等部一年生となった。新しい校舎で新生活のスタートである。年度始めは忙しく、寮でもクラスでも決めることは多い。すぐに学力テストが行われるのも進学校ならではだ。部活はふた月以内に入部を決めるが、これも勉学優先とあらば必須ではない。
來との同室生活も、現時点ではすれ違い状態だ。聖利は部活見学や委員会見学、図書室や自習室での勉強で夕食ギリギリまで自室に戻らない。戻ってみれば、來はいないことの方が多い。少し拍子抜けではあるが、平和なスタートだ。
「楠見野聖利、十一秒五」
教師の声がタイムを告げる。聖利はゴールを駆け抜け、歩調を緩めながら振り向いた。
今日は体育テストだ。百M走は悪くないタイムである。勉強だけでなく運動もなるべくいい成績でありたい。子どもの頃は塾通いが忙しく、あまり運動が得意ではなかった。中学に上がってからは剣道部に所属し、積極的に運動に取り組むようにしている。
「聖利、速いじゃん。負けた」
知樹が声をかけてくる。友人の知樹はベータで、中等部で出会った頃は彼の方が背が高く、運動もできた。負けないように努力し、今はいい勝負ができるようになった。
「まあまあだよ」
「くそ~」
聖利は悔しがる友人に笑い返し、すぐに後ろを振り向いた。次に走るのは來だ。
手足を軽く動かしてから、來はだるそうにスタートポジションにつく。もうそれだけで雰囲気がある。クラスメートの視線が自然に來に集まる。彼には不思議とそういう魅力があるのだ。
ホイッスルが鳴りスタート。速い。躍動する体躯は野生の肉食獣のように力強くしなやかだ。
「はっや」
知樹が隣で呟く。聖利はごくんと知らず生唾を呑み込んだ。
「海瀬來、十秒八八」
教師の声にどよめきがおこる。陸上部の選手クラスのタイムだ。抜群に速い。
「このタイム聞いたら、運動部から勧誘が殺到しそうだな」
知樹の言う通りだが、学校生活に対し積極的ではない來が、進んで部活に入るとは思えなかった。すると、聖利の下へ來が近寄ってくる。大きな歩幅で、だるそうに歩いてくる姿は余裕があった。
「俺の勝ち?」
どうせタイムを聞いていて知っているくせに、からかうような口調で言ってくる。聖利はツンとした口調で答えた。
「そうみたいだな」
175センチの聖利からすると來の体躯も運動能力も羨ましい限りだ。スポーツの分野においては、どれほど鍛練しても來に遅れを取ってしまう。
しかも、來は張り合いたいわけじゃなく、聖利の対抗心を煽って遊びたいだけ。そこがまた腹立たしい。
「この後の1500Mでまた勝負してやろうか?」
「いちいち言わなくてもいい。中距離なら僕の勝ちだ」
「どうかな? 必死になって俺に勝とうとしてる聖利くんはかわいいねー」
しきりに煽ってくる。苛立つ聖利を宥めようと知樹が口を挟む。
「まあまあ、一昨日の学力テストは聖利が一位で海瀬が二位だろ? いいじゃん、おまえらうちの学年のツートップってことで」
聖利は知樹に向き直り、強い口調で言った。
「こいつと並べられるのは不快だ」
言ってから、知樹に八つ当たりしてしまったと気づき、小さく「ごめん」とつぶやいた。
「聖利はすぐにムキになるからお子様なんだよ。原沢、気にすんなよ」
來は笑ってその場を立ち去った。本当にいちいちムカつく男だ。
「海瀬もすぐに聖利をからかうから、お子様だと思うけどなぁ」
知樹が苦笑いをし、続けて言った。
「でも、海瀬が学年で一番心を開いてるのって聖利だよな」
「馬鹿なことを言うなよ。始終険悪なんだぞ」
「海瀬って、問題児っぽいし、勉強も運動もできるから近寄りがたいじゃん。中等部一年の頃はもうちょっと子どもっぽかったから、あいつを利用したいヤツが群がってたって印象。最近は、みんな遠巻きに見てるって感じ」
確かに來は迫力がある。アルファの持つ圧倒的なオーラが誰より似合い、事実その能力は抜きんでている。授業成績でこそ聖利が勝っているが、総合的な能力は來の方が上に思えてならない。そこがまた気に入らないのだが。
「でも、そんな海瀬が聖利だけは名前で呼んで近づいてくる。まあ、聖利ほど能力の高いアルファでなきゃ相手したくないんだろうってみんな考えてるけど」
「知樹にも話しかけてくるじゃないか、あいつ」
「聖利の友達だからだよ。海瀬にとってこの学校で一緒にいたいのは聖利くらいなんだよ」
「妙なこと言うなって。僕たちは真逆。まったく気が合わないよ」
聖利は知樹の言葉を一笑に付した。そんなはずない。來が聖利に心を開いているなら、もう少しまともな態度を示すはずだ。子どものようにからかってくることはせず、聖利を困らせたりしないはずだ。
來との同室生活も、現時点ではすれ違い状態だ。聖利は部活見学や委員会見学、図書室や自習室での勉強で夕食ギリギリまで自室に戻らない。戻ってみれば、來はいないことの方が多い。少し拍子抜けではあるが、平和なスタートだ。
「楠見野聖利、十一秒五」
教師の声がタイムを告げる。聖利はゴールを駆け抜け、歩調を緩めながら振り向いた。
今日は体育テストだ。百M走は悪くないタイムである。勉強だけでなく運動もなるべくいい成績でありたい。子どもの頃は塾通いが忙しく、あまり運動が得意ではなかった。中学に上がってからは剣道部に所属し、積極的に運動に取り組むようにしている。
「聖利、速いじゃん。負けた」
知樹が声をかけてくる。友人の知樹はベータで、中等部で出会った頃は彼の方が背が高く、運動もできた。負けないように努力し、今はいい勝負ができるようになった。
「まあまあだよ」
「くそ~」
聖利は悔しがる友人に笑い返し、すぐに後ろを振り向いた。次に走るのは來だ。
手足を軽く動かしてから、來はだるそうにスタートポジションにつく。もうそれだけで雰囲気がある。クラスメートの視線が自然に來に集まる。彼には不思議とそういう魅力があるのだ。
ホイッスルが鳴りスタート。速い。躍動する体躯は野生の肉食獣のように力強くしなやかだ。
「はっや」
知樹が隣で呟く。聖利はごくんと知らず生唾を呑み込んだ。
「海瀬來、十秒八八」
教師の声にどよめきがおこる。陸上部の選手クラスのタイムだ。抜群に速い。
「このタイム聞いたら、運動部から勧誘が殺到しそうだな」
知樹の言う通りだが、学校生活に対し積極的ではない來が、進んで部活に入るとは思えなかった。すると、聖利の下へ來が近寄ってくる。大きな歩幅で、だるそうに歩いてくる姿は余裕があった。
「俺の勝ち?」
どうせタイムを聞いていて知っているくせに、からかうような口調で言ってくる。聖利はツンとした口調で答えた。
「そうみたいだな」
175センチの聖利からすると來の体躯も運動能力も羨ましい限りだ。スポーツの分野においては、どれほど鍛練しても來に遅れを取ってしまう。
しかも、來は張り合いたいわけじゃなく、聖利の対抗心を煽って遊びたいだけ。そこがまた腹立たしい。
「この後の1500Mでまた勝負してやろうか?」
「いちいち言わなくてもいい。中距離なら僕の勝ちだ」
「どうかな? 必死になって俺に勝とうとしてる聖利くんはかわいいねー」
しきりに煽ってくる。苛立つ聖利を宥めようと知樹が口を挟む。
「まあまあ、一昨日の学力テストは聖利が一位で海瀬が二位だろ? いいじゃん、おまえらうちの学年のツートップってことで」
聖利は知樹に向き直り、強い口調で言った。
「こいつと並べられるのは不快だ」
言ってから、知樹に八つ当たりしてしまったと気づき、小さく「ごめん」とつぶやいた。
「聖利はすぐにムキになるからお子様なんだよ。原沢、気にすんなよ」
來は笑ってその場を立ち去った。本当にいちいちムカつく男だ。
「海瀬もすぐに聖利をからかうから、お子様だと思うけどなぁ」
知樹が苦笑いをし、続けて言った。
「でも、海瀬が学年で一番心を開いてるのって聖利だよな」
「馬鹿なことを言うなよ。始終険悪なんだぞ」
「海瀬って、問題児っぽいし、勉強も運動もできるから近寄りがたいじゃん。中等部一年の頃はもうちょっと子どもっぽかったから、あいつを利用したいヤツが群がってたって印象。最近は、みんな遠巻きに見てるって感じ」
確かに來は迫力がある。アルファの持つ圧倒的なオーラが誰より似合い、事実その能力は抜きんでている。授業成績でこそ聖利が勝っているが、総合的な能力は來の方が上に思えてならない。そこがまた気に入らないのだが。
「でも、そんな海瀬が聖利だけは名前で呼んで近づいてくる。まあ、聖利ほど能力の高いアルファでなきゃ相手したくないんだろうってみんな考えてるけど」
「知樹にも話しかけてくるじゃないか、あいつ」
「聖利の友達だからだよ。海瀬にとってこの学校で一緒にいたいのは聖利くらいなんだよ」
「妙なこと言うなって。僕たちは真逆。まったく気が合わないよ」
聖利は知樹の言葉を一笑に付した。そんなはずない。來が聖利に心を開いているなら、もう少しまともな態度を示すはずだ。子どものようにからかってくることはせず、聖利を困らせたりしないはずだ。
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