15 / 54
2 異変
第六話
しおりを挟む
勇気を出して軽くノックする。返事を待たずにドアを開けた。
そこには制服姿の來がいたゴールデンウィーク中は彼も実家にいたのだろうか。大きめのデイバッグがベッドの上に乗っていた。
聖利の顔を見て、來が切れ長の美しい眼を大きく見開いた。
「聖利……」
「來……先日は」
「身体はもういいのか?」
くい気味に尋ねられ、勢いで聖利は頷いた。
「ああ。どこも問題ない」
答えてから荷物のボストンバッグをベッドにおろし、あらためて來と向かい合った。真摯に見つめると、心臓がばくばくと大きな音をたてた。唇を引き結んで、がばっと頭を下げる。
「ヒート発作のときは本当にありがとう。おまえに助けられた。……それと、すまなかった」
フェロモンに影響されたとはいえ、自分たちは危ういところだった。來にとっては、所謂黒歴史になっているかもしれない。
「意に添わぬことをさせた。僕のフェロモンのせいだ。本当にすまない」
「あれはまあ、……仕方なくねぇ?」
來が髪を掻き上げ、視線を逸らして言う。
「俺の方こそ頭やばくなってたし。微妙に記憶飛んでるし……」
記憶が飛んでいる……。その言葉に安堵した。あんな痴態を覚えていてほしくない。
「な、聖利」
「なに……」
來が聖利をじっと見つめてくる。真剣なまなざしに不覚にも胸が高鳴ってしまった。
「おまえは俺のこと、怖くないか? 一緒の部屋で」
思わぬ質問に驚く。どうやら、來は気遣ってくれているようだ。
オメガを理由に寮三役に願い出れば、部屋は代えられるかもしれない。想い人と同室という緊張感から解放される。しかし、今の聖利には來との同室を解消したくない気持ちも芽生えていた。
近くにいたい。もう何も起こらなくても、來のそばにいたい。
「僕が來を怖く思うわけないだろ。それに、僕はまだオメガとしても完全じゃない。転化オメガは抑制剤がよく効くそうだし、薬さえ飲んでおけば今まで通り暮らせる。だから」
聖利は歩み寄って、來を見あげた。
「できれば、今まで通り接してほしい。特別扱いせずに」
「……当たり前だろ」
聖利の言葉に、來がにっと口の端を引き上げた。
「俺が張り合ってやった方が、優等生様はやる気でるみたいだし? それに、俺のお袋はオメガだ。バース差別なんかしねーよ」
「そうか。そうだったんだ。なんだか少し安心した」
気が緩み、思わず子どもみたいに笑ってしまうと、來が聖利の顔をじっと見下ろしてくる。次の瞬間顔を近づけ、うなじに鼻先をくっつけてきた。
「っ……!」
聖利は言葉にならない声をあげ、凍りついた。突然の接触だ。
しかし、すぐに來は顔を離し、無邪気に破顔した。
「うん、甘い匂いはしなくなってんな。俺、鼻が利くから、たまにチェックしてやるよ」
「ああ……そうか。親切にどうも……」
動揺を押し隠し、聖利は頷いた。やはり同室は心臓に悪い。來はまったくその気はないのに、自分ばかりが意識してしまって恥ずかしい。
「あと、いい機会だからスマホ教えとけ。なんかあったら飛んで行ってやる」
「來が? 期待してないが」
「ばーか。この前、聖利を抱えて走った俺は王子様みたいだったぞ」
「王子様……大きく出たな、おまえ」
ふざけた応酬をしながら、互いのスマホを取り出した。こんな些細な瞬間が嬉しい。
以前と変わらぬ関係に戻れそうだ。あのとき抱き合ってしまっていたら、きっと自分たちの未来は変わっただろう。
これでよかったのだ。あの朝の出来事は、早く忘れてしまおう。
そこには制服姿の來がいたゴールデンウィーク中は彼も実家にいたのだろうか。大きめのデイバッグがベッドの上に乗っていた。
聖利の顔を見て、來が切れ長の美しい眼を大きく見開いた。
「聖利……」
「來……先日は」
「身体はもういいのか?」
くい気味に尋ねられ、勢いで聖利は頷いた。
「ああ。どこも問題ない」
答えてから荷物のボストンバッグをベッドにおろし、あらためて來と向かい合った。真摯に見つめると、心臓がばくばくと大きな音をたてた。唇を引き結んで、がばっと頭を下げる。
「ヒート発作のときは本当にありがとう。おまえに助けられた。……それと、すまなかった」
フェロモンに影響されたとはいえ、自分たちは危ういところだった。來にとっては、所謂黒歴史になっているかもしれない。
「意に添わぬことをさせた。僕のフェロモンのせいだ。本当にすまない」
「あれはまあ、……仕方なくねぇ?」
來が髪を掻き上げ、視線を逸らして言う。
「俺の方こそ頭やばくなってたし。微妙に記憶飛んでるし……」
記憶が飛んでいる……。その言葉に安堵した。あんな痴態を覚えていてほしくない。
「な、聖利」
「なに……」
來が聖利をじっと見つめてくる。真剣なまなざしに不覚にも胸が高鳴ってしまった。
「おまえは俺のこと、怖くないか? 一緒の部屋で」
思わぬ質問に驚く。どうやら、來は気遣ってくれているようだ。
オメガを理由に寮三役に願い出れば、部屋は代えられるかもしれない。想い人と同室という緊張感から解放される。しかし、今の聖利には來との同室を解消したくない気持ちも芽生えていた。
近くにいたい。もう何も起こらなくても、來のそばにいたい。
「僕が來を怖く思うわけないだろ。それに、僕はまだオメガとしても完全じゃない。転化オメガは抑制剤がよく効くそうだし、薬さえ飲んでおけば今まで通り暮らせる。だから」
聖利は歩み寄って、來を見あげた。
「できれば、今まで通り接してほしい。特別扱いせずに」
「……当たり前だろ」
聖利の言葉に、來がにっと口の端を引き上げた。
「俺が張り合ってやった方が、優等生様はやる気でるみたいだし? それに、俺のお袋はオメガだ。バース差別なんかしねーよ」
「そうか。そうだったんだ。なんだか少し安心した」
気が緩み、思わず子どもみたいに笑ってしまうと、來が聖利の顔をじっと見下ろしてくる。次の瞬間顔を近づけ、うなじに鼻先をくっつけてきた。
「っ……!」
聖利は言葉にならない声をあげ、凍りついた。突然の接触だ。
しかし、すぐに來は顔を離し、無邪気に破顔した。
「うん、甘い匂いはしなくなってんな。俺、鼻が利くから、たまにチェックしてやるよ」
「ああ……そうか。親切にどうも……」
動揺を押し隠し、聖利は頷いた。やはり同室は心臓に悪い。來はまったくその気はないのに、自分ばかりが意識してしまって恥ずかしい。
「あと、いい機会だからスマホ教えとけ。なんかあったら飛んで行ってやる」
「來が? 期待してないが」
「ばーか。この前、聖利を抱えて走った俺は王子様みたいだったぞ」
「王子様……大きく出たな、おまえ」
ふざけた応酬をしながら、互いのスマホを取り出した。こんな些細な瞬間が嬉しい。
以前と変わらぬ関係に戻れそうだ。あのとき抱き合ってしまっていたら、きっと自分たちの未来は変わっただろう。
これでよかったのだ。あの朝の出来事は、早く忘れてしまおう。
257
あなたにおすすめの小説
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果
SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。
そこで雪政がひらめいたのは
「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」
アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈
ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ!
※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
【完結】ずっと一緒にいたいから
隅枝 輝羽
BL
榛名はあまり目立ったところはないものの、真面目な縁の下の力持ちとして仕事に貢献していた。そんな榛名の人に言えないお楽しみは、お気に入りのおもちゃで後ろをいじること。社員旅行の前日もア○ニーですっきりさせて、気の進まないまま旅行に出発したのだが……。
J庭57のために書き下ろしたお話。
同人誌は両視点両A面だったのだけど、どこまで載せようか。全部載せることにしましたー!
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
双子の兄になりすまし単位を取れと言われたが、おいおい何したらこんなに嫌われんの?
いちみやりょう
BL
長男教の両親のもとに双子の弟として生まれた柊木 紫(ひいらぎ むらさき)。
遊び呆けて単位もテストも成績も最悪な双子の兄、柊木 誠(ひいらぎ まこと)の代わりに男子校で学園生活を送ることに。
けれど、誠は逆に才能なんじゃないかというくらい学校一の嫌われ者だった。
※主人公は受けです。
※主人公は品行方正ではないです。
※R -18は保険です。
感想やエール本当にありがとうございます🙇
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる