21 / 54
3 学園でただひとりのオメガ
第六話
しおりを挟む
「聖利のことは、今でもまあまあ格好いいと思ってんぞ」
「いいよ、リップサービスは」
「違うって。オメガに転化したら、俺はきっと同じように平然とはしてられない。まあまあビビリだし」
らしくない告白に、聖利はくすっと笑った。
「來がビビリだったら、世界中の人間がビビリってことになるだろうな」
「おまえはすげーって言いたいの」
來の整った顔を見つめる。來もまた聖利の顔をじっと見ていた。
きっと恋人同士なら、この瞬間唇を重ねるのだろう。朝の光の中、互いしか瞳に映らない尊い一瞬。
しかし、ふたりの間に恋はない。聖利は視線をそらし、空気を変えるように言った。
「まあ、ライバルとしてはもう少し本気を出してもらわないと困るな。そこそこできないと、競争しても楽しくない。次の学力テストは、僕を脅かしてほしいもんだ」
「煽ってくるじゃん。わかったよ、もうちょっとだけ本気を出して遊んでやるっつうの」
「そう言って僕に負けるんだ。楽しみだよ」
ふたりは顔を見合わせ笑った。友人としてライバルとして。
「なあ、聖利って卒業後は都内に戻る? 実家そっちだろ? 大学は?」
不意に進路のことを聞かれ、聖利はわずかに言葉に詰まる。
「えっと、両親が海外でね。その頃、どこにいるかわからないけれど、両親のいる国の大学を受けようかと……。実はまだ決めていないんだ」
高校を出たら、來とは会う機会もなくなるだろう。まだそこまで先のことを考えたくないというのが本音だ。
「まあ、おまえの頭ならどこでも入れるだろうな。焦ることねーのか」
そう來は呟いてから、聖利の顔を覗き込んでくる。
「それなら俺と同じ大学行くか。帝立大」
「え!?」
急な誘いに頓狂な声をあげてしまった。帝立大は国内最難関の国立大学だ。修豊真船学園からも毎年何人も入学する。
「なんで、大学まで來と一緒なんだ」
内心、ものすごく嬉しい言葉に狼狽しながら必死に嫌そうな顔をしてみせる。
「俺と一緒だと張り合いがあって、やる気でるんだろ? 同じ理系だし」
「嫌だよ。大学までおまえの面倒を見たくない」
「あ、聖利、家事できないのか。だから、卒業後もひとり暮らしが不安で親元へ行くんだろ?」
からかわれているのだと思いつつ、「家事くらいできる」と答えておく。本当は掃除以外自信がなかったりする。
「俺とルームシェアすれば問題解決。俺、料理も洗濯もできるし。アイロンもかけられる」
「だから、この学校を出てまで來と一緒になんかいないよ!」
強気に言い切って、胸がずくんと疼いた。來はどういうつもりでこんなことを言うのだろう。落ち着け、きっといつものからかいだ。それなら、好意の欠片だって見せてはいけない。
「……來は僕のバース性を心配してくれているんだろう? だけど、抑制剤さえあれば通常の生活がおくれる身だ。心配しなくていい」
「心配っていうかな」
來が顔を寄せてきた。急な接近に心臓が慌ただしく鼓動を早める。首筋に來の顔が近づいた。吐息がかかる距離だ。
「たとえば、今俺がおまえの甘いフェロモンの匂いを感じているって言ったらどうだ?」
「え……そんなこと」
あるはずがない。抑制剤は効いている。血中の薬剤濃度は定期的に調べることになっているし、現に学園中のアルファの誰も匂い指摘したりしない。今ここにいる來以外。
「実はこの前嗅いだときも弱くだけど匂いは感じてた。俺の鼻が格別にいいのか。よほど、おまえとの相性がいいのか……」
相性がいい、その言葉に心臓がどくんとひとつ大きく鳴った。落ち着け。來は変な意味で言っていない。これは恋愛的な意味じゃない。
「俺みたいな鼻が利くアルファに出会ったら、そんなぬるいことを言ってらんねーと思う。しつこいヤツがあらわれたとき、俺が近くにいれば……」
「そうだとしても!」
言葉を遮るように言い、聖利は來を見つめた。強い口調で続ける。
「來には関係ないだろ」
聖利の拒絶的な言葉に、來は口の端を歪めて皮肉げに微笑んだ。
「まあ、そうだな。全部、俺のお節介」
そう言って無造作に新たなおにぎりの包みを剥がした。
「飯食って戻ろう」
「ああ……」
せっかく、すごく打ち解けたムードだったのに、と聖利は無念な気持ちになった。きつい言い方をしてしまったせいで、空気がおかしくなってしまった。
気まずいような恥ずかしいような、妙な心地の朝食はそうして終わった。
「いいよ、リップサービスは」
「違うって。オメガに転化したら、俺はきっと同じように平然とはしてられない。まあまあビビリだし」
らしくない告白に、聖利はくすっと笑った。
「來がビビリだったら、世界中の人間がビビリってことになるだろうな」
「おまえはすげーって言いたいの」
來の整った顔を見つめる。來もまた聖利の顔をじっと見ていた。
きっと恋人同士なら、この瞬間唇を重ねるのだろう。朝の光の中、互いしか瞳に映らない尊い一瞬。
しかし、ふたりの間に恋はない。聖利は視線をそらし、空気を変えるように言った。
「まあ、ライバルとしてはもう少し本気を出してもらわないと困るな。そこそこできないと、競争しても楽しくない。次の学力テストは、僕を脅かしてほしいもんだ」
「煽ってくるじゃん。わかったよ、もうちょっとだけ本気を出して遊んでやるっつうの」
「そう言って僕に負けるんだ。楽しみだよ」
ふたりは顔を見合わせ笑った。友人としてライバルとして。
「なあ、聖利って卒業後は都内に戻る? 実家そっちだろ? 大学は?」
不意に進路のことを聞かれ、聖利はわずかに言葉に詰まる。
「えっと、両親が海外でね。その頃、どこにいるかわからないけれど、両親のいる国の大学を受けようかと……。実はまだ決めていないんだ」
高校を出たら、來とは会う機会もなくなるだろう。まだそこまで先のことを考えたくないというのが本音だ。
「まあ、おまえの頭ならどこでも入れるだろうな。焦ることねーのか」
そう來は呟いてから、聖利の顔を覗き込んでくる。
「それなら俺と同じ大学行くか。帝立大」
「え!?」
急な誘いに頓狂な声をあげてしまった。帝立大は国内最難関の国立大学だ。修豊真船学園からも毎年何人も入学する。
「なんで、大学まで來と一緒なんだ」
内心、ものすごく嬉しい言葉に狼狽しながら必死に嫌そうな顔をしてみせる。
「俺と一緒だと張り合いがあって、やる気でるんだろ? 同じ理系だし」
「嫌だよ。大学までおまえの面倒を見たくない」
「あ、聖利、家事できないのか。だから、卒業後もひとり暮らしが不安で親元へ行くんだろ?」
からかわれているのだと思いつつ、「家事くらいできる」と答えておく。本当は掃除以外自信がなかったりする。
「俺とルームシェアすれば問題解決。俺、料理も洗濯もできるし。アイロンもかけられる」
「だから、この学校を出てまで來と一緒になんかいないよ!」
強気に言い切って、胸がずくんと疼いた。來はどういうつもりでこんなことを言うのだろう。落ち着け、きっといつものからかいだ。それなら、好意の欠片だって見せてはいけない。
「……來は僕のバース性を心配してくれているんだろう? だけど、抑制剤さえあれば通常の生活がおくれる身だ。心配しなくていい」
「心配っていうかな」
來が顔を寄せてきた。急な接近に心臓が慌ただしく鼓動を早める。首筋に來の顔が近づいた。吐息がかかる距離だ。
「たとえば、今俺がおまえの甘いフェロモンの匂いを感じているって言ったらどうだ?」
「え……そんなこと」
あるはずがない。抑制剤は効いている。血中の薬剤濃度は定期的に調べることになっているし、現に学園中のアルファの誰も匂い指摘したりしない。今ここにいる來以外。
「実はこの前嗅いだときも弱くだけど匂いは感じてた。俺の鼻が格別にいいのか。よほど、おまえとの相性がいいのか……」
相性がいい、その言葉に心臓がどくんとひとつ大きく鳴った。落ち着け。來は変な意味で言っていない。これは恋愛的な意味じゃない。
「俺みたいな鼻が利くアルファに出会ったら、そんなぬるいことを言ってらんねーと思う。しつこいヤツがあらわれたとき、俺が近くにいれば……」
「そうだとしても!」
言葉を遮るように言い、聖利は來を見つめた。強い口調で続ける。
「來には関係ないだろ」
聖利の拒絶的な言葉に、來は口の端を歪めて皮肉げに微笑んだ。
「まあ、そうだな。全部、俺のお節介」
そう言って無造作に新たなおにぎりの包みを剥がした。
「飯食って戻ろう」
「ああ……」
せっかく、すごく打ち解けたムードだったのに、と聖利は無念な気持ちになった。きつい言い方をしてしまったせいで、空気がおかしくなってしまった。
気まずいような恥ずかしいような、妙な心地の朝食はそうして終わった。
209
あなたにおすすめの小説
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果
SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。
そこで雪政がひらめいたのは
「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」
アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈
ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ!
※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
【完結】ずっと一緒にいたいから
隅枝 輝羽
BL
榛名はあまり目立ったところはないものの、真面目な縁の下の力持ちとして仕事に貢献していた。そんな榛名の人に言えないお楽しみは、お気に入りのおもちゃで後ろをいじること。社員旅行の前日もア○ニーですっきりさせて、気の進まないまま旅行に出発したのだが……。
J庭57のために書き下ろしたお話。
同人誌は両視点両A面だったのだけど、どこまで載せようか。全部載せることにしましたー!
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
双子の兄になりすまし単位を取れと言われたが、おいおい何したらこんなに嫌われんの?
いちみやりょう
BL
長男教の両親のもとに双子の弟として生まれた柊木 紫(ひいらぎ むらさき)。
遊び呆けて単位もテストも成績も最悪な双子の兄、柊木 誠(ひいらぎ まこと)の代わりに男子校で学園生活を送ることに。
けれど、誠は逆に才能なんじゃないかというくらい学校一の嫌われ者だった。
※主人公は受けです。
※主人公は品行方正ではないです。
※R -18は保険です。
感想やエール本当にありがとうございます🙇
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる