転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる

さち喜

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3 学園でただひとりのオメガ

第七話

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 どうしよう。
 聖利はここ三日ほどずっとそわそわとした気持ちでいる。
 先日、ふたりきりで朝食を屋外で取った日以来、聖利の意識は完全に來に向いている。
 來と過ごしたほんのひと時、笑い合ったこと、近い将来のこと……。打ち解けた空気を壊してしまったのは自分だったけれど、聖利の心には幸福以外なにものでもない朝がある。
 そうなると、同室、同じクラスというのは気まずくてならない。会えば、赤面しそうになるのを隠さなければならないし、浮かれた態度になっていないか心配になる。さらにはこんなときに限って來はあまり出かけず、寮の自室で鉢合わせてしまう。
 そういった場合、聖利はさりげなく居室を出るようにした。図書室や自習室に用事がある振りをしてふたりきりの空間に留まらないようにしている。
 來はからかいたいのか、会話のきっかけにしたいのか、部屋を出ようとすると声をかけてくるが、聖利はなるべく相手にしないようにしている。
 來の顔を見ていられない。ドキドキしてしまうし、変な態度を取ってしまう。
 中学三年間押し殺してきた気持ちが、死んでいないと声をあげる。あの朝の清浄で幸福な一瞬が恋の情念を彩って、心の火を大きくしてしまう。

「聖利、どこ行ってんの?」

 三日目のこの日も來に声をかけられ、聖利は振り向いた。來は半袖シャツにトラウザーズ、ベッドに腰かけ片手にはスマホだ。何の気なしに声をかけているのがわかる。聖利はつとめて冷静に答える。

「自習室に」
「勉強ばっか。全然部屋いねーじゃん」
「別におまえを邪魔に思っているわけじゃない。出ずっぱりの來が寮にいるのはいいことだと思っている」
「じゃあ、並んで仲良く勉強する?」

 來がからかう口調で笑い、腰かけていたベッドから立ちあがった。聖利は眉をひそめた。

「嫌だね」
「そっかよ。まあ、今日はこの部屋を譲るよ。俺はこれから出るから」

 來は財布とスマホを尻ポケットに入れて片手をあげた。また抜け出す気か。険しい顔を作り、聖利は來を見あげた。

「來、いい加減、素行を見直したらどうだ? 僕の体調の心配より、おまえは退学になる心配をした方がいい」
「なんない、なんない。聖利と卒業するから、大丈夫。でも、聖利が俺を心配してくれるのはなんかいいな。嫁みたいで」
「からかうな」

 怒る聖利の様子は意にも介さず、來は明るく笑って出て行ってしまった。
 まったく來ときたら、多少は気遣いのようなものを見せてくるかと思ったら結局これだ。ふらふらと無責任で、こちらの気持ちなんかお構いなしで。
 來に言われたことがつい頭をよぎる。
 同じ大学、ルームシェア……。それが軽い気持ちで言った言葉で、あくまで事情を知る友人としての提案でも心を揺さぶられてしまった。
 ふたりで暮らしたらどんな感じだろう。來は本当に家事ができるのだろうか。それとも、何かにつけて適当で自分は怒ってばかりだろうか。想像し、聖利は頬を緩めた。

「こんなふうにシャツを脱ぎ捨てて行くヤツに、家事ができるとか言われてもね」

 ベッドに放り投げてあるのは制服のシャツとベスト。先ほどまで着ていたそれらを拾い上げ、皺を伸ばすようにばさりと振るった。すると、鼻孔をくすぐったのは來の香りだ。

「ん……」

 身体の奥底がじんと甘く痺れる。思わず鼻に抜ける声が漏れ、聖利は驚いた。

「何、今の」

 手のひらがじわりと熱くなり、そこから熱が伝播していく。椅子にかけようと思っていたシャツとベストを手から離すことができない。

「駄目だ、こんなの」

 口ではそう言いながら、まるで來そのもののようにシャツとベストを抱き締めた。ぎゅっと腕で抱えると、來の香りが強くして目眩がした。心地よい陶酔感を覚える。
 身体の奥底がずくんずくんと疼くのに、心は甘く満たされ落ち着いていく。不思議な感覚だ。
 もっと、來の香りがほしい。
 抑えきれない欲が聖利を動かす。遠慮がちに來のベッドに腰かけ、思い切って横にぽすんと倒れて見る。枕やシーツから、來の香りがする。

「んん……駄目だって……こんなことしちゃ」

 抑えきれない。シャツもベストも枕も羽毛布団も抱え込み、聖利は丸くなった。鼓動、疼き、陶酔、悦楽。身体をあまやかな感覚が満たし、気づけば聖利の意識はなくなっていた。

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