23 / 54
3 学園でただひとりのオメガ
第八話
しおりを挟む
「……聖利、聖利」
呼ぶ声にゆるゆるとまぶたを持ち上げる。室内は暗い。開け放たれたカーテンから入る月光と口内の外灯の光で、自分を揺り起こしたのが來だと気づいた。
「らい……」
「聖利、おまえ……」
今は何時だろう。夕食はとっくに終わっているだろうし、シャワーも浴びそびれている。それにしても、來はどうして妙な顔をしているのだろう。
そこではっと聖利の意識は覚醒した。自分が來のベッドで來の衣服や寝具を抱え込んで眠っていたことに気づいたのだ。
「……っ! ご、ごめ……! つい」
聖利は飛び起き、転がるようにベッドを降りた。しかし、來に肩を掴まれ、ベッドに腰かけ直される。
「なあ、聖利、これって」
言われなくてもわかる。所謂オメガの巣作りだ。番や好意を持つアルファの身の回りのもの、とりわけ匂いの強いものを集めてしまう。オメガの精神的な安定に繋がる本能による行為だ。
発情期に起こるケースが多いと聞いている。しかし、抑制剤を持ってしてもこんなことをしてしまうなんて……。
「わ、悪い……。本当に……」
聖利は來の顔が見られずに必死に言い訳をする。
「抑制剤、効いているはずなのに……。僕、きっとまだ不安定なんだ。身近なアルファのおまえのフェロモンに反応してしまった……他意はなくて……」
「他意、あってもいいけど」
はっと來に顔を向けると、その表情を見る前に抱き寄せられた。鼻孔に直接飛び込んでくる來の香り。
ああ、これだ。聖利は一瞬にして満たされ、腰砕け状態で來に縋りついた。離れなければと頭で思うのに、身体はまったく言うことを利かない。
「オメガの本能だもんな。仕方ねぇよ」
來のささやく声。今、どんな顔をしているのだろう。どくんどくんと脈打つ身体が、來のすべてが自分にしみてくる。指が來の背に食い込んでいると思いながら、抱擁を緩められない。
「あー、やばい」
來が苦しげに呟き、いっそう強く聖利を抱き締めた。そのきついくらいの抱擁が心地よくてならない。性欲も身体の奥に確かに感じる。だけど、拮抗するように癒される優しい気持ちが溢れてくる。
「來、ごめん。落ち着いたから……。もう」
「全然落ち着いてねえだろ。めちゃくちゃ甘い匂いすんぞ」
うなじに頬ずりされ、はからずも甘い吐息が漏れ、身体が期待に打ち震えた。不完全なオメガなのに、首筋に彼の歯が突きたてられるのを期待している。そんな自分が確かにここにいる。
ほとんど首を差し出した状態で動かない聖利に、來が呻くように言った。
「くそ、可愛いことすんな。おまえ、ホント」
「可愛いとか……馬鹿にするなよ……」
來の苦しげな声は、本能に抗う声。來のためにも離れなければと思いつつ、聖利の文句にも力が入らない。
「聖利」
來が顔を覗き込んできた。來の目に情欲の光がある。それはアルファゆえの反応だ。それならば、やはり間違いが起きる前に抱擁を解くべきだ。
それなのに、聖利の身体は吸いついたように來の腕の中から離れられず、力が入らないのだ。
そんな聖利の様子をわかった上で、來の方からは抱擁を解いてくれない。
「このまま落ち着くまでこうしてる。緊急避難って思えよ。本能だ」
「駄目だ。アルファとオメガなんだから……」
「ヒートは起こってねえだろ? それなら、俺が我慢すりゃいい話」
甘くささやいて、來が聖利の額にキスをした。まるで、本物の恋人同士のような触れ方だった。
「もう一回眠れ。おまえが寝たらベッドに運んでやる」
「來、ごめん……本当にごめん」
「謝んな」
聖利は來にしがみつき、そのまま眠りに落ちた。
翌朝、聖利の身体は自身のベッドにあり、來は向かいのベッドでよく眠っていた。その寝顔にどうしようもなく胸が疼く。
來が好きだ。
こんなこと駄目なのに。來は自分のものにならないのに。
殺した恋はいつしか強い根を張っていて、どんどん蔓を伸ばしていく。
呼ぶ声にゆるゆるとまぶたを持ち上げる。室内は暗い。開け放たれたカーテンから入る月光と口内の外灯の光で、自分を揺り起こしたのが來だと気づいた。
「らい……」
「聖利、おまえ……」
今は何時だろう。夕食はとっくに終わっているだろうし、シャワーも浴びそびれている。それにしても、來はどうして妙な顔をしているのだろう。
そこではっと聖利の意識は覚醒した。自分が來のベッドで來の衣服や寝具を抱え込んで眠っていたことに気づいたのだ。
「……っ! ご、ごめ……! つい」
聖利は飛び起き、転がるようにベッドを降りた。しかし、來に肩を掴まれ、ベッドに腰かけ直される。
「なあ、聖利、これって」
言われなくてもわかる。所謂オメガの巣作りだ。番や好意を持つアルファの身の回りのもの、とりわけ匂いの強いものを集めてしまう。オメガの精神的な安定に繋がる本能による行為だ。
発情期に起こるケースが多いと聞いている。しかし、抑制剤を持ってしてもこんなことをしてしまうなんて……。
「わ、悪い……。本当に……」
聖利は來の顔が見られずに必死に言い訳をする。
「抑制剤、効いているはずなのに……。僕、きっとまだ不安定なんだ。身近なアルファのおまえのフェロモンに反応してしまった……他意はなくて……」
「他意、あってもいいけど」
はっと來に顔を向けると、その表情を見る前に抱き寄せられた。鼻孔に直接飛び込んでくる來の香り。
ああ、これだ。聖利は一瞬にして満たされ、腰砕け状態で來に縋りついた。離れなければと頭で思うのに、身体はまったく言うことを利かない。
「オメガの本能だもんな。仕方ねぇよ」
來のささやく声。今、どんな顔をしているのだろう。どくんどくんと脈打つ身体が、來のすべてが自分にしみてくる。指が來の背に食い込んでいると思いながら、抱擁を緩められない。
「あー、やばい」
來が苦しげに呟き、いっそう強く聖利を抱き締めた。そのきついくらいの抱擁が心地よくてならない。性欲も身体の奥に確かに感じる。だけど、拮抗するように癒される優しい気持ちが溢れてくる。
「來、ごめん。落ち着いたから……。もう」
「全然落ち着いてねえだろ。めちゃくちゃ甘い匂いすんぞ」
うなじに頬ずりされ、はからずも甘い吐息が漏れ、身体が期待に打ち震えた。不完全なオメガなのに、首筋に彼の歯が突きたてられるのを期待している。そんな自分が確かにここにいる。
ほとんど首を差し出した状態で動かない聖利に、來が呻くように言った。
「くそ、可愛いことすんな。おまえ、ホント」
「可愛いとか……馬鹿にするなよ……」
來の苦しげな声は、本能に抗う声。來のためにも離れなければと思いつつ、聖利の文句にも力が入らない。
「聖利」
來が顔を覗き込んできた。來の目に情欲の光がある。それはアルファゆえの反応だ。それならば、やはり間違いが起きる前に抱擁を解くべきだ。
それなのに、聖利の身体は吸いついたように來の腕の中から離れられず、力が入らないのだ。
そんな聖利の様子をわかった上で、來の方からは抱擁を解いてくれない。
「このまま落ち着くまでこうしてる。緊急避難って思えよ。本能だ」
「駄目だ。アルファとオメガなんだから……」
「ヒートは起こってねえだろ? それなら、俺が我慢すりゃいい話」
甘くささやいて、來が聖利の額にキスをした。まるで、本物の恋人同士のような触れ方だった。
「もう一回眠れ。おまえが寝たらベッドに運んでやる」
「來、ごめん……本当にごめん」
「謝んな」
聖利は來にしがみつき、そのまま眠りに落ちた。
翌朝、聖利の身体は自身のベッドにあり、來は向かいのベッドでよく眠っていた。その寝顔にどうしようもなく胸が疼く。
來が好きだ。
こんなこと駄目なのに。來は自分のものにならないのに。
殺した恋はいつしか強い根を張っていて、どんどん蔓を伸ばしていく。
241
あなたにおすすめの小説
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果
SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。
そこで雪政がひらめいたのは
「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」
アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈
ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ!
※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
【完結】ずっと一緒にいたいから
隅枝 輝羽
BL
榛名はあまり目立ったところはないものの、真面目な縁の下の力持ちとして仕事に貢献していた。そんな榛名の人に言えないお楽しみは、お気に入りのおもちゃで後ろをいじること。社員旅行の前日もア○ニーですっきりさせて、気の進まないまま旅行に出発したのだが……。
J庭57のために書き下ろしたお話。
同人誌は両視点両A面だったのだけど、どこまで載せようか。全部載せることにしましたー!
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
双子の兄になりすまし単位を取れと言われたが、おいおい何したらこんなに嫌われんの?
いちみやりょう
BL
長男教の両親のもとに双子の弟として生まれた柊木 紫(ひいらぎ むらさき)。
遊び呆けて単位もテストも成績も最悪な双子の兄、柊木 誠(ひいらぎ まこと)の代わりに男子校で学園生活を送ることに。
けれど、誠は逆に才能なんじゃないかというくらい学校一の嫌われ者だった。
※主人公は受けです。
※主人公は品行方正ではないです。
※R -18は保険です。
感想やエール本当にありがとうございます🙇
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる