転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる

さち喜

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3 学園でただひとりのオメガ

第八話

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「……聖利、聖利」

 呼ぶ声にゆるゆるとまぶたを持ち上げる。室内は暗い。開け放たれたカーテンから入る月光と口内の外灯の光で、自分を揺り起こしたのが來だと気づいた。

「らい……」
「聖利、おまえ……」

 今は何時だろう。夕食はとっくに終わっているだろうし、シャワーも浴びそびれている。それにしても、來はどうして妙な顔をしているのだろう。
 そこではっと聖利の意識は覚醒した。自分が來のベッドで來の衣服や寝具を抱え込んで眠っていたことに気づいたのだ。

「……っ! ご、ごめ……! つい」

 聖利は飛び起き、転がるようにベッドを降りた。しかし、來に肩を掴まれ、ベッドに腰かけ直される。

「なあ、聖利、これって」

 言われなくてもわかる。所謂オメガの巣作りだ。番や好意を持つアルファの身の回りのもの、とりわけ匂いの強いものを集めてしまう。オメガの精神的な安定に繋がる本能による行為だ。
 発情期に起こるケースが多いと聞いている。しかし、抑制剤を持ってしてもこんなことをしてしまうなんて……。

「わ、悪い……。本当に……」

 聖利は來の顔が見られずに必死に言い訳をする。

「抑制剤、効いているはずなのに……。僕、きっとまだ不安定なんだ。身近なアルファのおまえのフェロモンに反応してしまった……他意はなくて……」
「他意、あってもいいけど」

 はっと來に顔を向けると、その表情を見る前に抱き寄せられた。鼻孔に直接飛び込んでくる來の香り。
 ああ、これだ。聖利は一瞬にして満たされ、腰砕け状態で來に縋りついた。離れなければと頭で思うのに、身体はまったく言うことを利かない。

「オメガの本能だもんな。仕方ねぇよ」

 來のささやく声。今、どんな顔をしているのだろう。どくんどくんと脈打つ身体が、來のすべてが自分にしみてくる。指が來の背に食い込んでいると思いながら、抱擁を緩められない。

「あー、やばい」

 來が苦しげに呟き、いっそう強く聖利を抱き締めた。そのきついくらいの抱擁が心地よくてならない。性欲も身体の奥に確かに感じる。だけど、拮抗するように癒される優しい気持ちが溢れてくる。

「來、ごめん。落ち着いたから……。もう」
「全然落ち着いてねえだろ。めちゃくちゃ甘い匂いすんぞ」

 うなじに頬ずりされ、はからずも甘い吐息が漏れ、身体が期待に打ち震えた。不完全なオメガなのに、首筋に彼の歯が突きたてられるのを期待している。そんな自分が確かにここにいる。
 ほとんど首を差し出した状態で動かない聖利に、來が呻くように言った。

「くそ、可愛いことすんな。おまえ、ホント」
「可愛いとか……馬鹿にするなよ……」

 來の苦しげな声は、本能に抗う声。來のためにも離れなければと思いつつ、聖利の文句にも力が入らない。

「聖利」

 來が顔を覗き込んできた。來の目に情欲の光がある。それはアルファゆえの反応だ。それならば、やはり間違いが起きる前に抱擁を解くべきだ。
 それなのに、聖利の身体は吸いついたように來の腕の中から離れられず、力が入らないのだ。
 そんな聖利の様子をわかった上で、來の方からは抱擁を解いてくれない。

「このまま落ち着くまでこうしてる。緊急避難って思えよ。本能だ」
「駄目だ。アルファとオメガなんだから……」
「ヒートは起こってねえだろ? それなら、俺が我慢すりゃいい話」

 甘くささやいて、來が聖利の額にキスをした。まるで、本物の恋人同士のような触れ方だった。

「もう一回眠れ。おまえが寝たらベッドに運んでやる」
「來、ごめん……本当にごめん」
「謝んな」

 聖利は來にしがみつき、そのまま眠りに落ちた。
 翌朝、聖利の身体は自身のベッドにあり、來は向かいのベッドでよく眠っていた。その寝顔にどうしようもなく胸が疼く。
 來が好きだ。
 こんなこと駄目なのに。來は自分のものにならないのに。
 殺した恋はいつしか強い根を張っていて、どんどん蔓を伸ばしていく。


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