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4 優しくしなくていい
第一話
しおりを挟む復学から一ヶ月、カレンダーは六月に入った。その日、聖利は生徒会役員室へ向かっていた。
入院した関係で部活決めも委員会決めもすっかり後回しになってしまっていたが、何かの活動をするならそろそろ決めるべきだ。
やはり生徒会を志望しよう。聖利はそう心に決めていた。
オメガだからと萎縮するつもりはない。当初から考えていた通り、学園生活の中核を成す組織に所属し、自身の立場を確立させたい。生徒会や風紀委員会などは、部活動と両立する役員もいるが、勉学も忙しいこの学園では学年があがるにつれ専念する学生が多いようだ。聖利も部活所属はやめ、生徒会一本で活動していくつもりだ。
それはアルファの番を作るよりよほど大事なことに思えた。
聖利は、來との関係について迷いがある。來の優しさに甘え、このままではなし崩しに誘ってしまいかねない。オメガ性を理由に、自分の恋心を潜ませて、來を誘惑してしまったとしたら。
抑制剤で抑えていても、本格的なヒートを迎えた時、自分と來がどうなってしまうかわからない。
生徒会活動など、勉強以外に打ち込めることを探し、バース性の衝動を抑え込みたい。コントロールできる精神力を身に着けたい。そんな気持ちも、聖利の心を外へ向かわせる原動力になっていた。
「失礼します」
生徒会室は特別棟の四階にある。ノックをして声をかけると、すぐにどうぞという声が聞こえた。
一礼し室内に入る。そこには三井寺生徒会長をはじめとした生徒会役員が五名集まっていた。
「見学かい?」
三井寺は薄い茶色の髪と菫色に見える瞳の美しい青年だ。髪はやや長く、後ろにひとつに結んでいる。中性的な美貌は、日本人以外の血の気配を感じた。実際、ハーフかクォーターなのかもしれない。
そんな三井寺は、ひと目で聖利が誰か判別したようだ。いまや、学園の有名人となってしまったオメガである。
「確か、楠見野くん。学年首席だ。生徒会を希望してるの?」
「はい、学園の運営に興味があり、今日はお伺いしました」
よどみなく答え、自分から言う。
「僕のバース性でも問題がなければ、ぜひよろしくお願いします」
頭を下げた聖利に、三井寺が明るい声をかける。
「修豊真船は、バース性にとらわれない。きみのような優秀な生徒なら大歓迎だよ。ねえ、みんな」
その場にいた役員たちがなごやかに拍手してくれる。よかった、思いの外拒絶反応は見られないようだ。
「じゃあ、今日は生徒会の簡単な紹介をするよ。仕事の内容は副会長から。ちょっと待っておいで」
三井寺が一度席を立つと、隣から声が聞こえた。聞こえるか聞こえないかというくらいの、ほんの小さな声だ。
「しゃしゃり出てんじゃねーよ。オメガの分際で」
見れば、隣でつんとした顔で座っているのは文系クラスの同級生だ。確か直本と言ったはず。聖利よりずっと早く生徒会を志望してここにいるのだろう。入会時期をすぎて加入を申し込んできたのが、学園唯一のオメガでは面白くないに決まっている。
(なるほど、差別とはこういうことか)
怒るより聖利は納得した。選民意識の強いアルファからすると、並び立たれたくない存在がオメガなのだろう。
(やはり実力を見せるほかないな)
妙にやる気を感じながら、聖利は三井寺に呼ばれるままに立ち上がった。
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