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5 まだ俺のもの
第五話
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「おまえ……! 海瀬!」
問題児にして、学園の有力者の登場だ。顔は知っているのだろう、添川がのけぞる。
來は添川の腕を放り投げるように解放すると、聖利の前に割って入った。
「お引き取りくださいよ、先輩。震えているようですし、体調も悪いんでしょう。そうそう俺、最近高坂寮長と仲がいいんです。今日のこと、全部ご相談させてもらいましょうか。高坂寮長は俺の話と先輩の話、どちらを信じますかね」
慇懃無礼な態度で言い、嘲るように笑う來。極端に高圧的なのは怒っているからだ。聖利を傷つけようとしたことに対して、來はものすごく怒っている。
「一年の分際で、親の金ででかい顔しやがって」
「そっすね。親の金もこういうときは役にたちますよ」
「クソ……!」
吐き捨てるように言い、添川は足早に去っていった。來がちょっと力を込めれば、添川なんて紙クズ同然に潰されてしまうだろう。物理的にも社会的にも。それがわかるから、添川は逃げるしかないのだ。
悪漢がいなくなった廊下の片隅、授業はもう始まる時刻だ。聖利は來を見あげた。
「助かったよ」
「あんなクズ、いちいち相手にすんな。弱いクセに、自分が誰よりも上だと思ってる」
アルファの能力差を明確にすれば、この学園のアルファの頂点はやはり來だろう。学力や運動能力だけではない。圧倒的な存在感と魅力。來は誰より強く美しいアルファだ。
「ありがとう、來には助けられてばかりだ」
「言っただろう? おまえの王子だって」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
今朝の中庭での話も中途半端だった。授業が始まるため戻らなければと思いながら、今この瞬間、來と離れたくない。離れると決めた相手なのに。
「來……」
「聖利、好きなヤツがいるのか?」
びくりと肩を揺らし聖利は言い淀む。先ほどの話は聞かれていたようだ。どうごまかそうか悩み、結局頷いた。
「ああ、いる」
「そうか……」
來の答えはため息のようだった。
ふたりは向き合ったまましばし黙る。來はうつむき加減で、眉根を寄せた沈痛な表情をしていた。何を考えているのだろう。
「もし、番を決めたら俺に報告しろよ」
そう言った來の声は力ないものだった。聖利は胸の奥がざらざらとするのを感じた。
「なんで來に報告するんだ」
「気に食わないヤツなら、殴るから」
モンスターペアレント並の理屈だ。苦笑いする來だが、どこかその顔が頼りない。聖利は本当のことを言おうか逡巡した。言ってしまいたい。
好きなのは他の誰でもなくおまえだ。ずっとずっと恋しているのはアルファの頃からおまえだけ。今、オメガになって、おまえに恋を打ち明けたい。
だけど、來がどんな顔をするかわからない。
「來……僕は」
言いかけた言葉を塞ぐように來がキスをしてきた。柔く軽く重なる唇はすぐに離れていってしまう。
「キスは、まだ俺としかしてない?」
「……うん」
「じゃあ、まだ俺のものだな」
そう言って目を細めた來は切ない表情をしていた。後頭部に大きな手のひらがあてがわれた。再び重なる唇は抗うことも知らずに、來を迎え入れた。
誰もいない廊下の片隅、互いの身体を惹き寄せ合い、束の間貪り合う。舌を絡め、唾液を混ぜ合わせ、熱のこもった視線をかわす。
「聖利……」
キスの合間に來が名を呼んだ。その狂おしい響きに、聖利は今までにない胸のざわめきを感じていた。それはけして不穏ではない。甘くひそやかな期待だ。
(來は……僕のことを……)
自意識過剰だろうか。勘違いしているだろうか。
だけど、腕の中に閉じこめる力は強く、離れがたいキスには情熱があった。
ふたりは、ほんの数分熱を分け合い、それから急いで教室に戻った。聖利にはたった今浮かんだ感情の答え合わせをする勇気がなかった。ただただ忙しい鼓動に翻弄されていた。
問題児にして、学園の有力者の登場だ。顔は知っているのだろう、添川がのけぞる。
來は添川の腕を放り投げるように解放すると、聖利の前に割って入った。
「お引き取りくださいよ、先輩。震えているようですし、体調も悪いんでしょう。そうそう俺、最近高坂寮長と仲がいいんです。今日のこと、全部ご相談させてもらいましょうか。高坂寮長は俺の話と先輩の話、どちらを信じますかね」
慇懃無礼な態度で言い、嘲るように笑う來。極端に高圧的なのは怒っているからだ。聖利を傷つけようとしたことに対して、來はものすごく怒っている。
「一年の分際で、親の金ででかい顔しやがって」
「そっすね。親の金もこういうときは役にたちますよ」
「クソ……!」
吐き捨てるように言い、添川は足早に去っていった。來がちょっと力を込めれば、添川なんて紙クズ同然に潰されてしまうだろう。物理的にも社会的にも。それがわかるから、添川は逃げるしかないのだ。
悪漢がいなくなった廊下の片隅、授業はもう始まる時刻だ。聖利は來を見あげた。
「助かったよ」
「あんなクズ、いちいち相手にすんな。弱いクセに、自分が誰よりも上だと思ってる」
アルファの能力差を明確にすれば、この学園のアルファの頂点はやはり來だろう。学力や運動能力だけではない。圧倒的な存在感と魅力。來は誰より強く美しいアルファだ。
「ありがとう、來には助けられてばかりだ」
「言っただろう? おまえの王子だって」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
今朝の中庭での話も中途半端だった。授業が始まるため戻らなければと思いながら、今この瞬間、來と離れたくない。離れると決めた相手なのに。
「來……」
「聖利、好きなヤツがいるのか?」
びくりと肩を揺らし聖利は言い淀む。先ほどの話は聞かれていたようだ。どうごまかそうか悩み、結局頷いた。
「ああ、いる」
「そうか……」
來の答えはため息のようだった。
ふたりは向き合ったまましばし黙る。來はうつむき加減で、眉根を寄せた沈痛な表情をしていた。何を考えているのだろう。
「もし、番を決めたら俺に報告しろよ」
そう言った來の声は力ないものだった。聖利は胸の奥がざらざらとするのを感じた。
「なんで來に報告するんだ」
「気に食わないヤツなら、殴るから」
モンスターペアレント並の理屈だ。苦笑いする來だが、どこかその顔が頼りない。聖利は本当のことを言おうか逡巡した。言ってしまいたい。
好きなのは他の誰でもなくおまえだ。ずっとずっと恋しているのはアルファの頃からおまえだけ。今、オメガになって、おまえに恋を打ち明けたい。
だけど、來がどんな顔をするかわからない。
「來……僕は」
言いかけた言葉を塞ぐように來がキスをしてきた。柔く軽く重なる唇はすぐに離れていってしまう。
「キスは、まだ俺としかしてない?」
「……うん」
「じゃあ、まだ俺のものだな」
そう言って目を細めた來は切ない表情をしていた。後頭部に大きな手のひらがあてがわれた。再び重なる唇は抗うことも知らずに、來を迎え入れた。
誰もいない廊下の片隅、互いの身体を惹き寄せ合い、束の間貪り合う。舌を絡め、唾液を混ぜ合わせ、熱のこもった視線をかわす。
「聖利……」
キスの合間に來が名を呼んだ。その狂おしい響きに、聖利は今までにない胸のざわめきを感じていた。それはけして不穏ではない。甘くひそやかな期待だ。
(來は……僕のことを……)
自意識過剰だろうか。勘違いしているだろうか。
だけど、腕の中に閉じこめる力は強く、離れがたいキスには情熱があった。
ふたりは、ほんの数分熱を分け合い、それから急いで教室に戻った。聖利にはたった今浮かんだ感情の答え合わせをする勇気がなかった。ただただ忙しい鼓動に翻弄されていた。
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