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6 頂点に立つ男
第四話
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結局その夜は夕食前も後も、來は自室にいなかった。また学園を抜け出しているのかもしれない。
いったいどこへ行っているのだろう。來についてはまだ知らないことだらけだ。
いつか大企業を継ぐ立場にあるエリート。学校という括りがなければ、出会うこともなかった男。
來について知りたいなら、もっと話せばいいのだ。意地を張らずに、素直な気持ちで『おまえのことが知りたい』と言えばいい。今まではできなかったことを、これからしていけばいい。
日付が変わる。聖利はベッドに入った。明日こそ來に会いに行こう。
どれほど時間が経っただろう。
聖利は異様な気配で目覚めた。それは複数の息使いだった。暗闇の中、この部屋に自分以外の何かがいる。
おかしい。施錠はしているはずだ。じわりと手のひらに汗が滲んだ。
どちらにしろ、このままではいられない。呼吸を止め、聖利は掛布団を跳ね除けて身体を起こした。ベッドの上で膝をつき、臨戦態勢を取る。
「誰だ」
低く尋ねると、笑い声が聞こえた。最初は低く、やがて複数人の嘲笑が室内に響く。
「起きちゃったじゃねえかよ」
「おい、オメガ。良い子で寝てれば気持ちよくしてやったのに」
人影は四つ。月灯りがさっと窓から差し込み、暴漢たちの顔を照らした。
「添川……副寮長……」
中央に立っているのは添川だった。周囲の男たちは寮役員ではないが、見たことのある者もいる。
「楠見野、おまえが特定の番を持つつもりがないなら、俺たちが相手してやろうと思ってな。オメガは性欲が強いそうじゃないか。毎晩つらいだろう」
添川が侮蔑を含んだ目で見つめてくる。なるほど、副寮長なら鍵束の保管場所はわかるだろう。聖利はふっと笑ってみせた。
「不勉強がすぎますね。もしくは差別意識が強くて驚きます」
「おいおい、オメガがうるせえぞ」
添川の横の男が笑う。
「いいから、服脱いで脚開けよ。女みたいに濡れるんだろ? 俺たち全員で味見してやるから」
「下品ですね、本当に」
低く答えながら、聖利は内心思っていた。さすがに四対一はまずい。大騒ぎすれば、周囲の部屋に聞こえるはずだ。誰か助けがくるかもしれない。しかし、それより先に口をふさがれ、四肢を押さえつけられては叶わないだろう。
さてどうするか。どくんどくんと鳴り響く心臓。手足に血がいきわたる。大丈夫、身体は闘う準備をしている。男たちがじりっと間を詰めてくる。
次の瞬間、聖利は枕元にあった授業用のタブレットを掴み、思い切り窓に向かって投げつけた。
バリンガシャンという激しい音が響き、窓ガラスが粉々に割れる。夜中だが、この音は間違いなく周囲に聞こえるだろう。叫ぶよりよほど効果的だ。
驚いた男たちが窓を見た瞬間に、一番近くにいた男の腹に思い切り前蹴りを見舞ってやった。そのまま走って部屋の外へ出る。廊下に出れば、すぐに他の部屋から誰か顔を出すだろうと思った。
「てめえ、何を!」
予想外だ。廊下にはさらにふたり添川の仲間がいる。おそらく見張り役だ。
「捕まえろ!」
室内から添川が叫ぶ。他の部屋からの助けを待つ猶予はない。六人がかりで部屋に連れ込まれては終わりだ。
聖利は、男ふたりの腕をかい潜って階段に走った。
來の姿が脳裏をよぎる。しかし、五階まで逃げ延びることは難しいだろうし、來が部屋に戻っているかも確証がない。
ためらうことなく、踊り場までジャンプした。さらに一階までステップを飛ばして降りる。男たちが追いかけてくる。
騒ぎを聞きつけて、他の生徒が集合するまで追いかけっこだ。聖利が使っていた部屋で争った形跡があれば、高坂たちはすぐに動いてくれるだろう。また監視カメラのあるところを走れば、万が一連中に捕まってもその罪を立証できる。
頭では思うもののぞっとした。添川は完全に常軌を逸している。手勢を連れて襲撃してくるなんて。自分の立場も無視して、レイプ目的で襲ってくるとは思わなかった。
寮の外へ飛び出して、校舎や体育館の方向へさらに走る。中庭方面は駄目だ。無人だし、助けが来ても見つけてもらいづらくなる。
しかし、悩む暇はもうなさそうだ。背後には男たちの息遣いと足音が迫っていた。
いったいどこへ行っているのだろう。來についてはまだ知らないことだらけだ。
いつか大企業を継ぐ立場にあるエリート。学校という括りがなければ、出会うこともなかった男。
來について知りたいなら、もっと話せばいいのだ。意地を張らずに、素直な気持ちで『おまえのことが知りたい』と言えばいい。今まではできなかったことを、これからしていけばいい。
日付が変わる。聖利はベッドに入った。明日こそ來に会いに行こう。
どれほど時間が経っただろう。
聖利は異様な気配で目覚めた。それは複数の息使いだった。暗闇の中、この部屋に自分以外の何かがいる。
おかしい。施錠はしているはずだ。じわりと手のひらに汗が滲んだ。
どちらにしろ、このままではいられない。呼吸を止め、聖利は掛布団を跳ね除けて身体を起こした。ベッドの上で膝をつき、臨戦態勢を取る。
「誰だ」
低く尋ねると、笑い声が聞こえた。最初は低く、やがて複数人の嘲笑が室内に響く。
「起きちゃったじゃねえかよ」
「おい、オメガ。良い子で寝てれば気持ちよくしてやったのに」
人影は四つ。月灯りがさっと窓から差し込み、暴漢たちの顔を照らした。
「添川……副寮長……」
中央に立っているのは添川だった。周囲の男たちは寮役員ではないが、見たことのある者もいる。
「楠見野、おまえが特定の番を持つつもりがないなら、俺たちが相手してやろうと思ってな。オメガは性欲が強いそうじゃないか。毎晩つらいだろう」
添川が侮蔑を含んだ目で見つめてくる。なるほど、副寮長なら鍵束の保管場所はわかるだろう。聖利はふっと笑ってみせた。
「不勉強がすぎますね。もしくは差別意識が強くて驚きます」
「おいおい、オメガがうるせえぞ」
添川の横の男が笑う。
「いいから、服脱いで脚開けよ。女みたいに濡れるんだろ? 俺たち全員で味見してやるから」
「下品ですね、本当に」
低く答えながら、聖利は内心思っていた。さすがに四対一はまずい。大騒ぎすれば、周囲の部屋に聞こえるはずだ。誰か助けがくるかもしれない。しかし、それより先に口をふさがれ、四肢を押さえつけられては叶わないだろう。
さてどうするか。どくんどくんと鳴り響く心臓。手足に血がいきわたる。大丈夫、身体は闘う準備をしている。男たちがじりっと間を詰めてくる。
次の瞬間、聖利は枕元にあった授業用のタブレットを掴み、思い切り窓に向かって投げつけた。
バリンガシャンという激しい音が響き、窓ガラスが粉々に割れる。夜中だが、この音は間違いなく周囲に聞こえるだろう。叫ぶよりよほど効果的だ。
驚いた男たちが窓を見た瞬間に、一番近くにいた男の腹に思い切り前蹴りを見舞ってやった。そのまま走って部屋の外へ出る。廊下に出れば、すぐに他の部屋から誰か顔を出すだろうと思った。
「てめえ、何を!」
予想外だ。廊下にはさらにふたり添川の仲間がいる。おそらく見張り役だ。
「捕まえろ!」
室内から添川が叫ぶ。他の部屋からの助けを待つ猶予はない。六人がかりで部屋に連れ込まれては終わりだ。
聖利は、男ふたりの腕をかい潜って階段に走った。
來の姿が脳裏をよぎる。しかし、五階まで逃げ延びることは難しいだろうし、來が部屋に戻っているかも確証がない。
ためらうことなく、踊り場までジャンプした。さらに一階までステップを飛ばして降りる。男たちが追いかけてくる。
騒ぎを聞きつけて、他の生徒が集合するまで追いかけっこだ。聖利が使っていた部屋で争った形跡があれば、高坂たちはすぐに動いてくれるだろう。また監視カメラのあるところを走れば、万が一連中に捕まってもその罪を立証できる。
頭では思うもののぞっとした。添川は完全に常軌を逸している。手勢を連れて襲撃してくるなんて。自分の立場も無視して、レイプ目的で襲ってくるとは思わなかった。
寮の外へ飛び出して、校舎や体育館の方向へさらに走る。中庭方面は駄目だ。無人だし、助けが来ても見つけてもらいづらくなる。
しかし、悩む暇はもうなさそうだ。背後には男たちの息遣いと足音が迫っていた。
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