転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる

さち喜

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7 愛しのアルファ

エピローグ

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 初夏の日差しはすでに強く、体育着のジャージやTシャツ姿の生徒たちは、全員汗だくだった。

「ほら、午前中うちが勝負だぞ。頑張れ」

 寮長の高坂が声をかけ、生徒たちは口々に「はい」と返すものの、誰もがバテているようである。
 ある者は地面に屈み込み草むしり、ある者は寮の窓ガラスを外から拭く、ある者は枝切鋏で庭木の剪定。今日は全員参加の清掃だ。寮周辺と校舎までの道を掃除することになっている。校舎周辺や中庭など対外的に見られることが多い部分は業者が入るが、寮の外回りは学生の自治のもとふた月に一度清掃作業が行われるのだ。春は散った花びらやさかんに茂る雑草の処理が大変である。さらに外清掃の後は、屋内で自室と廊下や階段の清掃だ。半日以上が掃除でつぶれることになる。

「こら、來! サボるな!」

 校舎外壁の汚れや花粉を落とすため、家庭用の高圧洗浄機を手にしていた聖利は、ダラダラとベンチに腰かけている來に怒鳴る。

「休憩だよ、きゅーけー。高坂寮長のパシリで備品の買い出しに行ってきたばっかなんだぞ。少しくらい休ませろ」

 ベンチにふんぞり返って偉そうなことを言う來。

「寮役員の仕事だろう。いちいち威張るな。どうしてもひと息入れたいなら、こっそり屋内で休め。こんなところでだらけられたらみんなの士気にかかわる」
「士気って軍人かよ、おまえ」

 來は面倒くさそうに言って、あくびをする。まったくベンチから動こうとしないあたり、非常に挑発的だ。

「原沢、聖利ずっとこんな調子か? 掃除くらいではりきりすぎじゃねえの?」

 さらには、聖利の横で手伝う知樹にそんなことを言う。知樹は知樹で苦笑いをしている。

「聖利はふた月前の清掃に出られなかったからね。その分、頑張ってるんだよ。海瀬、言うこと聞いといた方がいいぞ」
「しょうがねえなぁ」

 だるそうに立ち上がった來が聖利に近づいてくる。何かと思って見ている間に後ろから抱き締められた。正確に言うと、後ろから一緒に高圧洗浄機を持ち、支えているのだ。

「非力な聖利を手伝ってやろう」
「ば、馬鹿! 離せ!」

 周囲には生徒だらけだ。ふたりの関係は公にはしていないが、察している生徒多いだろう。何しろ交際を始めて以来、來はまったく隠す気のない態度。おかげで聖利に寄ってくるアルファは激減した。とはいえ、皆の前でべったりくっつかれるとさすがに焦る。風紀が乱れるし、さらに今は寮の仕事中なのだ。

「こらこら、公共の場でイチャつくな。馬鹿ップル」

 知樹が笑顔でツッコミを入れてくれるが、來はなかなか離れようとしない。どころか、聖利の耳元に唇を寄せて言う。

「あ、駄目だ。聖利とくっついてると、勃つわ」
「何を言ってるんだ!」
「一度、部屋で休んでこよう。な?」
「休むならおまえひとりでいけ!」
「冷たいこと言うなよ」

 するりとTシャツの中に手が侵入してくる。腹をなでられ首筋にキスをされ、さすがに聖利は怒った。調子に乗り過ぎである。というより、來は困る聖利のことを面白がっている。
 すうと息を吸うと、思い切り背後の來の顔に後頭部で頭突きした。

「ぐっ! い、ってぇ! てめえ、聖利!」

 のけぞって呻く來の腕から抜け出し、くるんと振り返ると、聖利は腕組みで睨みつけた。

「天罰だ」
「いや、天罰っていうか、おまえの暴力……」
「まだやるなら、掃除の後に受けて立つぞ」
「聖利って本当に可愛くない性格してんな」

 双方互いを不穏な笑顔でねめつけ合った。知樹が横で、やってくる高坂に向かって「寮長ー、海瀬くんと楠見野くんが喧嘩してまーす」と小学生のような密告をする。
 聖利は目の前のライバルで恋人を見つめ、ふっと表情を崩して笑った。

「今度はなんだよ」

 聖利の変化に來がいぶかしげな顔になる。

「いや、なんでもない」

 好きだよ、心の中で唱えた。
 たったひとりの愛するアルファ。未来の番。
 まだ若い自分たちには、困難もたくさんあるだろう。正式な番になれる日は遠いし、それまで同じ気持ちの強さでいられるかわからない。ふたりが共にいることをよく思わない者もいるだろう。番になったとしても、彼や彼の家族の望むオメガの役割を果たせるかもわからない。
 それでも聖利は來と生きていこうと決めた。困難はすべてなぎ倒し、この先も一緒に時間を重ねていきたい。來のために変わった自分なのだから、隣に並び立ち、胸を張って生きていきたい。この命の終わる瞬間まで何十年も。

「聖利、ちゃんとするから、あとでキスな」

 來が顔を寄せて、耳元で小さくささやいた。知樹や近づいてきた高坂たちに配慮しているようなので、本気の嘆願だ。可愛いな、と聖利はほくそ笑み、そっと頷いた。

「ほら、まずは掃除だ、掃除」
「わかったって」

 眩しい陽射しの下、來がうんと伸びをする。汗が首筋をつたうのが見え、厚い胸と骨ばった腕のラインが綺麗だった。しなやかに美しい恋人を、聖利は愛しく微笑んだ。



(本編了)
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