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番外編
僕たちの蜜月③
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「夕飯、カレーとかにするか?」
大型スーパーがない都心部、ふたりはデパート地下の生鮮食品売り場に来ていた。少々値は張るが物はいいし、そもそも他に買う場所がわからない。
聖利の実家は同じ都心部といってもベイエリアにあり、ファミリー層が多く住むせいか、割とスーパーやホームセンターは大型店舗があった。
「カレー……小学生のキャンプかよ」
來がニヤニヤと返すので、聖利はむっとして見上げる。
「なんだよ。嫌か?」
「聖利って本当に料理できないんだなあって。前に言っただろ、俺、料理できんの」
はっと思いだす。確かに付き合う前、同じ大学に行かないか、ルームシェアをしないかと誘われた。そのとき、來は家事ができると言っていた。
「バイト先のカフェバー、厨房も少し手伝ってたから。今日から七日間、飯は俺担当ね」
「そ、そんなのずるい。僕だって頑張れば……」
「俺って割と尽くす方だから」
來が顔を近づけ、耳元でささやく。
「七日間、たっぷり奉仕させろよ」
別な意味も多分に含んでいそうな言葉に、聖利は來の身体を押しのけた。耳や首まで赤くなってしまったのを隠すようにぷいとそっぽを向く。
こうした態度が以前は喧嘩のもとだったけれど、恋人となった今は違う。聖利の照れ隠しが來には伝わるようだ。
「わかった、わかった。外ではくっつかないから」
來は聖利から離れ、『何もしません』と言わんばかりに両手を顔の横に万歳して見せた。
「どうだか。寮では、いつだってベタベタしてくるじゃないか。風紀が乱れるからやめてほしいといつも言っているのに」
「まあ、虫よけの意味もあるし」
他の男を寄せ付けないためということだろうが、大勢の学生の前で性的に触れられるのも、独占欲を示されるのも、聖利が困るのだ。生徒会役員としても学園唯一のオメガとしても。
キッと睨むと、來がはいはいと苦笑いして見せる。
「最近は前より我慢してるって。高坂寮長がうるせーからな。『楠見野のことを考えるなら、自制しろ』って怒鳴んだよ。ホント、指導が体育会系」
じゃがいもや葉物野菜をどさどさとカゴに入れながら來は言う。來が高坂寮長付きの寮役員になってひと月ほどだ。その指導はなかなか厳しいらしい。
「僕や、他の寮生には優しくて頼りになる寮長だよ。來の素行が悪いから厳しくされてるんじゃないか?」
「あいつの本性、あっちの厳しい方だって。マジ、うるせえ。一ヶ月経ってないのに、俺、寮長付きの仕事、完璧にさせられたぞ」
それは來に能力があるからだろう。高坂寮長は來に期待しているから厳しいのだ。
おそらく來は来年度に副寮長職に就き、三年次に寮長となるだろう。学園一の問題児が、今や前途洋々の寮役員である。
そのとき、自分が生徒会の役員として來と並び立てたらいい。聖利のひそかにそんなことを考えている。
「ガッコ休みになったし、寮長の話はいーや」
買い物量を考えて、來が入り口からカートを取ってきた。
「これから七日間、聖利とふたりっきりっていうのが大事だよな」
聖利もそれは同感だ。嬉しくてかすかに頷く、頬が緩むのを抑えきれない。
「來、実家に帰るのが遅くなるのは本当にいいのか?」
「こっちのマンションで過ごすことも多いって言っただろ。まあ、母親には友人と叔父貴の家で勉強してから帰るって言ってある。学年トップでルームメイトの楠見野ってヤツって。ここまでは明かしてるよ」
おそらくオメガとは言っていないのだ。将来の番候補とも。
來は海瀬グループの御曹司。恋愛を理由に、仲を許してもらえるかはわからない。聖利としては、自分のバース性がオメガとして成熟してから報告してほしいと思っている。確実に後継者を成せる身であるとアピールしておきたい。
聖利の表情の不安を見てとったのか、來が顔を覗き込んでくる。
「うちの母親はオメガだから、たぶん俺とおまえの結婚、大賛成だぞ」
「けっ……けっこん!?」
「焦んなよ。番になるんだから、結婚するだろ? 俺のパートナーだろ?」
それはそうだが、面と向かって言われると恥ずかしい。さらにはこうしてふたりで買い物などしている状況も相まって、落ち着かない気持ちが増してしまう。この同棲は結婚生活の予行演習も兼ねているのだと気づいてしまった。
「親父はまー……基本喋んねーからわかんないけど。どこかから婚約者を連れてくる前に、聖利のことは話す」
「反対されるかも……。僕、まだ完全なオメガじゃないし」
「させねーし。っつうか、あの親父も見合いしたアルファの女、全員振って、大学の同級のオメガの母親を嫁にしてんだ。アルファの女は主張が激しくてうるさいとかムカつくこと言って。我儘貫いてんだから、俺も好きにさせてもらう」
その言葉になんだかほっと肩の力が抜けた。そして、來の両親のちょっと情熱的な馴れ初めに俄然興味がわいた。いつか紹介してもらえるのだろうか。
「僕、來のパートナーになれるかな」
「なれよ。俺もまだ完全におまえの父親に許してもらえてないし、何かあったら駆け落ちしてでも一緒になるぞ」
「ふふ、そうだね」
聖利の返す笑顔は、取り繕うこともできないほどふわふわに緩んでいた。
大型スーパーがない都心部、ふたりはデパート地下の生鮮食品売り場に来ていた。少々値は張るが物はいいし、そもそも他に買う場所がわからない。
聖利の実家は同じ都心部といってもベイエリアにあり、ファミリー層が多く住むせいか、割とスーパーやホームセンターは大型店舗があった。
「カレー……小学生のキャンプかよ」
來がニヤニヤと返すので、聖利はむっとして見上げる。
「なんだよ。嫌か?」
「聖利って本当に料理できないんだなあって。前に言っただろ、俺、料理できんの」
はっと思いだす。確かに付き合う前、同じ大学に行かないか、ルームシェアをしないかと誘われた。そのとき、來は家事ができると言っていた。
「バイト先のカフェバー、厨房も少し手伝ってたから。今日から七日間、飯は俺担当ね」
「そ、そんなのずるい。僕だって頑張れば……」
「俺って割と尽くす方だから」
來が顔を近づけ、耳元でささやく。
「七日間、たっぷり奉仕させろよ」
別な意味も多分に含んでいそうな言葉に、聖利は來の身体を押しのけた。耳や首まで赤くなってしまったのを隠すようにぷいとそっぽを向く。
こうした態度が以前は喧嘩のもとだったけれど、恋人となった今は違う。聖利の照れ隠しが來には伝わるようだ。
「わかった、わかった。外ではくっつかないから」
來は聖利から離れ、『何もしません』と言わんばかりに両手を顔の横に万歳して見せた。
「どうだか。寮では、いつだってベタベタしてくるじゃないか。風紀が乱れるからやめてほしいといつも言っているのに」
「まあ、虫よけの意味もあるし」
他の男を寄せ付けないためということだろうが、大勢の学生の前で性的に触れられるのも、独占欲を示されるのも、聖利が困るのだ。生徒会役員としても学園唯一のオメガとしても。
キッと睨むと、來がはいはいと苦笑いして見せる。
「最近は前より我慢してるって。高坂寮長がうるせーからな。『楠見野のことを考えるなら、自制しろ』って怒鳴んだよ。ホント、指導が体育会系」
じゃがいもや葉物野菜をどさどさとカゴに入れながら來は言う。來が高坂寮長付きの寮役員になってひと月ほどだ。その指導はなかなか厳しいらしい。
「僕や、他の寮生には優しくて頼りになる寮長だよ。來の素行が悪いから厳しくされてるんじゃないか?」
「あいつの本性、あっちの厳しい方だって。マジ、うるせえ。一ヶ月経ってないのに、俺、寮長付きの仕事、完璧にさせられたぞ」
それは來に能力があるからだろう。高坂寮長は來に期待しているから厳しいのだ。
おそらく來は来年度に副寮長職に就き、三年次に寮長となるだろう。学園一の問題児が、今や前途洋々の寮役員である。
そのとき、自分が生徒会の役員として來と並び立てたらいい。聖利のひそかにそんなことを考えている。
「ガッコ休みになったし、寮長の話はいーや」
買い物量を考えて、來が入り口からカートを取ってきた。
「これから七日間、聖利とふたりっきりっていうのが大事だよな」
聖利もそれは同感だ。嬉しくてかすかに頷く、頬が緩むのを抑えきれない。
「來、実家に帰るのが遅くなるのは本当にいいのか?」
「こっちのマンションで過ごすことも多いって言っただろ。まあ、母親には友人と叔父貴の家で勉強してから帰るって言ってある。学年トップでルームメイトの楠見野ってヤツって。ここまでは明かしてるよ」
おそらくオメガとは言っていないのだ。将来の番候補とも。
來は海瀬グループの御曹司。恋愛を理由に、仲を許してもらえるかはわからない。聖利としては、自分のバース性がオメガとして成熟してから報告してほしいと思っている。確実に後継者を成せる身であるとアピールしておきたい。
聖利の表情の不安を見てとったのか、來が顔を覗き込んでくる。
「うちの母親はオメガだから、たぶん俺とおまえの結婚、大賛成だぞ」
「けっ……けっこん!?」
「焦んなよ。番になるんだから、結婚するだろ? 俺のパートナーだろ?」
それはそうだが、面と向かって言われると恥ずかしい。さらにはこうしてふたりで買い物などしている状況も相まって、落ち着かない気持ちが増してしまう。この同棲は結婚生活の予行演習も兼ねているのだと気づいてしまった。
「親父はまー……基本喋んねーからわかんないけど。どこかから婚約者を連れてくる前に、聖利のことは話す」
「反対されるかも……。僕、まだ完全なオメガじゃないし」
「させねーし。っつうか、あの親父も見合いしたアルファの女、全員振って、大学の同級のオメガの母親を嫁にしてんだ。アルファの女は主張が激しくてうるさいとかムカつくこと言って。我儘貫いてんだから、俺も好きにさせてもらう」
その言葉になんだかほっと肩の力が抜けた。そして、來の両親のちょっと情熱的な馴れ初めに俄然興味がわいた。いつか紹介してもらえるのだろうか。
「僕、來のパートナーになれるかな」
「なれよ。俺もまだ完全におまえの父親に許してもらえてないし、何かあったら駆け落ちしてでも一緒になるぞ」
「ふふ、そうだね」
聖利の返す笑顔は、取り繕うこともできないほどふわふわに緩んでいた。
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