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ただ一人の婚約者候補
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モンゴメリー公爵家の一角には、ノエル用の広い花壇が設けられていた。土魔法と水魔法を使い癒しの花キリンスと、ケガや病気の時に役立つ薬草を育て、なおかつ品種改良を模索するためだ。
ノエルの魔法訓練のために、家庭教師としてキリー・レイモンドが雇われていた。
「ノエル様、水魔法を発動する前に、気を集中して密度を上げるようにしてください」
「えっ? なに? 密度?」
「そうです。密度です。攻撃魔法とは違い、食物を育てるためには滋養が必要ですからね。その密度をもう少し、」
「えっ、滋養? もしかして僕の体の中の養分から魔法と一緒に出ていっちゃうってこと?」
何それ、こわい。
「そんな訳ありません。空中にあるミネラルや様々な成分を取り入れて変化させてるんですよ」
「えーっ?て、あ」
それ、前の授業で教えてもらった……。
「どうやら思い出していただけたようですね」
「すみません」
「では意識して続けてください」
「はい」
前回の授業とは、公爵家のお茶会が終わってすぐにあった時のことだ。動揺していたぼくは集中力が欠けていた。
だけど、もちろんそんなことは言い訳にはならないよね。
それからぼくは密度を意識しながら水魔法の鍛錬に取り組んだ。
だけど、結構これが難しいんだ。
キリー先生は、少しずつ上達して行くものだから慌てないようにとは言ってくれたんだけどね。
授業を終えて戻る途中でお兄様と遭遇した。
「授業終わりましたか?」
「はい」
「それでは、一緒にお茶でもいかがですか」
「ありがとうございます。ですが残念なことに、今日はまだこれから予定が入ってまして」
「そうですか、残念です。――では、お送りして」
ハロルド兄さまは少し離れて待機していた侍従に声をかけて、僕らは屋敷へと戻ることにした。
「ルーク様がお待ちだよ」
「えっ? あ、もしかして」
「神妙な顔つきだったから、婚約の件だろうね」
あー、胃が痛くなってきた。
覚悟はしててもやっぱりね。
ん? でも神妙な顔つきって?
ぼくが顔を出した早々に、ルークが頭を下げた。
「すまない。即、了承とはいかなかった」
「……え」
父上と母上にはお茶会後のルークとの話は伝えていなかった。僕の中でやはり抵抗があり、伝えるのに躊躇するということもあったのだけど、お兄様の方は、ちゃんと決まってから伝えた方がいいだろうと判断したみたいだった。
どうやら正解だった。
「だけど却下されたわけではなくて、今後の様子を見て判断するということになったので希望は充分にあるんだ」
「今後の様子、ですか」
「ああ。……ノエルは今後、どうする予定か聞いてもいい?」
「え? ぼくは薬草研究所の所員を目指しているので、ハイスランド学園の薬草研究科に行くつもりですが」
「そうか!」
ルークの顔がパーッと明るくなった。ハーっと大きく息を吐き、全身が安堵感を表現している。
そしてぼくらに、ぼくとの婚約を認めるためには、ぼくがハイスランド学園に入学するのが最低条件として付けられたこと、そして入学から一年以内に2人の気持ちが変わらなければ婚約のことも考えようということになったと言った。
「念のためにお聞きしますけど、ノエルの他にこうやって候補みたいに上がってる人はいるんですか?」
「まさか、ノエルだけだよ!」
ハロルド兄様は、ルークの答えにほっと安心して安堵の息をついた。
申し訳なさそうにしているルークには悪いけど、ぼくもちょっぴり安堵していた。
だって、もしサラとルークが仲良くなるような兆しが見えたら、ぼくは早々に彼らから離れて逃げることができるってわけだ。
そういえばサラとルークはいったいいつから親しくなったんだろう?
最初に婚約破棄されたときもサラを疑ったことがなかったんだ。今度機会があったら聞いてみようかな。サラ嬢のことを知っていますか?って。
黙ってそんなことを考えているぼくを、ルークがジッと見ていることに気がついた。
ルークは表情をキュッと改める。
「ノエル、僕は君にふさわしい男になるため頑張るからね」
「え?」
ドキンと一瞬、心臓が大きな音をたてた。
「言葉だけじゃなくて、本当に頑張るから」
「は、はい」
ぼくの返事に、にこりと笑うルーク。
僕はバクバクとうるさいこの心臓の音が、嬉しさからくるものなのか後ろめたさからくるものなのか分からなかった。
その後ルークは父上と母上に正式に面会し、将来絶対婚約するので、互いの婚約者候補として待っていてもらいたいと願い出て了承を得た。
ノエルの魔法訓練のために、家庭教師としてキリー・レイモンドが雇われていた。
「ノエル様、水魔法を発動する前に、気を集中して密度を上げるようにしてください」
「えっ? なに? 密度?」
「そうです。密度です。攻撃魔法とは違い、食物を育てるためには滋養が必要ですからね。その密度をもう少し、」
「えっ、滋養? もしかして僕の体の中の養分から魔法と一緒に出ていっちゃうってこと?」
何それ、こわい。
「そんな訳ありません。空中にあるミネラルや様々な成分を取り入れて変化させてるんですよ」
「えーっ?て、あ」
それ、前の授業で教えてもらった……。
「どうやら思い出していただけたようですね」
「すみません」
「では意識して続けてください」
「はい」
前回の授業とは、公爵家のお茶会が終わってすぐにあった時のことだ。動揺していたぼくは集中力が欠けていた。
だけど、もちろんそんなことは言い訳にはならないよね。
それからぼくは密度を意識しながら水魔法の鍛錬に取り組んだ。
だけど、結構これが難しいんだ。
キリー先生は、少しずつ上達して行くものだから慌てないようにとは言ってくれたんだけどね。
授業を終えて戻る途中でお兄様と遭遇した。
「授業終わりましたか?」
「はい」
「それでは、一緒にお茶でもいかがですか」
「ありがとうございます。ですが残念なことに、今日はまだこれから予定が入ってまして」
「そうですか、残念です。――では、お送りして」
ハロルド兄さまは少し離れて待機していた侍従に声をかけて、僕らは屋敷へと戻ることにした。
「ルーク様がお待ちだよ」
「えっ? あ、もしかして」
「神妙な顔つきだったから、婚約の件だろうね」
あー、胃が痛くなってきた。
覚悟はしててもやっぱりね。
ん? でも神妙な顔つきって?
ぼくが顔を出した早々に、ルークが頭を下げた。
「すまない。即、了承とはいかなかった」
「……え」
父上と母上にはお茶会後のルークとの話は伝えていなかった。僕の中でやはり抵抗があり、伝えるのに躊躇するということもあったのだけど、お兄様の方は、ちゃんと決まってから伝えた方がいいだろうと判断したみたいだった。
どうやら正解だった。
「だけど却下されたわけではなくて、今後の様子を見て判断するということになったので希望は充分にあるんだ」
「今後の様子、ですか」
「ああ。……ノエルは今後、どうする予定か聞いてもいい?」
「え? ぼくは薬草研究所の所員を目指しているので、ハイスランド学園の薬草研究科に行くつもりですが」
「そうか!」
ルークの顔がパーッと明るくなった。ハーっと大きく息を吐き、全身が安堵感を表現している。
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「まさか、ノエルだけだよ!」
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だって、もしサラとルークが仲良くなるような兆しが見えたら、ぼくは早々に彼らから離れて逃げることができるってわけだ。
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「言葉だけじゃなくて、本当に頑張るから」
「は、はい」
ぼくの返事に、にこりと笑うルーク。
僕はバクバクとうるさいこの心臓の音が、嬉しさからくるものなのか後ろめたさからくるものなのか分からなかった。
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