5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ

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ルークの部屋のキリンス 2

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 あ、このお菓子。サクサクしていて中の方に杏のジャムが入っている。ぼくが大好きだったお菓子だ。ミルクの入ったカモミールティーも美味しい。

「気に入ってくれた?」
「はい、すごく美味しいです」
 よほどぼくの頬が緩んでいたのか、ルークがぼくをにこにこと見ている。その優しい眼差しに、息を呑んだ。

「あ、あのっ」
「なんだい?」
「キリンスに水をやってもいいですか?」
「……水? ああ、ノエルの水魔法か? ぜひあげてくれ」
 ルークの瞳がキラキラと輝いた。そういえばまだ、このルークには水魔法を発動させるところを見せたことがなかった。
「分かりました。でもまずは、ぼくのお腹を満たしてから」
 クッキーを手にそう言うと、ルークは満足そうにうなずいた。


 キリンスの鉢の前に立って、この状況はやっぱりおかしいと改めて思った。ずっとうっかりしていたけれど、ぼく専用として与えられた庭にもすでにキリンスがある。これもあってはおかしいことなんだ。
 キリンスは、父上の友人、シュパルツ伯爵からもらったものだ。彼が他国の商人を助けたときにお礼として二つの苗をもらったらしいのだが、そこまで植物に興味のなかった伯爵は、ぼくが水魔法や土魔法でハーブや薬草の研究をしていると聞き、これ幸いとぼくに譲ってくれたのだ。だけど、ぼくが巻き戻ってからまだシュパルツ伯爵は訪れていない。
 ということは、存在するはずのないキリンスが、ここに二つ存在しているということになる。

「ノエル?」
   キリンスの前で動かないぼくを不思議に思ったのか、ルークがぼくの顔を覗き込んだ。
「すみません、大丈夫です」

 とにかく難しいことは後で考えることにしよう。ぼくはキリンスに栄養を与えようと、手をかざした。
 手のひらに意識を持って行き、空気中の酸素やミネラルを吸収するように集中する。密度を意識するのはかなり難しい。だけどこれができるかできないかによって、植物に与える栄養がかなり違ってくるらしいのだ。
 密度を意識しているうちに、掌からふよふよと小さな水の粒が舞い上がる。それをキリンスの頭上まで持って行き、シャワーのようにさらに小粒の 水を散らす。その水が窓から差す光に反射して、キラキラと七色に輝いた。

「綺麗だね」
「そうですね」
「ノエルのことなんだけど」
「えっ?」

 ルークは笑っているけれど、その表情はいつもよりずっと真剣に見えた。

「僕は君のことがすごく好きなんだけど、今すぐにでも婚約したいくらいに」
「あの……」

 学園に入学したことで、ぼくはルークとの婚約の権利をもらったことになる。それなのにぼくがその事に言及しない曖昧さに、ルークも何かしら感じているのかもしれない。だけど、あからさまに急かすことをしないところがきっと彼の優しさだ。

 ルークが手を伸ばして、ぼくの髪を優しく梳いた。何度も、何度も。
 恥ずかしくなって俯くと、その手がぼくの顎に移動して上向かせた。

 優しい力。
 ぼくが退こうと思えば簡単に退ける。

 だけど……。

 しっとりと唇が重なった。柔らかくて、そして少しぼくよりも体温が低い。変わらない感触だ。

 涙が出てきた。懐かしくて恋焦がれて……。
 僕はやっぱりどうあっても、ルークのことが好きなんだ。

「ノエル……」

 ぼくの涙を見てルークが驚いていた。嫌がっているとでも思っただろうか。
 勘違いされたくなくて、ぼくはぎゅっとルークに抱き着いた。
 一瞬息をのんだルークが、嬉しそうにぼくの名を呼んで、ぼく以上の力でめいっぱいぼくを抱きしめてくれた。

 そしてお互い思いっきり抱きしめあった後、ルークが腕の力を抜いてそっと体を離した。そしてぼくの目を見る。

「好きだよ、愛してる」
「――ぼくも」
「ノエル!」

 ルークの感極まった声とほぼ同時に、わさっと葉の揺れる音がした。

 えっ?と二人でその音の方向に視線を向けると、キリンスが揺れたあと新芽が一つ増えていた。
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