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第38話:ドワーフの炯眼と溶け出す鉄の夢
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アキオたちが新しい竈とパン焼き窯の具体的な設計に取り掛かろうとしていた矢先、村の日常に新たな波紋が投げ込まれた。キナが、森の境界近くで見回りをしていた際に、新たな避難民の一団を発見し、小屋へと案内してきたのだ。その数は十数名ほどで、人間だけでなく、小柄なホビット族のような者や、そして一際目を引く、背は低いが肩幅が広く、見るからに屈強な体つきをしたドワーフの老人が混じっていた。彼らは皆、長旅と恐怖で疲れ果て、空腹と不安の色を濃く浮かべていた。
アキオたちは、既に経験のあることとして、彼らを温かく迎え入れ、アヤネが用意した滋養のあるスープと焼きたてのパンを振る舞った。シルヴィアも、体調の悪そうな者には薬湯を処方し、手際よく世話をする。
避難民たちが少し落ち着きを取り戻した頃、アキオはドワーフの老人に声をかけた。彼は名をドルガンと言い、以前は山の麓のドワーフの集落で鍛冶師をしていたが、弟子に工房を譲って久しく、今は悠々自適の隠居生活を送っていたという。しかし、ガルニア帝国の侵攻の噂と、それに伴う周辺地域の混乱を避け、安全な場所を求めて旅に出たのだと、低い声で訥々と語った。
ドルガンは、他の避難民たちが休息を取る中、一人、アキオたちが建設途中だった竈や、積み上げられた耐火レンガ、そして山と積まれた木炭に、鋭い専門家の視線を向けていた。彼はレンガを一つ手に取り、指で弾いてその音を確かめ、木炭の断面をじっと見つめ、時折アキオに「この土は何だ?」「この炭はどうやって焼いた?」と矢継ぎ早に質問を浴びせた。
アキオは、ドルガンが只者ではないことを見抜き、これまでの経緯――火浣土の発見、耐火レンガの製作、炭焼き窯での木炭作り――を包み隠さず説明した。そして、小屋の隅に大切に保管していた赤黒い石、鉄鉱石と思われる塊をドルガンに見せた。
「……俺は、いつかこの石から鉄を取り出し、もっと丈夫な道具や農具を作りたいと思っているんです。ですが、素人の考えで、なかなか……」
アキオの言葉を聞き、そして鉄鉱石らしき石を手に取って仔細に鑑定したドルガンの目が、カッと見開かれた。顔の皺が興奮で引き締まり、長い髭がわなわなと震える。
「……まさか、こんな森の奥で、これほどの『火浣土』のレンガと、これほど質の良い木炭を、人間の手で作り上げていたとは……。そしてこの石は……紛れもない、極上の鉄鉱石じゃぞ!」
ドルガンは、年甲斐もなく大声を上げ、アキオの肩をバンバンと叩いた。
「小僧……いや、アキオと言ったか。お前さん、なかなか面白いものを持っちょるのう! ワシはもう槌を置いた身じゃが……この石と、そのレンガ、そしてその炭を見せられては、鍛冶師の血が騒がんわけにはいかんわい!」
ドルガンは、一度深く息を吸い込むと、力強い声で宣言した。
「いいか、アキオ! よく聞け! このワシ、ドルガンがいれば、その石ころから見事な鉄を溶かし出し、お前さんたちが驚くような業物を打ち出してみせるわい! オレなら、鉄を溶かせられるぜ!」
その言葉は、アキオの胸に雷鳴のように轟いた。長年、心の奥底で夢見ていた「鉄作り」が、今、本物の専門家の、それも伝説に名高いドワーフの鍛冶師の協力によって、現実のものとなろうとしているのだ。アキオは、込み上げてくる興奮と感動を抑えることができなかった。
「本当ですか、ドルガンさん!?」
「ドワーフに二言はないわ! ただし、それにはちゃんとした『炉』が必要じゃ。お前さんたちの竈も悪くはないが、鉄を溶かすにはもっと工夫がいる。それに、大量の炭と、強力な風を送る『ふいご』もな」
ドルガンの言葉は具体的で、その瞳にはかつての職人としての誇りと情熱が蘇っていた。
シルヴィアも、二人のやり取りを興味深そうに聞いていたが、ドルガンの確かな技術力への期待と、彼がもたらすであろう変化への予感に、静かに頷いた。エルフとドワーフは、種族の気質こそ違えど、優れた「ものづくり」への敬意という点では通じるものがあるのかもしれない。
アルトやケンタは、本物のドワーフの鍛冶師の登場と、「鉄を作る」という壮大な話に、目をキラキラと輝かせて聞き入っている。キナも、「へえ、じっちゃん、すげえじゃねえか! 鉄ができたら、あたしにも丈夫なナイフ作ってくれよな!」と、早くも期待を寄せていた。
引退していたドワーフの鍛冶師ドルガンとの出会いは、アキオたちの新しい村に、まさに「鉄」という文明の灯を、そして力強い発展の可能性をもたらす大きな転機となった。彼の熟練の知識と経験、アキオの柔軟な発想と技術、シルヴィアの森の知恵、そして家族や仲間たちの尽きることのない協力。様々な力が結集し、ついに製鉄への具体的な挑戦が、この森の奥深くで始まろうとしていた。
まずは、ドルガンが設計する本格的な「製鉄炉」の建設からだ。その燃え盛る炎の中に、彼らはどんな未来を見るのだろうか。
アキオたちは、既に経験のあることとして、彼らを温かく迎え入れ、アヤネが用意した滋養のあるスープと焼きたてのパンを振る舞った。シルヴィアも、体調の悪そうな者には薬湯を処方し、手際よく世話をする。
避難民たちが少し落ち着きを取り戻した頃、アキオはドワーフの老人に声をかけた。彼は名をドルガンと言い、以前は山の麓のドワーフの集落で鍛冶師をしていたが、弟子に工房を譲って久しく、今は悠々自適の隠居生活を送っていたという。しかし、ガルニア帝国の侵攻の噂と、それに伴う周辺地域の混乱を避け、安全な場所を求めて旅に出たのだと、低い声で訥々と語った。
ドルガンは、他の避難民たちが休息を取る中、一人、アキオたちが建設途中だった竈や、積み上げられた耐火レンガ、そして山と積まれた木炭に、鋭い専門家の視線を向けていた。彼はレンガを一つ手に取り、指で弾いてその音を確かめ、木炭の断面をじっと見つめ、時折アキオに「この土は何だ?」「この炭はどうやって焼いた?」と矢継ぎ早に質問を浴びせた。
アキオは、ドルガンが只者ではないことを見抜き、これまでの経緯――火浣土の発見、耐火レンガの製作、炭焼き窯での木炭作り――を包み隠さず説明した。そして、小屋の隅に大切に保管していた赤黒い石、鉄鉱石と思われる塊をドルガンに見せた。
「……俺は、いつかこの石から鉄を取り出し、もっと丈夫な道具や農具を作りたいと思っているんです。ですが、素人の考えで、なかなか……」
アキオの言葉を聞き、そして鉄鉱石らしき石を手に取って仔細に鑑定したドルガンの目が、カッと見開かれた。顔の皺が興奮で引き締まり、長い髭がわなわなと震える。
「……まさか、こんな森の奥で、これほどの『火浣土』のレンガと、これほど質の良い木炭を、人間の手で作り上げていたとは……。そしてこの石は……紛れもない、極上の鉄鉱石じゃぞ!」
ドルガンは、年甲斐もなく大声を上げ、アキオの肩をバンバンと叩いた。
「小僧……いや、アキオと言ったか。お前さん、なかなか面白いものを持っちょるのう! ワシはもう槌を置いた身じゃが……この石と、そのレンガ、そしてその炭を見せられては、鍛冶師の血が騒がんわけにはいかんわい!」
ドルガンは、一度深く息を吸い込むと、力強い声で宣言した。
「いいか、アキオ! よく聞け! このワシ、ドルガンがいれば、その石ころから見事な鉄を溶かし出し、お前さんたちが驚くような業物を打ち出してみせるわい! オレなら、鉄を溶かせられるぜ!」
その言葉は、アキオの胸に雷鳴のように轟いた。長年、心の奥底で夢見ていた「鉄作り」が、今、本物の専門家の、それも伝説に名高いドワーフの鍛冶師の協力によって、現実のものとなろうとしているのだ。アキオは、込み上げてくる興奮と感動を抑えることができなかった。
「本当ですか、ドルガンさん!?」
「ドワーフに二言はないわ! ただし、それにはちゃんとした『炉』が必要じゃ。お前さんたちの竈も悪くはないが、鉄を溶かすにはもっと工夫がいる。それに、大量の炭と、強力な風を送る『ふいご』もな」
ドルガンの言葉は具体的で、その瞳にはかつての職人としての誇りと情熱が蘇っていた。
シルヴィアも、二人のやり取りを興味深そうに聞いていたが、ドルガンの確かな技術力への期待と、彼がもたらすであろう変化への予感に、静かに頷いた。エルフとドワーフは、種族の気質こそ違えど、優れた「ものづくり」への敬意という点では通じるものがあるのかもしれない。
アルトやケンタは、本物のドワーフの鍛冶師の登場と、「鉄を作る」という壮大な話に、目をキラキラと輝かせて聞き入っている。キナも、「へえ、じっちゃん、すげえじゃねえか! 鉄ができたら、あたしにも丈夫なナイフ作ってくれよな!」と、早くも期待を寄せていた。
引退していたドワーフの鍛冶師ドルガンとの出会いは、アキオたちの新しい村に、まさに「鉄」という文明の灯を、そして力強い発展の可能性をもたらす大きな転機となった。彼の熟練の知識と経験、アキオの柔軟な発想と技術、シルヴィアの森の知恵、そして家族や仲間たちの尽きることのない協力。様々な力が結集し、ついに製鉄への具体的な挑戦が、この森の奥深くで始まろうとしていた。
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