五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第66話:匠の技、紙と鉄、そして歯車の夢

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 アキオたちの町では、製紙プロジェクトが日増しに熱を帯びていた。最初にできた「紙らしきもの」から、より白く、より滑らかで、そしてより丈夫な紙を目指して、アキオとシルヴィア、そしてアヤネを中心とした女性たちは、連日試行錯誤を繰り返していた。

 シルヴィアは、様々な植物の灰汁(あく)を試し、繊維を煮る際の薬品として最も効果的なものを選び出した。また、彼女の薬草の知識から、特定の植物の粘液を「ネリ(紙料分散剤)」として加えることで、繊維が水中で均一に分散し、薄くても丈夫な紙が漉けるようになることを発見した。アヤネは、その繊細な手つきで、改良された簀桁(すげた)を操り、以前とは比べ物にならないほど質の高い紙を一枚一枚丁寧に漉き上げていく。完成した紙は、まだ地球の和紙には及ばないものの、十分に文字を書いたり、絵を描いたりするのに耐えうる品質になっていた。
「アキオ様、シルヴィアさん! 見てください! 今日の紙は、これまでで一番白くて、インクの乗りも良いですわ!」
 アヤネが、誇らしげに漉きたての紙を掲げると、アキオもシルヴィアもその進歩に目を細めた。セレスティーナ様は、その新しい紙を使って、子供たちのための手作りの絵本や、物語の写本を作り始め、村の文化レベルは着実に向上していた。

 一方、村の工房地区では、ドルガンとアキオ、そして弟子のアルトが、製鉄技術のさらなる高みを目指していた。浄化システム建設中に発見された「沼鉄鉱」は、従来の鉄鉱石よりも低温で還元しやすいため、より効率的に質の高い鉄を得る道を開いていた。
「ふむ、この沼鉄鉱ならば、炉の構造を少し変えるだけで、もっと多くの『玉鋼(たまはがね)』に近いものを作り出せるやもしれんぞ」
 ドルガンは、アキオと共に新しい小型の製鉄炉(たたら炉に近い構造)の設計図を描き、その建設に取り掛かった。木炭の質も、シルヴィアが発見した赤松の炭が非常に優れており、高温を持続させるのに役立っている。
 アルトは、師匠たちの指導のもと、ふいごの操作や、鍛冶作業の基本を黙々とこなし、その腕は日に日に上達していた。彼が初めて自分の手で打ち出した鉄の楔(くさび)は、形こそ不格好だったが、確かな強度を持っていた。

 そんな中、アキオは「水車」の夢を片時も忘れてはいなかった。彼は、製鉄作業の合間を縫って、水車の心臓部とも言える「歯車」の試作に取り組んでいた。地球では金属製の歯車が当たり前だったが、今の村の技術では、まずは木製の歯車から始めるしかない。
「問題は、木の歯車でどれだけの力を伝えられるか、そしてその耐久性だな…」
 アキオは、硬く粘りのある「月の木」や、油分を多く含み摩擦に強いとされる木材を選び出し、ノミとヤスリを巧みに使って、大小さまざまな歯車を削り出していく。シルヴィアも、木の耐久性を高めるための特殊な樹脂や薬草の塗布を提案し、ドルガンは、歯車同士が滑らかに噛み合うための形状や、軸受けの構造について、ドワーフならではの精密な助言を与えた。
 キナも、その様子を興味深そうに眺めていた。
「だんな、そんな木のギザギザで、本当に大きな石臼が回せるのかい? 不思議なもんだねぇ」
「ああ、上手くいけばな。この歯車が、俺たちの村の未来を大きく回してくれるかもしれないんだ」
 アキオは、試作の歯車を組み合わせ、ゆっくりと手で回してみる。ギギギ、と木の擦れる音がしたが、確かに力は伝わっている。その小さな回転が、いつか大きな動力へと変わる日を夢見て、アキオの目は希望に輝いていた。

 製紙技術の向上は、記録と文化の発展を。製鉄技術の進歩は、生活道具とインフラの強化を。そして、歯車の試作は、未来の動力革命への小さな、しかし確かな一歩を。
 アキオたちの町では、様々な「ものづくり」が同時進行し、それぞれの匠の技と情熱が、村の未来を少しずつ、しかし確実に形作っていた。冬の寒さが厳しくなる前に、彼らはさらなる成果を手にすることができるだろうか。村人たちの顔には、厳しい自然の中で生きる知恵と、創造の喜びが満ち溢れていた。
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