五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第76話:奥方様の吉報、芽吹く新たな生命(いのち)と村の秋

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 アキオたちの町に、豊かな実りの秋が再び巡ってきていた。生命樹はその枝葉を黄金色に染め、畑ではアヤネ率いる家畜飼育チームが世話をする森鶏が元気に卵を産み、岩山羊の乳も安定して供給され、森豚たちは次の春の耕作に向けて力を蓄えている。ドルガンの製鉄炉からは質の良い鉄が生み出され、アキオとアルトの手によって新しい農具や生活道具へと姿を変え、村人たちの暮らしを支えていた。セレスティーナ様の学び舎からは子供たちの賑やかな声が絶えず、レオノーラ様の指導する武術訓練も熱を帯びている。

 そして、何よりも大きな変化は、アキオの正妻、シルヴィアの身に訪れていた。
「濃厚な1週間」から季節が一つ巡った頃、シルヴィアは自身の体の中に、新たな生命の息吹が芽生え始めていることに気づいていた。最初は微かな体調の変化だった。普段は感じない軽い倦怠感、特定の匂いへの敏感さ、そして何よりも、森の薬師としての彼女の鋭敏な感覚が、自身の内なる生命力の高まりを明確に捉えていたのだ。
(まさか……本当に……アキオの…私の子を……)
 エルフとしての長い時の中で、これほどまでに心が震え、愛おしさで満たされる経験は初めてだった。彼女は数週間、その確信を胸に秘め、アキオにいつ、どのように伝えようかと思いを巡らせていた。

 ある月が美しい夜、中央館の「愛の巣」で、アキオとシルヴィアはいつものように穏やかな時間を過ごしていた。アキオが、完成に近づいた「森の恵み浄化システム」の最終調整について熱心に語っていると、シルヴィアがそっと彼の手を握り、真剣な、しかしこの上なく優しい眼差しで彼を見つめた。
「アキオ……あなたに、伝えなければならない大切なことがあるの」
 そのただならぬ雰囲気に、アキオも言葉を止め、シルヴィアの次の言葉を待った。
 シルヴィアは、アキオの手を自分のお腹へと優しく導き、そこにそっと当てさせた。そして、潤んだ瞳で、震える声で告げた。
「ここに……私たちの……新しい命が……芽生えているようなの……。アキオ…あなたと私の、愛の結晶が……」
 アキオは、一瞬、言葉を失った。シルヴィアのお腹に当てた手から、まだ感じることはできないはずの、しかし確かにそこに存在するであろう小さな命の温もりと、シルヴィアの深い愛情が、彼の全身を貫いた。
「……シルヴィア……本当か……? 俺たちの……子供……?」
 アキオの声もまた、喜びと感動で震えていた。
 シルヴィアは、涙を浮かべながらも、満面の笑みで深く頷いた。「ええ、アキオ。まだ、ほんの小さな気配だけれど…でも、確かに感じるわ。私たちの愛しい子が、この中で育っているのを」
 アキオは、シルヴィアを力強く、しかし壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。言葉にならないほどの愛おしさと感謝が、彼の胸に込み上げてくる。この異世界で、愛する妻との間に、新しい命を授かることができるとは――。
「ありがとう、シルヴィア……! ありがとう……!」
 二人は、ただただ抱き合い、その奇跡のような喜びに涙した。エルフの妊娠期間は人間よりも少し長いと聞く(パターンA:1年~1年半程度を想定)。これから一年以上の間、シルヴィアはこの小さな命を育んでいくことになるのだ。それは、アキオにとっても、そして村全体にとっても、かけがえのない希望の光となるだろう。

 この吉報は、翌日にはアヤネたち他の妻たちにも伝えられ、家族全員が大きな喜びに包まれた。アヤネは「シルヴィア様、おめでとうございます! 私も、叔母として、精一杯お手伝いさせていただきます!」と涙ながらに祝福し、キナも「奥方様、やったじゃないか! だんなの子供なら、きっとすげー元気な子が生まれるぜ!」と大喜び。セレスティーナ様とレオノーラ様も、心からの祝辞を述べ、シルヴィアの体を気遣った。

 シルヴィアの懐妊という大きな喜びは、村の「ものづくり」にも新たな活気を与えた。
 製紙プロジェクトは、アヤネの努力とシルヴィアの助言により、白くて丈夫な紙が安定して生産できるようになっていた。セレスティーナ様は、その紙を使って、生まれてくる赤ちゃんのための絵本や、子育てに関する知識を書き記し始めた。
 ドルガンとアキオは、より安全で快適な子供部屋の設計や、赤ちゃんのための特別な道具(例えば、揺りかごや、肌触りの良い木のおもちゃなど)の製作にも思いを馳せる。
「森の恵み浄化システム」も最終段階に入り、稼働すれば村の衛生環境は格段に向上し、母子共に安心して暮らせる環境が整うだろう。

 アキオたちの町に、新たな、そして何よりも尊い生命の光が灯ろうとしていた。それは、これまでの彼らの努力と愛情が結実した、最高の贈り物だった。家族と村人たちの祝福を受けながら、シルヴィアのお腹の中で、未来への希望が静かに、しかし力強く育まれ始めていた。
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