五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第110話:妻たちの共鳴、祝福の口吻と新たなる覚醒

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 聖女アウロラの誕生という奇跡的な出来事から数日後。アキオの町の中央館では、アキオと妻たち(シルヴィア、アヤネ、キナ、レオノーラ、セレスティーナ)、そして当事者であるアウロラも交えて、今後のことを話し合うための「妻会」が開かれていた。

 アウロラは、アキオへの深い愛情と、彼との間に子を成し、廃墟の地を再生するという壮大な計画を改めて語った。アキオのキスによってその身に宿った「生命の祝福」の力、そして「暁光の聖女」としての新たな格は、子を成すことへのリスクを完全に払拭したように感じられた。
 アキオもまた、アウロラと共にその願いを叶えたいという強い意志を表明する。
「アウロラの願いは、俺の願いでもある。彼女と、そして生まれてくるであろう子供と共に、あの不毛の地を緑豊かな森に変えたいんだ」
 その言葉に、妻たちは静かに頷いた。アウロラの神々しいまでの変化と、アキオの揺るぎない決意を前にして、反対する者はいなかった。アウロラとアキオが子を成すことは、この時点で、家族全員の事実上の総意となった。具体的な時期や方法については、アウロラの体調や町の状況を考慮し、改めて慎重に決めることになった。

 話し合いが一段落した時、シルヴィアがどこか探るような、そしてほんの少しだけ複雑な表情で口火を切った。
「アウロラ様…いえ、アウロラ。貴女のその素晴らしい変化、本当に喜ばしいわ。アキオのキスが、そのような奇跡を呼んだのですね…」彼女はアキオに視線を移し、珍しくジト目になりながら天を仰いだ。「まさか…アキオに、そんな力が…。人間には作用しないと思っていたけれど…」
 シルヴィアの言葉には、アウロラへの祝福と共に、ほんの僅かな、彼女自身も意識していないかもしれない嫉妬心が滲んでいた。それは、アキオの最初の妻として、エルフとして、彼と最も長く深い絆を育んできた自負と、アウロラが見せた圧倒的なまでの変貌への畏敬が入り混じった感情かもしらなかった。
「生命樹の実を食べてから、私自身も何かしらの変化は感じています。けれど、アキオ…貴方があの実を食べてからのキスは、まだ経験していないわね…?」
 その言葉は、半分冗談めかしているようで、半分は真剣な響きを帯びていた。エルフの長い寿命をもってしても、アウロラのような豊満な曲線美は望むべくもなく、また望んだこともなかったが、アキオとの絆がもたらす未知の可能性には、強い興味を惹かれずにはいられない。

 アキオは、シルヴィアの真意を察し、苦笑しつつも彼女の手を取った。
「シルヴィア…君が俺にとってどれだけ大切な存在か、言葉だけじゃ伝えきれない。もし、俺の力が君の助けになるなら…」
 シルヴィアは、その言葉に満足そうに微笑むと、自らアキオの唇に吸い寄せられるようにキスをした。それは、長年連れ添った夫婦ならではの、深く穏やかで、しかし確かな愛情に満ちたキスだった。
 その瞬間、シルヴィアの身体から、清らかで力強い白銀の光が溢れ出した。生命樹の実によって活性化されていた彼女のエルフとしての潜在能力が、アキオの「生命の祝福」の力と共鳴し、限界を超えて開花していく。光が収まった時、そこにいたシルヴィアは、以前よりもさらに精気に満ち、その瞳には森羅万象を見通すかのような深い叡智が宿り、全身から放たれるオーラは気高く神々しいものへと変化していた。
「まあ…これが…」シルヴィアは自身の両手を見つめ、驚きと喜びに満ちた声を上げた。「身体が軽い…力が、そして森の囁きが、以前よりもずっと鮮明に感じられる…これが、ハイエルフへの…!」
 彼女は、エルフ族の中でも特に高位とされる「ハイエルフ」へと昇華を遂げたのだった。その美しさは人間離れした清らかさを増し、森の賢者としての風格が一層高まっていた。

 シルヴィアの劇的な変化を目の当たりにした他の妻たちは、驚きと興奮を隠せない。
「すっげえ…シルヴィア姉、なんかキラキラしてるぜ!」キナが目を輝かせる。
 レオノーラもゴクリと喉を鳴らし、「アキオ殿…その…わたくしにも、その祝福をいただけないだろうか…?」と、騎士らしからぬ緊張した面持ちで申し出た。セレスティーナも、期待と少しの不安が入り混じった表情でアキオを見つめている。アヤネは、ただただその光景に圧倒されながらも、アキオの持つ不思議な力に改めて畏敬の念を抱いていた。

 アキオは、妻たちの期待に応えるように、一人一人と愛情を込めたキスを交わしていった。
 レオノーラの身体からは、キスと共に淡い治癒の光が放たれ、長年の騎士生活で刻まれた幾多の古傷や、出産を経た身体の微細な歪みまでもが完全に消え去り、まるで生まれたてのような完璧な健康体を取り戻した。その瞳には、力強さと共に、深い安らぎの色が浮かんでいる。
 セレスティーナもまた、キスによって身体の内側から生命力が活性化し、元王女としての気品と母としての慈愛が、より一層輝きを増した。彼女自身も、身体が軽く、そして心が澄み渡るような感覚に包まれていた。
 人間である彼女たちには、シルヴィアのような種族的な昇華は起こらなかったが、その身に宿る生命力は最大限に高められ、心身ともに最高の状態へと調律されたかのようだった。

 そして、キナ。彼女がアキオとキスを交わした時、その狼獣人の血が激しく沸き立った。彼女の身体から力強い赤いオーラが立ち上り、その髪は燃えるような赤銅色に輝きを増し、瞳は満月のように黄金色に輝いた。狼の耳はピンと張り、その鋭敏な五感は極限まで研ぎ澄まされ、全身の筋肉はしなやかさと爆発的な力を兼ね備えたものへと変貌を遂げる。
「ぐおおぉ…! なんか、力が…力がみなぎってくるぜ、だんなぁ!」
 キナは、自らの変化に驚きと興奮の声を上げた。それは、単なる身体能力の向上ではない。彼女の魂の奥底に眠っていた狼の祖霊、あるいは神聖な獣としての本質が呼び覚まされたかのような感覚――彼女は「神狼の血脈」に連なる者としての潜在能力を、その身に開花させたのだった。その力は、森との一体感を深め、仲間を守るための強大な守護の力となるだろう。

 最後に、アヤネ。彼女がアキオとキスをした時、シルヴィアたちのような劇的な光の奔流や、キナのような力強いオーラの迸りはなかった。しかし、アヤネは確かに感じていた。アキオの温かい力が、そっと彼女の魂に触れ、何かとても大切な、そして優しい「種」のようなものが、彼女の心の奥深くに植えられたような感覚を。
(これは…何かしら…? とても温かくて、安心するけれど…)
 それが具体的に何なのか、アヤネ自身にもまだ分からなかった。しかし、その「種」は、彼女の献身的な愛と、アキオの「生命の祝福」が共鳴して生まれた、未来への大いなる可能性の萌芽――彼女が持つ「生命を育む慈愛の力」が、静かに目覚め始めた瞬間なのかもしれない。それは、いつか彼女が母となる時、あるいは保育園の子供たちや、この町の生命全てに、計り知れない恩恵をもたらす力となるだろう。

 妻たちは、それぞれに訪れた奇跡的な変化に、驚き、喜び、そしてアキオへの感謝と愛情を新たにした。アキオ自身も、自らのキスがこれほどの変化をもたらすとは思いもよらなかったが、愛する妻たちがより輝きを増したことに、深い満足感を覚えていた。
 アウロラの子作りは、この大きな変化と、それぞれの覚醒が落ち着き、皆が新たな力を自身のものとするまで、自然と一時保留となった。アキオの町は、アウロラという聖女の誕生に加え、妻たちの新たなる覚醒という、大きな祝福の時を迎えていた。それは、この町が新たなステージへと進むための、力強い序章となるのかもしれない。
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