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第123話:祝福の連鎖と新たな絆、そして価値の形
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アキオの町は、冬の厳しさの中にも、生命の息吹と新たな希望に満ち溢れていた。アヤネ、セレスティーナ、レオノーラ、そしてヘルガと、立て続けに懐妊の報せが舞い込んだアキオ家だったが、その祝福の連鎖はまだ終わらなかった。
その日、朝からどこかそわそわと落ち着かない様子だったキナが、夕食の席で、満面の笑みと共にアキオに飛びついてきた。
「だんなっ! あたしも…あたしも、だんなの子、お腹にいるみてえだぞ!」
その言葉に、食卓は一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声と祝福の言葉で包まれた。シルヴィアは優しく微笑み、アヤネたちは自分のことのように喜び、子供たちも「また赤ちゃん増えるのー!?」と大はしゃぎだ。アキオは、驚きと喜びで目を丸くしながらも、キナを力強く抱きしめた。これでアキオ家には、アウロラを含めれば実に六人もの妊婦がいることになる。
「キナ…本当か! 神狼の血を引く、元気な子が生まれてくるな!」
「おう! 任せとけって、だんな!」
キナの太陽のような笑顔が、食卓を一層明るく照らした。
一方、暁光の聖女アウロラは、アキオとの生命樹の下での一ヶ月にわたる濃密な愛の交歓を経て、その身も心も、そしてお腹に宿る「暁の御子」も、完全に安定した状態にあった。彼女から放たれるオーラは以前にも増して清らかで力強く、その存在は町全体に安らぎと祝福をもたらしている。日中は、アヤネや他の妊婦たちと穏やかにお茶を飲みながら出産や育児について語らったり、生命樹の麓で静かに瞑想し、お腹の御子と対話したりと、満ち足りた日々を送っていた。
町の広場や共同浴場では、ヴァルト子爵領からやって来た使者、ゲルトとリーゼロッテ夫妻の姿がよく見かけられた。彼らはアキオの町の様々な施設や技術、そして何よりも人々の暮らしぶりに深い関心を示し、積極的に住民たちと交流を深めている。リーゼロッテは、シルヴィアやアヤネ、セレスティーナたち「妻会」の面々と茶会を開き、子爵領の文化や貴族社会の慣習などを語り、逆にアキオの町の共同体としての成り立ちや、女性たちの役割について熱心に耳を傾けていた。ゲルトは、アキオやアルト、ドルガンと共に工房や水車小屋を見て回り、その独創的な技術や効率的なシステムに度々舌を巻いていた。
また、先んじて子爵領から派遣されてきた数名の年配の産婆たちは、マーサの元で熱心に研修に励んでいた。アキオの町の驚異的な乳幼児の健康状態と、母乳の豊かさの秘密を少しでも持ち帰ろうと、彼女たちはマーサの言葉一つ一つに真剣に聞き入っている。その夫たちもまた、町の力仕事や畑仕事を手伝い、すぐに住民たちと打ち解けていた。
そんな交流が深まる中で、ある日、アキオはゲルト夫妻と今後の本格的な交易について話し合う機会を持った。
「アキオ殿、我が子爵領と貴殿の町との交易は、双方にとって大きな利益をもたらすものと確信しております。つきましては、どのような品を、どのような形で交換するのが最も良いか、具体的な話し合いを進めたいのですが…」ゲルトが切り出す。
アキオも頷き、町の特産品(アキオ鋼の道具、良質な紙、そしていずれは味噌や醤油などの加工品)と、子爵領から得たい物資(塩、特定の鉱石、家畜など)について意見を交わした。しかし、話が進むにつれ、物々交換の難しさが浮き彫りになってくる。品物の価値をどう定めるのか、一度に交換できる量と種類には限界がある、など。
そこでリーゼロッテが、穏やかな口調で提案した。
「アキオ様。私たちの領地や、多くの国々では、このような交易の際には『貨幣』というものを用いております。それぞれの品物にあらかじめ価値を定め、この貨幣を仲介させることで、より円滑で大規模な取引が可能となるのです」
彼女は、子爵領で使われているという銀貨や銅貨をいくつか取り出して見せ、その仕組みや利便性について丁寧に説明した。
「貨幣…か」アキオは腕を組む。日本にいた頃には当たり前のように使っていたものだが、この世界に来てからは、物々交換と共同体内の助け合いで全てが成り立っていた。しかし、町の規模が大きくなり、外部との交易が始まろうとしている今、確かに何らかの共通の「価値の尺度」が必要なのかもしれない。
「なるほど、便利なものだな。だが、この町でそれを作るとなると…」
アキオは、その日のうちにシルヴィア、アウロラ、アルト、そしてドルガンといった町の中心人物たちを集め、リーゼロッテから聞いた貨幣の話を共有し、アキオの町独自の「交換媒体」の導入について、初めて本格的な議論を開始した。
「貨幣があれば、確かに交易は楽になるだろう。だが、今の俺たちの暮らしに本当に必要なのか?」「作るなら、どんな材質で、どんな価値にする?」「偽物が出回る心配はないのか?」
様々な意見や疑問が飛び交い、その日のうちに結論が出ることはなかった。しかし、それはアキオの町が、原始的な共同体から、より複雑な社会システムを持つ共同体へと発展していくための、重要な第一歩となる議論だった。
その傍らで、アルトとミコの子爵領への派遣準備も着々と進んでいた。二人は、アキオやシルヴィアから子爵領で伝えるべき技術や知識の最終確認を受け、また、向こうで学ぶべきことについて期待に胸を膨らませていた。出発の日も、そう遠くはない。
アキオの町は、内には新しい生命の祝福が満ち、外には新たな世界との繋がりが生まれ、そしてその仕組み自体もまた、少しずつ変化し、成長を遂げようとしていた。
その日、朝からどこかそわそわと落ち着かない様子だったキナが、夕食の席で、満面の笑みと共にアキオに飛びついてきた。
「だんなっ! あたしも…あたしも、だんなの子、お腹にいるみてえだぞ!」
その言葉に、食卓は一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声と祝福の言葉で包まれた。シルヴィアは優しく微笑み、アヤネたちは自分のことのように喜び、子供たちも「また赤ちゃん増えるのー!?」と大はしゃぎだ。アキオは、驚きと喜びで目を丸くしながらも、キナを力強く抱きしめた。これでアキオ家には、アウロラを含めれば実に六人もの妊婦がいることになる。
「キナ…本当か! 神狼の血を引く、元気な子が生まれてくるな!」
「おう! 任せとけって、だんな!」
キナの太陽のような笑顔が、食卓を一層明るく照らした。
一方、暁光の聖女アウロラは、アキオとの生命樹の下での一ヶ月にわたる濃密な愛の交歓を経て、その身も心も、そしてお腹に宿る「暁の御子」も、完全に安定した状態にあった。彼女から放たれるオーラは以前にも増して清らかで力強く、その存在は町全体に安らぎと祝福をもたらしている。日中は、アヤネや他の妊婦たちと穏やかにお茶を飲みながら出産や育児について語らったり、生命樹の麓で静かに瞑想し、お腹の御子と対話したりと、満ち足りた日々を送っていた。
町の広場や共同浴場では、ヴァルト子爵領からやって来た使者、ゲルトとリーゼロッテ夫妻の姿がよく見かけられた。彼らはアキオの町の様々な施設や技術、そして何よりも人々の暮らしぶりに深い関心を示し、積極的に住民たちと交流を深めている。リーゼロッテは、シルヴィアやアヤネ、セレスティーナたち「妻会」の面々と茶会を開き、子爵領の文化や貴族社会の慣習などを語り、逆にアキオの町の共同体としての成り立ちや、女性たちの役割について熱心に耳を傾けていた。ゲルトは、アキオやアルト、ドルガンと共に工房や水車小屋を見て回り、その独創的な技術や効率的なシステムに度々舌を巻いていた。
また、先んじて子爵領から派遣されてきた数名の年配の産婆たちは、マーサの元で熱心に研修に励んでいた。アキオの町の驚異的な乳幼児の健康状態と、母乳の豊かさの秘密を少しでも持ち帰ろうと、彼女たちはマーサの言葉一つ一つに真剣に聞き入っている。その夫たちもまた、町の力仕事や畑仕事を手伝い、すぐに住民たちと打ち解けていた。
そんな交流が深まる中で、ある日、アキオはゲルト夫妻と今後の本格的な交易について話し合う機会を持った。
「アキオ殿、我が子爵領と貴殿の町との交易は、双方にとって大きな利益をもたらすものと確信しております。つきましては、どのような品を、どのような形で交換するのが最も良いか、具体的な話し合いを進めたいのですが…」ゲルトが切り出す。
アキオも頷き、町の特産品(アキオ鋼の道具、良質な紙、そしていずれは味噌や醤油などの加工品)と、子爵領から得たい物資(塩、特定の鉱石、家畜など)について意見を交わした。しかし、話が進むにつれ、物々交換の難しさが浮き彫りになってくる。品物の価値をどう定めるのか、一度に交換できる量と種類には限界がある、など。
そこでリーゼロッテが、穏やかな口調で提案した。
「アキオ様。私たちの領地や、多くの国々では、このような交易の際には『貨幣』というものを用いております。それぞれの品物にあらかじめ価値を定め、この貨幣を仲介させることで、より円滑で大規模な取引が可能となるのです」
彼女は、子爵領で使われているという銀貨や銅貨をいくつか取り出して見せ、その仕組みや利便性について丁寧に説明した。
「貨幣…か」アキオは腕を組む。日本にいた頃には当たり前のように使っていたものだが、この世界に来てからは、物々交換と共同体内の助け合いで全てが成り立っていた。しかし、町の規模が大きくなり、外部との交易が始まろうとしている今、確かに何らかの共通の「価値の尺度」が必要なのかもしれない。
「なるほど、便利なものだな。だが、この町でそれを作るとなると…」
アキオは、その日のうちにシルヴィア、アウロラ、アルト、そしてドルガンといった町の中心人物たちを集め、リーゼロッテから聞いた貨幣の話を共有し、アキオの町独自の「交換媒体」の導入について、初めて本格的な議論を開始した。
「貨幣があれば、確かに交易は楽になるだろう。だが、今の俺たちの暮らしに本当に必要なのか?」「作るなら、どんな材質で、どんな価値にする?」「偽物が出回る心配はないのか?」
様々な意見や疑問が飛び交い、その日のうちに結論が出ることはなかった。しかし、それはアキオの町が、原始的な共同体から、より複雑な社会システムを持つ共同体へと発展していくための、重要な第一歩となる議論だった。
その傍らで、アルトとミコの子爵領への派遣準備も着々と進んでいた。二人は、アキオやシルヴィアから子爵領で伝えるべき技術や知識の最終確認を受け、また、向こうで学ぶべきことについて期待に胸を膨らませていた。出発の日も、そう遠くはない。
アキオの町は、内には新しい生命の祝福が満ち、外には新たな世界との繋がりが生まれ、そしてその仕組み自体もまた、少しずつ変化し、成長を遂げようとしていた。
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