五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
137 / 387

第137話:春の息吹と小さな成長、記録者の新たな気づき

しおりを挟む
 厳しい冬がようやくその終わりを告げ、アキオの町にも生命樹の柔らかな光と共に、春の息吹が感じられるようになってきた。雪解け水がせせらぎを作り、木々の枝には小さな新芽が顔を出し始めている。町全体が、新しい季節の訪れを静かに喜び、活気づいていた。

 中央館では、アキオ家の小さな天使たちの成長が、日々の大きな喜びとなっていた。
 アヤネの息子アサヒは、母親譲りの穏やかな気性で、よく笑い、アキオがあやすと嬉しそうに「あー、うー」と声を出すようになった。キナの娘ルナは、早くも寝返りを打ちそうな勢いで手足をばたつかせ、その力強さはまさに母親譲りだ。セレスティーナの息子エドワードは、物静かながらも周囲をじっと観察するような賢そうな瞳を持ち、レオノーラの息子ライナスは、時折、父親であるアキオの指を驚くほど強い力で握りしめてみせた。
 ユメは、そんな赤ん坊たちの愛らしい仕草や、日々の小さな変化を、アキオから贈られた日記帳に丹念に記録していた。
『――今日、アサヒ様が初めて声を出して笑った。アヤネ様とアキオ様は、それはもう大喜びだった。ルナ様は、もうすぐ寝返りができそう。頑張れ、ルナ様! エドワード様とライナス様も、日に日に表情が豊かになってきて、見ているだけで心が温かくなる。この町の未来は、きっとこの子たちがもっともっと明るくしてくれるんだろうな。――』
 彼女の記録は、ただの観察に留まらず、そこに温かい眼差しと、未来への希望が込められていた。

 そんなユメとケンタの新婚生活も、穏やかに、そして愛情深く続いていた。ケンタは、町の力仕事や開墾作業に一層精を出し、ユメは妻として家事をこなしながら、記録者としての活動にも熱心に取り組んでいる。夜、小さな我が家で、二人はその日あった出来事を語り合い、将来の夢を語り合う。
「ユメ、今日も一日お疲れさん。何か面白いこと、記録できたか?」
「はい、ケンタくん。今日は、アサヒ様がね…」
 そんな他愛ない会話の中で、ケンタがふと「俺たちにも、いつかアサヒ様やルナ様みたいな、元気な子が来てくれるといいな」と呟くと、ユメは顔を赤らめながらも、幸せそうにこくりと頷く。二人の間には、まだ言葉にはしないけれど、共に家族を築き、この町で生きていくという確かな未来への想いが、ゆっくりと育まれていた。

 ヴァルト子爵領との交流も、順調に進んでいた。
 子爵領で学ぶアルトとミコからも、月に一度、必ず手紙が届けられた。そこには、彼らが学ぶ新しい技術や知識、子爵領の文化や人々の暮らしぶり、そして何よりも二人が互いを支え合い、元気にやっていることが綴られており、アキオや町の皆を安心させた。アルトは石造りの建築技術だけでなく、子爵領の行政システムの一部にも触れる機会を得ているらしく、ミコは多様な薬草の知識と共に、より体系的な医療のあり方についても学んでいるようだった。彼らが持ち帰るであろうものが、アキオの町のさらなる発展に繋がることは間違いない。
 アキオの町で研修を受けていた子爵領の産婆たちは、マーサの元で多くのことを学び、その熱心さは目を見張るものがあった。彼女たちは、アキオの町の進んだ衛生観念や、薬草を用いた母子ケア、そして何よりも生命樹の恩恵による子供たちの驚くべき健康状態に、日々感銘を受けていた。

 エルドリアへの細き希望の糸を託された商人ヨハンの動向については、まだ具体的な知らせは届いていなかった。セレスティーナは、日々の妊婦としての穏やかな生活を送りながらも、心の奥底では弟クリストフ王子の安否を気遣い、ヨハンからの吉報を待ち続けていた。アキオやレオノーラもまた、彼女のその想いに寄り添い、静かにその時を待っていた。

 そして、光妃アウロラの「暁の御子」の妊娠は、さらに神秘の度合いを深めていた。彼女のお腹は、他の妊婦たちと比べるとそれほど大きくはないが、その内に宿る双子の御子たちの存在感は、日ごとに強大になっているのがアウロラ自身にも、そしてアキオにも感じられた。時には、アウロラのお腹が淡いオーロラ色の光を発し、生命樹がそれに応えるように優しい光で彼女を包み込むこともあった。アウロラは、その度に、お腹の御子たちが何かを語りかけてくるような、不思議な感覚を覚えるのだった。
「アキオ…この子たちは、ただ生まれてくるだけではないようです。何か…大きな使命を、その小さな魂に宿している…そんな気がするのです」
 アウロラがそう語る時、その表情は聖女としての厳粛さと、母としての深い愛情に満ち溢れていた。アキオは、そんな彼女を力強く抱きしめ、その使命を共に受け止め、支えていくことを改めて誓うのだった。

 春の柔らかな日差しが、アキオの町を優しく照らし始めていた。多くの新しい命が育まれ、若い世代が成長し、そして外部世界との絆が深まっていく。ユメの日記帳には、そんな希望に満ちた日々の輝きが、一日また一日と、丁寧に刻まれていくのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活

怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。 スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。 何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、 優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、 俺は必死に、置いていかれないようについていった。 自分には何もできないと思っていた。 それでも、少しでも役に立ちたくて、 誰にも迷惑をかけないようにと、 夜な夜な一人でダンジョンに潜り、力を磨いた。 仲間を護れるなら… そう思って使った支援魔法や探知魔法も、 気づかれないよう、そっと重ねていただけだった。 だけどある日、告げられた。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、優しさからの判断だった。 俺も分かっていた。だから、何も言えなかった。 こうして俺は、静かにパーティを離れた。 これからは一人で、穏やかに生きていこう。 そう思っていたし、そのはずだった。 …だけど、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、 また少し、世界が騒がしくなってきたようです。 ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

処理中です...