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第142話:エルドリアへの旅立ち、騎士の愛と獣人の願い
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エルドリアへの支援物資である生命樹の秘薬――濃縮されたエキス、丸薬、そして塗り薬――の準備が整い、数日後、アキオの町の広場には、旅立ちの時を迎えた者たちが集まっていた。レオノーラが選抜した、町の若い衆の中でも特に腕が立ち、かつ口の堅い三名の護衛。そして、彼らを導き、商人ヨハンのネットワークを通じてエルドリアの抵抗勢力「暁の鷲」へと物資を届ける任を負った、ヨハンの信頼する部下であるという数名の商人たち。
彼らの手には、アキオからの親書と、セレスティーナとレオノーラが涙ながらに綴ったクリストフ王子への手紙が託されている。
「どうか…どうか、よしなに頼む…!」
セレスティーナは、使者の一人に深々と頭を下げた。その瞳には、不安と、しかしそれ以上に強い希望の光が宿っている。レオノーラもまた、固い表情で彼らに敬礼し、その武運を祈った。
アキオは、使者たち一人一人の肩を叩き、激励の言葉をかける。「道中、くれぐれも気をつけて。そして、エルドリアの民に、我々のささやかな支援が届くことを願っている」
多くの町民たちに見送られ、エルドリア支援隊は、夜明け前の薄明かりの中、東の森へと静かに旅立っていった。その小さな一団の背中には、アキオの町の、そして二人の王女の切なる願いが託されていた。
使者たちを見送った後、アキオはシルヴィア、そしてアウロラと共に、中央館の一室で新たな課題に向き合っていた。それは、キナから投げかけられた「獣人の寿命と生命樹の実」に関する問いへの、具体的な第一歩だった。
「キナの願いは、ただ長生きしたいというだけではない。家族と共に、一日でも長く、幸せな時間を分かち合いたいという、愛の表れだ」アキオが静かに語る。
シルヴィアは頷いた。「ええ。生命樹の実や葉には、確かに生命力を高め、治癒を促進する力があります。ですが、それが各種族の寿命そのものにどう影響するかは、未知数ですわ。特に獣人の方々の身体の仕組みは、人間やエルフとは異なりますから」
アウロラもまた、その神聖な瞳で二人を見つめた。「じゃが、アキオの『生命の祝福』の力が加われば、不可能が可能になるやもしれぬ。まずは、キナ自身の身体に負担をかけぬよう、生命樹の恵みを最も良い形で彼女に届ける方法を考えるべきじゃのぅ」
三人は、数日間にわたり知恵を絞った。そして、シルヴィアが中心となり、生命樹の若葉や樹皮、そして僅かな実のかけらを使い、獣人の体質に合わせて調合された特別な「生命樹の活力剤(仮称)」のレシピを考案した。それは、寿命を直接的に伸ばすというよりは、身体の内側から生命力を活性化させ、健康を増進し、老化を緩やかにすることを目的としたものだった。
完成した琥珀色の液体を、アキオはキナに手渡した。
「キナ、これはお前のための薬だ。シルヴィアとアウロラが、お前の身体のことを一番に考えて作ってくれた。すぐに効果が出るかは分からないし、寿命がどうなるかも約束はできない。だが、これを毎日少しずつ飲んで、身体の調子を見てほしいんだ」
キナは、その小さな瓶を大切そうに受け取り、アキオ、シルヴィア、アウロラの顔を交互に見つめた。その瞳には、深い感謝と信頼の色が浮かんでいる。
「だんな…シルヴィア姉ちゃん、アウロラ姉ちゃん…ありがとうな! あたし、試してみるぜ! これで、だんなや子供たちと、いーっぱい一緒にいられるようになるかもしれねえんだもんな!」
その日から、キナは毎朝、その活力剤を少量ずつ飲むようになった。彼女自身も、そしてアキオたちも、それがどのような変化をもたらすのか、焦らず、しかし確かな希望を持って見守り始めた。
エルドリアへの使者が出発し、キナの新しい試みも始まったその夜。アキオは、レオノーラの部屋を訪れた。彼女は、生まれたばかりのライナスをあやしながら、アキオの来訪を穏やかな笑顔で迎えた。
「アキオ殿、今宵はどのような…?」
「いや、レオノーラ。君と、ゆっくり話がしたくてな」
アキオは、レオノーラの隣に座り、彼女の肩をそっと抱いた。エルドリアへの想いを抱えつつも、今は母親として、そしてアキオの妻としての日常を送る彼女。アキオのキスによって古傷が全て癒え、完璧な健康体を取り戻した彼女の肌は、湯上がりのように艶やかで、その切れ長の瞳には、以前の厳しさだけでなく、深い愛情と、そして女性としての自信からくる艶やかさが宿っていた。
「エルドリアのことは、俺もできる限り力を尽くす。だから、君は今、ライナスとエルザ、そして君自身のことを一番に考えてほしい」
「はい…アキオ殿のそのお言葉だけで、わたくしは救われます」
レオノーラは、アキオの胸にそっと顔をうずめた。それは、かつての彼女からは想像もできないほど、素直で、そして愛らしい仕草だった。彼女の覚醒は、騎士としての誇りを損なうことなく、その下に隠されていた豊かな女性性を開花させたのだ。
二人の夜は、もはや以前のような緊張感を伴う「訓練」ではなく、互いの存在を確かめ合い、慈しみ合う、深く穏やかで、しかし芯には確かな情熱を秘めたものへと変わっていた。レオノーラは、アキオの腕の中で、これまでにないほどの安らぎと幸福を感じていた。それは、彼女がアキオの妻として、そして一人の女性として、真に満たされた瞬間だったのかもしれない。
アウロラの双子の御子の妊娠も順調に進み、その神秘的な胎動は、時に生命樹を通じて町全体に穏やかな祝福の波動を送っているかのようだった。
ヴァルト子爵領からは、産婆研修団の第一期生たちが、多くの学びと感謝を胸に、間もなく帰国の途につくという連絡も入っている。彼女たちは、アキオの町で得た知識と経験を、必ずや自領の母子のために役立てると誓っているという。
ユメとケンタの新婚生活も、穏やかで幸せに満ちている。ユメは、町の記録者として、日々の出来事――エルドリアへの旅立ち、キナの新しい試み、そしてレオノーラとアキオの間に流れる深い愛情の空気までも――その瑞々しい筆致で、日記に綴り続けていた。
アキオの町は、様々な想いと願いを乗せて、ゆっくりと、しかし確実に、その未来を紡いでいた。
彼らの手には、アキオからの親書と、セレスティーナとレオノーラが涙ながらに綴ったクリストフ王子への手紙が託されている。
「どうか…どうか、よしなに頼む…!」
セレスティーナは、使者の一人に深々と頭を下げた。その瞳には、不安と、しかしそれ以上に強い希望の光が宿っている。レオノーラもまた、固い表情で彼らに敬礼し、その武運を祈った。
アキオは、使者たち一人一人の肩を叩き、激励の言葉をかける。「道中、くれぐれも気をつけて。そして、エルドリアの民に、我々のささやかな支援が届くことを願っている」
多くの町民たちに見送られ、エルドリア支援隊は、夜明け前の薄明かりの中、東の森へと静かに旅立っていった。その小さな一団の背中には、アキオの町の、そして二人の王女の切なる願いが託されていた。
使者たちを見送った後、アキオはシルヴィア、そしてアウロラと共に、中央館の一室で新たな課題に向き合っていた。それは、キナから投げかけられた「獣人の寿命と生命樹の実」に関する問いへの、具体的な第一歩だった。
「キナの願いは、ただ長生きしたいというだけではない。家族と共に、一日でも長く、幸せな時間を分かち合いたいという、愛の表れだ」アキオが静かに語る。
シルヴィアは頷いた。「ええ。生命樹の実や葉には、確かに生命力を高め、治癒を促進する力があります。ですが、それが各種族の寿命そのものにどう影響するかは、未知数ですわ。特に獣人の方々の身体の仕組みは、人間やエルフとは異なりますから」
アウロラもまた、その神聖な瞳で二人を見つめた。「じゃが、アキオの『生命の祝福』の力が加われば、不可能が可能になるやもしれぬ。まずは、キナ自身の身体に負担をかけぬよう、生命樹の恵みを最も良い形で彼女に届ける方法を考えるべきじゃのぅ」
三人は、数日間にわたり知恵を絞った。そして、シルヴィアが中心となり、生命樹の若葉や樹皮、そして僅かな実のかけらを使い、獣人の体質に合わせて調合された特別な「生命樹の活力剤(仮称)」のレシピを考案した。それは、寿命を直接的に伸ばすというよりは、身体の内側から生命力を活性化させ、健康を増進し、老化を緩やかにすることを目的としたものだった。
完成した琥珀色の液体を、アキオはキナに手渡した。
「キナ、これはお前のための薬だ。シルヴィアとアウロラが、お前の身体のことを一番に考えて作ってくれた。すぐに効果が出るかは分からないし、寿命がどうなるかも約束はできない。だが、これを毎日少しずつ飲んで、身体の調子を見てほしいんだ」
キナは、その小さな瓶を大切そうに受け取り、アキオ、シルヴィア、アウロラの顔を交互に見つめた。その瞳には、深い感謝と信頼の色が浮かんでいる。
「だんな…シルヴィア姉ちゃん、アウロラ姉ちゃん…ありがとうな! あたし、試してみるぜ! これで、だんなや子供たちと、いーっぱい一緒にいられるようになるかもしれねえんだもんな!」
その日から、キナは毎朝、その活力剤を少量ずつ飲むようになった。彼女自身も、そしてアキオたちも、それがどのような変化をもたらすのか、焦らず、しかし確かな希望を持って見守り始めた。
エルドリアへの使者が出発し、キナの新しい試みも始まったその夜。アキオは、レオノーラの部屋を訪れた。彼女は、生まれたばかりのライナスをあやしながら、アキオの来訪を穏やかな笑顔で迎えた。
「アキオ殿、今宵はどのような…?」
「いや、レオノーラ。君と、ゆっくり話がしたくてな」
アキオは、レオノーラの隣に座り、彼女の肩をそっと抱いた。エルドリアへの想いを抱えつつも、今は母親として、そしてアキオの妻としての日常を送る彼女。アキオのキスによって古傷が全て癒え、完璧な健康体を取り戻した彼女の肌は、湯上がりのように艶やかで、その切れ長の瞳には、以前の厳しさだけでなく、深い愛情と、そして女性としての自信からくる艶やかさが宿っていた。
「エルドリアのことは、俺もできる限り力を尽くす。だから、君は今、ライナスとエルザ、そして君自身のことを一番に考えてほしい」
「はい…アキオ殿のそのお言葉だけで、わたくしは救われます」
レオノーラは、アキオの胸にそっと顔をうずめた。それは、かつての彼女からは想像もできないほど、素直で、そして愛らしい仕草だった。彼女の覚醒は、騎士としての誇りを損なうことなく、その下に隠されていた豊かな女性性を開花させたのだ。
二人の夜は、もはや以前のような緊張感を伴う「訓練」ではなく、互いの存在を確かめ合い、慈しみ合う、深く穏やかで、しかし芯には確かな情熱を秘めたものへと変わっていた。レオノーラは、アキオの腕の中で、これまでにないほどの安らぎと幸福を感じていた。それは、彼女がアキオの妻として、そして一人の女性として、真に満たされた瞬間だったのかもしれない。
アウロラの双子の御子の妊娠も順調に進み、その神秘的な胎動は、時に生命樹を通じて町全体に穏やかな祝福の波動を送っているかのようだった。
ヴァルト子爵領からは、産婆研修団の第一期生たちが、多くの学びと感謝を胸に、間もなく帰国の途につくという連絡も入っている。彼女たちは、アキオの町で得た知識と経験を、必ずや自領の母子のために役立てると誓っているという。
ユメとケンタの新婚生活も、穏やかで幸せに満ちている。ユメは、町の記録者として、日々の出来事――エルドリアへの旅立ち、キナの新しい試み、そしてレオノーラとアキオの間に流れる深い愛情の空気までも――その瑞々しい筆致で、日記に綴り続けていた。
アキオの町は、様々な想いと願いを乗せて、ゆっくりと、しかし確実に、その未来を紡いでいた。
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