五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第143話:王女の涙と夜明けへの祈り、聖女の刻

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 エルドリアへの秘薬を託した支援隊が出発してから数日が過ぎた。アキオの町は、表面上は穏やかな日常を取り戻していたが、セレスティーナの心は、遠い故郷への想いと、弟クリストフ王子の安否への祈りで揺れ動いていた。彼女は、生まれたばかりの息子エドワードを慈しみながらも、ふとした瞬間に窓の外を見つめ、物思いに耽ることが多くなっていた。

 その夜、アキオはセレスティーナの部屋を訪れた。ランプの柔らかな灯りが、彼女の気品ある横顔と、その瞳に浮かぶ憂いの影を照らし出している。
「セレスティーナ…眠れないのか?」
 アキオが優しく声をかけると、セレスティーナははっとしたように彼を見つめ、そして小さく微笑んだ。
「アキオ様…申し訳ありません、少し考え事を…」
「エルドリアのことだろう? 無理もない。だが、一人で抱え込んではいけないよ」
 アキオは彼女の隣に座り、その細い肩をそっと抱き寄せた。セレスティーナは、アキオの温もりに安堵したかのように、彼の胸に顔をうずめた。
「ありがとう…ございます。アキオ様がいてくださるだけで、心が…安らぎます。でも…やはり、クリストフのことが…そして、故国の民のことが…」
 彼女の声は、震えていた。故国再興の兆しが見えたとはいえ、その道のりはあまりにも険しく、そして遠い。アキオは、そんな彼女の不安と悲しみを全て受け止めるように、ただ黙って彼女の背中を優しく撫で続けた。
 やがて、セレスティーナは顔を上げ、アキオの瞳をじっと見つめた。
「アキオ様…わたくしは、あなた様と出会い、この町で新しい家族と幸せを得ました。エドワードも、ステラも…そして、あなた様の妻であるということも、わたくしにとって何物にも代えがたい宝物です。ですが…それでも、エルドリアの血を引く者として、弟や民を見捨てることは…できないのです」
「分かっているよ、セレスティーナ。君のその強い想いは、決して間違いじゃない。俺は、君のその想いを、全力で支えたいと思っている」
 アキオの真摯な言葉に、セレスティーナの瞳から涙が溢れた。それは、悲しみの涙ではなく、理解と愛情に包まれたことへの、感謝の涙だった。
 その夜の二人は、言葉少なながらも、互いの魂を深く触れ合わせるような、穏やかで、そしてどこまでも優しい時間を過ごした。アキオの深い愛情は、セレスティーナの心の痛みを和らげ、彼女にエルドリアの夜明けを信じる力を与えてくれるかのようだった。

 一方、キナは、シルヴィアとアウロラが調合した「生命樹の活力剤」を飲み始めてから、数日が経過していた。
「だんなぁ、これ、なんかすげーぞ! 身体が軽いし、力がみなぎってくる感じだ! 前よりもっと狩りが上手くいきそうだぜ!」
 彼女は、アキオにそう言って、嬉しそうに力こぶを作ってみせる。獣人の彼女の身体に、生命樹の恵みが良い形で作用しているのは明らかだった。寿命への直接的な効果はまだ分からないが、少なくとも彼女の健康と活力は、以前にも増して輝きを増しているようだった。

 アウロラの双子の御子の妊娠も、いよいよ最終段階へと近づいていた。彼女のお腹は、神秘的なオーロラ色の光を帯び、生命樹と常に共鳴し合っているかのように、周囲に清浄なエネルギーを放っている。その胎動はますます力強く、時にはアウロラ自身も驚くほどの神聖な力を感じさせることがあった。
「アキオ…この子たちは、もうすぐ…この世界に、新しい夜明けをもたらすために、生まれ落ちようとしています…」
 アウロラは、大きなお腹を愛おしそうに撫でながら、アキオにそう語った。彼女の出産は、通常のそれとは異なる、何か特別な儀式や準備が必要になるかもしれないと、アキオたちは考え始めていた。

 そんな中、ヴァルト子爵領から、研修を終えた産婆たちが、多くの感謝の言葉と共にアキオの町を後にする日がやって来た。彼女たちは、マーサから学んだ多くの知識と技術、そしてアキオの町の「生命の祝福」の片鱗を胸に、自領の母子のために尽くすことを固く誓っていた。彼女たちを見送るアキオたちの元へ、ヴァルト子爵からの親書も届けられた。そこには、改めての感謝と、アキオの町との正式な交易開始に向けた具体的な提案、そしてアルトとミコの活躍ぶりを称賛する言葉が綴られていた。アキオの町とヴァルト子爵領との友好関係は、着実に深まっていた。

 遠く子爵領では、アルトが石造建築の技術を、ミコが宮廷薬師の知識を熱心に学んでいる。彼らからの手紙には、新しい環境での苦労と共に、それを乗り越える喜びと成長が生き生きと描かれており、アキオや町の皆を勇気づけた。

 アキオの町は、それぞれの場所で、それぞれの物語が紡がれ、そしてそれらが絡み合いながら、大きな未来へと向かって進んでいた。セレスティーナの心に灯ったエルドリアへの希望の光もまた、その未来を照らす一つの道標となるのかもしれない。
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