五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第170話:希望の糧と聖女の渇き、そして家族の誓い

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 アキオの町は、数百人という新しい仲間を迎え入れて数日が経過した。凛の卓越した差配と、カイやサラといった新しいリーダーたちの活躍、そして町全体の協力により、混乱は最小限に抑えられ、新しい日常が模索されていた。しかし、町の備蓄食料は日に日に減り続け、人々の間には見えない不安が影を落とし始めていた。
 そして、その不安は霊的な次元にも及んでいた。光妃アウロラは、町の精神的な安定を保つため、生命樹の麓で昼夜を問わず祈りを捧げ、町全体を浄化のオーラで満たし続けていた。だが、数百人もの人々が持ち込んだ絶望や魂の傷を癒やすその行為は、聖女である彼女の神聖な力を、確実に、そして急速に消耗させていた。その美しい顔には、隠しようのない深い疲労の色が浮かび、アキオやシルヴィアはその様子を案じていた。

 そんな折、ヴァルト子爵領へ送った使者が、驚くべき速さで帰還した。アレクサンダー子爵からの親書を携えて。アキオが主要メンバーを集めてその封を切ると、そこにはアキオの提案を快諾する力強い言葉と、盟友としての熱い友情が記されていた。
「…協定の締結を心から歓迎する。ついては、こちらの状況も鑑み、まずは第一陣の支援物資として、穀物と布を積んだ馬車隊をすでに出発させた。数日のうちには到着するだろう」
 その知らせに、集会室は大きな歓声と安堵のため息に包まれた。最大の懸念であった食料危機が、ひとまず回避されたのだ。

 その日の夕方、子爵領からの最初の支援物資が到着した。山のような穀物と、うず高く積まれた布地。その光景に、町の誰もが、そして特に新しい仲間たちが涙を浮かべて喜んだ。
 その夜、町の中心広場では、ささやかな、しかし心からの歓迎と感謝の宴が開かれた。キナの狩猟隊が仕留めた獲物と、届けられたばかりの穀物で作った栄養満点のスープが、すべての人々に振る舞われる。その席で、「希望の会」の未亡人たちと、カイが率いる元奴隷の独身男性たちが、初めてゆっくりと顔を合わせ、言葉を交わした。互いの境遇、失われた過去、そしてこの町で見つけた未来への希望。ぎこちない会話の中から、いくつかの微笑ましい交流が芽生え始めていた。

 しかし、宴が終わり、人々が安堵の中で眠りにつく頃、アウロラの消耗は限界に達していた。生命樹に身を寄せた彼女の輝きは、風前の灯火のように弱々しい。
「アキオ…」
 駆けつけたアキオに、彼女はか細い声で助けを求めた。
「わらわの力が…枯渇しかけております…。このままでは、皆の魂を、浄化し続けることが…」
 アキオは彼女の真意を悟り、すぐにシルヴィア、アヤネ、キナを生命樹の下の「愛の祭壇」へと集めた。そして、少し離れた場所から、凛もまた、シルヴィアの許しを得て、その一部始終を見守っていた。

「非常時だからこそ、私たちは、心を一つにしなければなりませんわ」シルヴィアが、皆の想いを代弁するように言った。
 祭壇の中央にアウロラを横たえると、アキオはまず、彼女の渇いた唇に、生命樹の葉から滴る清らかな雫をそっと含ませた。そして、彼女の額に自らの額を当て、精神を深く同調させていく。
「アウロラ、俺の力を受け取ってくれ」
 アキオがそう囁くと、シルヴィア、アヤネ、キナがアキオの背後に立ち、その背中にそっと手を触れた。三人の妻たちの、夫への愛と、姉妹への慈愛、そしてこの聖域を守りたいという強い想いが、生命エネルギーの奔流となってアキオの身体へと流れ込んでいく。
 アキオは、その増幅された自らの「生命の祝福」の全てを、アウロラへと注ぎ込んだ。
 黄金色の温かい光がアキオからアウロラへと流れ、彼女の枯渇しかけていた聖なる力が、まるで乾いた大地が恵みの雨を得たかのように、みるみるうちに満たされていく。アウロラの神聖な力が回復すると、今度は彼女の身体からオーロラ色の光が放たれ、アキオと、彼を支える妻たちへと還流し始めた。
 それは、この非常時だからこそ、家族として、共同体として、互いの存在を確認し、魂を鼓舞し合うための、生命の祝祭だった。

 凛は、その光景を、瞬きも忘れて見つめていた。一人の男性の愛と生命力が、何人もの妻たちの愛と共鳴し、そして聖女の奇跡となって、町全体を救済していく。彼女は、第155話の「前夜祭」で自らが体験した、あの聖なる恵みの本当の意味と、その根源にある力の循環を、今、はっきりと理解した。
(これが…わたくしが求めた恵みの正体…。アキオ様と、奥様方の、愛と信頼そのもの…)
 彼女の心に、熱いものがこみ上げる。
(いつか、わたくしも…。心の準備ができたなら、あの方と二人きりで…この、本当の祝福を…)
 凛は、未来への新たな、そして明確な目標を、その胸に固く誓うのだった。

 儀式が終わり、完全に回復したアウロラと、彼女を支えた妻たちが満ち足りた表情で眠りについた後、アキオは町の高台から、静かになった町を見下ろした。町の物理的な生命線は子爵領との連携で繋がり、霊的な生命線は自らと家族の絆で支えられた。アキオは、この聖域の守護者としての責任と、その暖かな手応えを、改めて強く噛みしめるのだった。
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