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第175話:聖女の祈りと、暁光の囁き
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シルヴィアとの穏やかな一夜が明け、荒くれ共の引き渡しまであと四日となった。町全体が、来るべき日に向けて静かな緊張感を保ちながらも、日々の営みを力強く続けている。アキオは、朝一番にカイやアルトと建設現場の打ち合わせを、昼前には凛と子爵領へ送る返礼品の最終確認を済ませると、午後は、彼の心のもう一つの大きな支えである、光妃アウロラの元を訪れた。
アウロラは、生命樹の麓にある、彼女と双子の御子たちのための穏やかな空間にいた。そこは、第153話で発見された、廃墟の聖なる植物が移植され、瑞々しい緑の輝きを放つ小さな庭となっている。双子の御子、アキラとアケミは、柔らかな敷物の上で、キャッキャと楽しげに声を上げていた。そして、その傍らには、あの白銀の成体聖霊獣が、まるで忠実な護衛のように静かに佇んでいる。
アキオが近づくと、アキラが小さな手を、庭に咲く一輪の花にかざした。すると、その花は一瞬、オーロラ色のかすかな光を放ち、その輝きを一層増した。アケミがそれに呼応するように歌うような声を上げると、どこからともなく美しい蝶が数匹飛んできて、双子の周りを優雅に舞い始める。
「すごいな…この子たちは、本当に、この世界の生命そのものと心を通わせているようだ」
アキオは、その神聖な光景に、父親としての喜びと、この子たちの持つ力の計り知れなさを改めて感じていた。
「アキオ。お待ちしておりました」
アウロラは、アキオに気づくと、聖母のような微笑みを浮かべた。アキオは彼女の隣に腰を下ろし、双子たちの様子をしばらく眺めた後、これから受け入れる「荒くれ共」についての不安を、ぽつりと漏らした。
「…彼らを、本当に俺は救えるのだろうか。憎しみや絶望に染まった心を、変えることなどできるのだろうか、と…」
その言葉に、アウロラは静かに首を振った。
「アキオ。闇を恐れることはありません。光が強ければ、闇もまた、深く見えるものです」
彼女は、その神々しい瞳でアキオを真っ直ぐに見つめた。
「彼らの魂は、確かに憎しみや絶望で深く傷つき、闇に覆われています。ですが、その中心には、かつて光であったはずの核が必ず残っているはずです。憎しみは、愛を知っていたからこそ生まれるもの。絶望は、希望を求めていたからこそ訪れるもの。わらわの浄化の力は、その魂の傷を洗い流す助けにはなりましょう。ですが、彼らの魂の中心にある光を再び呼び覚ますことができるのは、アキオ…あなたの『調和』の力と、その深い人間愛だけなのです」
アウロラの言葉は、聖女としての、そしてこの世界の調和を司る者としての、俯瞰的で、しかし絶対的な肯定に満ちていた。それは、アキオに「お前ならできる」と語りかける、力強い福音のようだった。彼の心の中にあった迷いの霧が、すっと晴れていくのを感じた。
その夜、アキオとアウロラは、二人きりで生命樹の下の「愛の祭壇」で過ごした。
シルヴィアとの夜が、夫婦としての深い信頼と安らぎに満ちたものだったとすれば、アウロラとのこの夜は、ひたすらに神聖で、精神的なものだった。
二人は言葉を交わすことなく、ただ祭壇に横たわり、互いの手を握り合う。アキオは目を閉じ、アウロラの聖なる気配に意識を集中させた。すると、アウロラの身体から放たれるオーロラ色の光と、アキオの身体から溢れる黄金色の「生命の祝福」の光が、互いに引き寄せられるように交じり合い、一つの巨大な光の奔流となって、生命樹全体を、そしてアキオの町全体を包み込んでいく。
それは、もはや単なる愛の交歓ではなかった。アキオの持つ生命の根源的な力と、アウロラの持つ世界の調和を司る聖なる力が完全に同調し、互いを高め合う、魂の融合の儀式。アキオは、この交わりを通じて、これから向き合う「荒くれ共」の荒んだ魂に働きかけるための、清浄で、そして揺るぎない精神的な力と、深い洞察力を、アウロラから分け与えられた。
夜が明け、アキオが目覚めた時、彼の心は、嵐の後の湖面のように、静かで、そしてどこまでも澄み渡っていた。
荒くれ共の引き渡しまで、あと三日。アキオは、聖女との神聖な儀式を経て、その魂の戦いに臨むための、最後の準備を整えたのだった。
アウロラは、生命樹の麓にある、彼女と双子の御子たちのための穏やかな空間にいた。そこは、第153話で発見された、廃墟の聖なる植物が移植され、瑞々しい緑の輝きを放つ小さな庭となっている。双子の御子、アキラとアケミは、柔らかな敷物の上で、キャッキャと楽しげに声を上げていた。そして、その傍らには、あの白銀の成体聖霊獣が、まるで忠実な護衛のように静かに佇んでいる。
アキオが近づくと、アキラが小さな手を、庭に咲く一輪の花にかざした。すると、その花は一瞬、オーロラ色のかすかな光を放ち、その輝きを一層増した。アケミがそれに呼応するように歌うような声を上げると、どこからともなく美しい蝶が数匹飛んできて、双子の周りを優雅に舞い始める。
「すごいな…この子たちは、本当に、この世界の生命そのものと心を通わせているようだ」
アキオは、その神聖な光景に、父親としての喜びと、この子たちの持つ力の計り知れなさを改めて感じていた。
「アキオ。お待ちしておりました」
アウロラは、アキオに気づくと、聖母のような微笑みを浮かべた。アキオは彼女の隣に腰を下ろし、双子たちの様子をしばらく眺めた後、これから受け入れる「荒くれ共」についての不安を、ぽつりと漏らした。
「…彼らを、本当に俺は救えるのだろうか。憎しみや絶望に染まった心を、変えることなどできるのだろうか、と…」
その言葉に、アウロラは静かに首を振った。
「アキオ。闇を恐れることはありません。光が強ければ、闇もまた、深く見えるものです」
彼女は、その神々しい瞳でアキオを真っ直ぐに見つめた。
「彼らの魂は、確かに憎しみや絶望で深く傷つき、闇に覆われています。ですが、その中心には、かつて光であったはずの核が必ず残っているはずです。憎しみは、愛を知っていたからこそ生まれるもの。絶望は、希望を求めていたからこそ訪れるもの。わらわの浄化の力は、その魂の傷を洗い流す助けにはなりましょう。ですが、彼らの魂の中心にある光を再び呼び覚ますことができるのは、アキオ…あなたの『調和』の力と、その深い人間愛だけなのです」
アウロラの言葉は、聖女としての、そしてこの世界の調和を司る者としての、俯瞰的で、しかし絶対的な肯定に満ちていた。それは、アキオに「お前ならできる」と語りかける、力強い福音のようだった。彼の心の中にあった迷いの霧が、すっと晴れていくのを感じた。
その夜、アキオとアウロラは、二人きりで生命樹の下の「愛の祭壇」で過ごした。
シルヴィアとの夜が、夫婦としての深い信頼と安らぎに満ちたものだったとすれば、アウロラとのこの夜は、ひたすらに神聖で、精神的なものだった。
二人は言葉を交わすことなく、ただ祭壇に横たわり、互いの手を握り合う。アキオは目を閉じ、アウロラの聖なる気配に意識を集中させた。すると、アウロラの身体から放たれるオーロラ色の光と、アキオの身体から溢れる黄金色の「生命の祝福」の光が、互いに引き寄せられるように交じり合い、一つの巨大な光の奔流となって、生命樹全体を、そしてアキオの町全体を包み込んでいく。
それは、もはや単なる愛の交歓ではなかった。アキオの持つ生命の根源的な力と、アウロラの持つ世界の調和を司る聖なる力が完全に同調し、互いを高め合う、魂の融合の儀式。アキオは、この交わりを通じて、これから向き合う「荒くれ共」の荒んだ魂に働きかけるための、清浄で、そして揺るぎない精神的な力と、深い洞察力を、アウロラから分け与えられた。
夜が明け、アキオが目覚めた時、彼の心は、嵐の後の湖面のように、静かで、そしてどこまでも澄み渡っていた。
荒くれ共の引き渡しまで、あと三日。アキオは、聖女との神聖な儀式を経て、その魂の戦いに臨むための、最後の準備を整えたのだった。
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