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第180話:矯正の初日、汗とパンと、僅かな言葉
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引き渡しから一夜が明けた。アキオの町に緊張と、そして新たな秩序の形成に向けた期待が入り混じった空気が流れる中、隔離区画に集められた三十名の「荒くれ共」の前に、アキオ、カイ、そしてアルトが立った。
「昨夜、俺の提案を受け入れると意思表示した者は、一歩前へ」 アキオの静かな、しかし有無を言わせぬ声に、男たちの間で動揺が走る。長い沈黙の後、おずおずと一人が、そしてまた一人と、最終的に十五名が前に出た。残りの十五名は、腕を組み、あるいは地面に唾を吐きかけ、依然として反抗的な態度を崩さない。
「よし。では、今からお前たちを二つの班に分ける。前に出た者たちは『再生班』だ。後方の新しい宿舎へ移れ。そこには清潔な寝床と、これからお前たちが流す汗に見合うだけの食事が用意されている。そして、今日から仕事についてもらう」 アキオは、次に残った者たちに視線を向けた。
「お前たちは『待機班』だ。暴力は振るわない。だが、仕事も、まともな食事も与えられない。ここで、お前たちの仲間がどう変わっていくかを、ただ見ていろ。そして、自らの意思で再生の道を選ぶか、あるいは、日を改めて子爵領へ送還されるか、決めるがいい」 その宣言は、彼らの間に明確な「差」を生んだ。希望への道を選んだ者と、選ばなかった者。運命の選別は、彼ら自身の手に委ねられたのだ。
「再生班」の最初の仕事は、カイとアルトの監督のもと、元奴隷たちのための、新しい恒久住居の建設現場での労働だった。
石を運び、土を掘り、木材を加工する。それは、誰かから奪うためではなく、「誰かのため」に働くという、彼らが人間らしさと共に長年忘れていた行為だった。 最初は「なんで俺たちが…」と不貞腐れた態度を見せる者もいたが、同じ元奴隷でありながら、今は指導者として毅然と振る舞うカイの、容赦ない、しかし公平な叱咤が飛ぶ。
「文句があるなら、待機班に戻るか! お前たちがここで汗を流さなければ、誰も男として認めねえぞ! この町で人間らしく生きたいなら、まずは人のために働け!」 その言葉に、彼らはぐうの音も出ない。軍隊で培った体力と、カイの的確な指示のもと、彼らは次第に無心で汗を流し始めた。
一方、アキオは、町の運営が新たな段階に入ったこと、そしてエルドリアへの想いから、中断していた「魔導車開発」を再開していた。執務室では、凛と共に、再び設計図を広げる。
「この動力伝達部分、やはりドルガン殿の作る『アキオ鋼』の精度が鍵になるな…」 「はい。ですが、それを制御する魔石回路の理論は、まだ課題が山積しております。もう少し、資料を分析するお時間を…」 アキオの未来への情熱と、凛の知的な探求心。二人の歯車が、再び噛み合い始めた。
夕刻。一日の過酷な労働を終えた「再生班」の男たちの前に、温かく、そして栄養満点のシチューが振る舞われる。その食事を配膳したのは、「希望の会」の未亡人たちだった。
彼女たちは、カイや町の男たちの護衛のもと、安全な距離を保ちつつも、再生班の男たちに「今日はお疲れ様でした。私たちの新しい家のために、ありがとうございます」と、穏やかな笑顔で声をかける。 女性からの、純粋な感謝の言葉。それは、荒くれ共の心に、これまで経験したことのない衝撃と、戸惑い、そして微かな温かい感情を芽生えさせた。何人かは、顔を真っ赤にして俯き、あるいはぶっきらぼうに器を受け取るのが精一杯だった。
その光景を、待機班の男たちは、柵の向こうから、味気ない固いパンをかじりながら見つめていた。自分たちが飢えを凌ぐだけの食事を摂る横で、かつての仲間たちが、汗を流した対価として美味そうな食事を食べ、あまつさえ美しい女性たちから感謝の言葉をかけられている。
「…なあ、俺たち、本当にこのままでいいのか…?」 一人がぽつりと呟いたその言葉に、誰も答えることができなかった。彼らの結束に、早くも亀裂が入り始めていた。
その夜、凛がアキオの元へ、一日の報告にやって来た。 「再生班の初日の作業効率は、想定の7割。待機班からは、数名が再生班への移動を願い出ています。
そして、アキオ様…素晴らしい人材を発見いたしました」 彼女が差し出した住民台帳のリストには、こう記されていた。 「元奴隷の中に、ドワーフが三名。うち二名は、帝国で鍛冶奴隷として働かされていた経験があるとのことです」 「なんと…! ドルガン親方の、助けになるかもしれん…!」 アキオの目に、新たな希望の光が宿った。 前代未聞の「矯正プログラム」は、多くの課題をはらみながらも、確かな一歩を踏み出した。この聖域の力は、荒んだ魂さえも、変えることができるのだろうか。アキオの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
「昨夜、俺の提案を受け入れると意思表示した者は、一歩前へ」 アキオの静かな、しかし有無を言わせぬ声に、男たちの間で動揺が走る。長い沈黙の後、おずおずと一人が、そしてまた一人と、最終的に十五名が前に出た。残りの十五名は、腕を組み、あるいは地面に唾を吐きかけ、依然として反抗的な態度を崩さない。
「よし。では、今からお前たちを二つの班に分ける。前に出た者たちは『再生班』だ。後方の新しい宿舎へ移れ。そこには清潔な寝床と、これからお前たちが流す汗に見合うだけの食事が用意されている。そして、今日から仕事についてもらう」 アキオは、次に残った者たちに視線を向けた。
「お前たちは『待機班』だ。暴力は振るわない。だが、仕事も、まともな食事も与えられない。ここで、お前たちの仲間がどう変わっていくかを、ただ見ていろ。そして、自らの意思で再生の道を選ぶか、あるいは、日を改めて子爵領へ送還されるか、決めるがいい」 その宣言は、彼らの間に明確な「差」を生んだ。希望への道を選んだ者と、選ばなかった者。運命の選別は、彼ら自身の手に委ねられたのだ。
「再生班」の最初の仕事は、カイとアルトの監督のもと、元奴隷たちのための、新しい恒久住居の建設現場での労働だった。
石を運び、土を掘り、木材を加工する。それは、誰かから奪うためではなく、「誰かのため」に働くという、彼らが人間らしさと共に長年忘れていた行為だった。 最初は「なんで俺たちが…」と不貞腐れた態度を見せる者もいたが、同じ元奴隷でありながら、今は指導者として毅然と振る舞うカイの、容赦ない、しかし公平な叱咤が飛ぶ。
「文句があるなら、待機班に戻るか! お前たちがここで汗を流さなければ、誰も男として認めねえぞ! この町で人間らしく生きたいなら、まずは人のために働け!」 その言葉に、彼らはぐうの音も出ない。軍隊で培った体力と、カイの的確な指示のもと、彼らは次第に無心で汗を流し始めた。
一方、アキオは、町の運営が新たな段階に入ったこと、そしてエルドリアへの想いから、中断していた「魔導車開発」を再開していた。執務室では、凛と共に、再び設計図を広げる。
「この動力伝達部分、やはりドルガン殿の作る『アキオ鋼』の精度が鍵になるな…」 「はい。ですが、それを制御する魔石回路の理論は、まだ課題が山積しております。もう少し、資料を分析するお時間を…」 アキオの未来への情熱と、凛の知的な探求心。二人の歯車が、再び噛み合い始めた。
夕刻。一日の過酷な労働を終えた「再生班」の男たちの前に、温かく、そして栄養満点のシチューが振る舞われる。その食事を配膳したのは、「希望の会」の未亡人たちだった。
彼女たちは、カイや町の男たちの護衛のもと、安全な距離を保ちつつも、再生班の男たちに「今日はお疲れ様でした。私たちの新しい家のために、ありがとうございます」と、穏やかな笑顔で声をかける。 女性からの、純粋な感謝の言葉。それは、荒くれ共の心に、これまで経験したことのない衝撃と、戸惑い、そして微かな温かい感情を芽生えさせた。何人かは、顔を真っ赤にして俯き、あるいはぶっきらぼうに器を受け取るのが精一杯だった。
その光景を、待機班の男たちは、柵の向こうから、味気ない固いパンをかじりながら見つめていた。自分たちが飢えを凌ぐだけの食事を摂る横で、かつての仲間たちが、汗を流した対価として美味そうな食事を食べ、あまつさえ美しい女性たちから感謝の言葉をかけられている。
「…なあ、俺たち、本当にこのままでいいのか…?」 一人がぽつりと呟いたその言葉に、誰も答えることができなかった。彼らの結束に、早くも亀裂が入り始めていた。
その夜、凛がアキオの元へ、一日の報告にやって来た。 「再生班の初日の作業効率は、想定の7割。待機班からは、数名が再生班への移動を願い出ています。
そして、アキオ様…素晴らしい人材を発見いたしました」 彼女が差し出した住民台帳のリストには、こう記されていた。 「元奴隷の中に、ドワーフが三名。うち二名は、帝国で鍛冶奴隷として働かされていた経験があるとのことです」 「なんと…! ドルガン親方の、助けになるかもしれん…!」 アキオの目に、新たな希望の光が宿った。 前代未聞の「矯正プログラム」は、多くの課題をはらみながらも、確かな一歩を踏み出した。この聖域の力は、荒んだ魂さえも、変えることができるのだろうか。アキオの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
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