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第二章:もういいかい?
虹河原_2-2
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虹河原と反保は並んで歩き、校内の調査を開始していた。既に五分は歩いているが二人は未だ会話を交わさず沈黙のままだ。話す必要がないからこのような雰囲気になったわけではなく、互いに会話が得意ではない為に生まれた気まずいものだった。
――この場合は私から話しかけるべきか。
当然、校内の学生の素行や教員達の指導を見るのだから、無理に会話をする必要はないのだが、ペアを組む以上コミュニケーションがある方がないより良いのも解ってはいる。もちろん、馴れ合いにならない範囲で。
それに――
――緊張しているみたいだしな。
横に並んで歩く反保は動きがぎこちなく、見るからに緊張しているのが解る。比較対象が、いつも横で必要以上に会話をしかけてくる飛田なので参考になるのかは疑問だが……しかし、それでもこれでは調査どころではないのは明らかだった。
「私達は巻き込まれた、という感じだがユースが今回の調査をしようとしたきっかけは何だ?」
「あ、あの、すみません。巻き込んでしまって……」
言葉を威圧的に感じたのか反保が萎むように小さくなったように見えた。明らかに戸惑っている。
「いや、怒っているわけではなく……」
「す、すみません。わ、解ってます。調査の理由ですよね、その、イジメに関する情報が入ってきまして」
「イジメか……デリケートな問題だな」
言葉は続かず、そして、また沈黙が生まれる。気まずい。
――上手くいかない。
虹河原は反保がユースティティアに入った経緯については知っている。過去についても少々調べた。彼の過去には問題はあれど、それは周囲の環境と彼の性格から仕方のないことも、ある程度理解している。ユースティティアに採用されたその能力についても知っていた。
今、新しい道を進んでいる反保ついて、今更、過去をどうこう言うのも野暮だろう、という柔軟な考えではあったが、彼との話題を探すとそのような情報しか出てこなかった。しかし、それを話すのは違うのも解っている。
――共通の話題、共通の……
色々と考えているのを察してか、
「あの、すみません。何か気を使わせてしまっているようで……」
虹河原の様子を見て、反保が恐る恐る話す。
「そ、そんなことはない。別に――あ、そうだ。一色さんは最近どのような様子だ?」
しまった、と口に出した瞬間に虹河原は思った。慌てていたとはいえ、頼りたくはなかった共通の知人のことを話題にしてしまったからである。
「一色さんですか? 最近はすごく忙しそうですね。何か今まで以上に」
「あの人が忙しそうにしているのは珍しいな。いつも飄々と任務をこなす人なのに」
「そうなんですよ。でも、指示はしっかり与えてくれます」
「そういうところは疎かにしないからな、あの人は」
ここまで話しておいて、一色の話題で盛り上がっていることに虹河原は少し気恥ずかしく感じていたが、折角弾んだ会話を止めるのは勿体なく感じたので水は差さない。こんなときまで、一色に頼っているのは嫌だったが。
「そういえば、一色さんは元警察なんですよね?」
それは反保が何気なく聞き、そして、当然出てくる話題でもあった。
「そうだ」
「警察ではどんな感じだったんですか?」
「……頼りになる人だったよ。みんなから尊敬されていた」
そこに『私も』という言葉は意図的に入れなかった。
「へぇ、さすがですね」
嬉しそうな反保を横目に、虹河原は一つの言葉を飲み込んだ。
――何故、一色さんは警察を辞めたのか知らないか?
その言葉は鉛のように溶けることなく、彼の心の中に沈んでいった。
――この場合は私から話しかけるべきか。
当然、校内の学生の素行や教員達の指導を見るのだから、無理に会話をする必要はないのだが、ペアを組む以上コミュニケーションがある方がないより良いのも解ってはいる。もちろん、馴れ合いにならない範囲で。
それに――
――緊張しているみたいだしな。
横に並んで歩く反保は動きがぎこちなく、見るからに緊張しているのが解る。比較対象が、いつも横で必要以上に会話をしかけてくる飛田なので参考になるのかは疑問だが……しかし、それでもこれでは調査どころではないのは明らかだった。
「私達は巻き込まれた、という感じだがユースが今回の調査をしようとしたきっかけは何だ?」
「あ、あの、すみません。巻き込んでしまって……」
言葉を威圧的に感じたのか反保が萎むように小さくなったように見えた。明らかに戸惑っている。
「いや、怒っているわけではなく……」
「す、すみません。わ、解ってます。調査の理由ですよね、その、イジメに関する情報が入ってきまして」
「イジメか……デリケートな問題だな」
言葉は続かず、そして、また沈黙が生まれる。気まずい。
――上手くいかない。
虹河原は反保がユースティティアに入った経緯については知っている。過去についても少々調べた。彼の過去には問題はあれど、それは周囲の環境と彼の性格から仕方のないことも、ある程度理解している。ユースティティアに採用されたその能力についても知っていた。
今、新しい道を進んでいる反保ついて、今更、過去をどうこう言うのも野暮だろう、という柔軟な考えではあったが、彼との話題を探すとそのような情報しか出てこなかった。しかし、それを話すのは違うのも解っている。
――共通の話題、共通の……
色々と考えているのを察してか、
「あの、すみません。何か気を使わせてしまっているようで……」
虹河原の様子を見て、反保が恐る恐る話す。
「そ、そんなことはない。別に――あ、そうだ。一色さんは最近どのような様子だ?」
しまった、と口に出した瞬間に虹河原は思った。慌てていたとはいえ、頼りたくはなかった共通の知人のことを話題にしてしまったからである。
「一色さんですか? 最近はすごく忙しそうですね。何か今まで以上に」
「あの人が忙しそうにしているのは珍しいな。いつも飄々と任務をこなす人なのに」
「そうなんですよ。でも、指示はしっかり与えてくれます」
「そういうところは疎かにしないからな、あの人は」
ここまで話しておいて、一色の話題で盛り上がっていることに虹河原は少し気恥ずかしく感じていたが、折角弾んだ会話を止めるのは勿体なく感じたので水は差さない。こんなときまで、一色に頼っているのは嫌だったが。
「そういえば、一色さんは元警察なんですよね?」
それは反保が何気なく聞き、そして、当然出てくる話題でもあった。
「そうだ」
「警察ではどんな感じだったんですか?」
「……頼りになる人だったよ。みんなから尊敬されていた」
そこに『私も』という言葉は意図的に入れなかった。
「へぇ、さすがですね」
嬉しそうな反保を横目に、虹河原は一つの言葉を飲み込んだ。
――何故、一色さんは警察を辞めたのか知らないか?
その言葉は鉛のように溶けることなく、彼の心の中に沈んでいった。
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