有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ

文字の大きさ
29 / 82
第二章:もういいかい?

反保_2-4

しおりを挟む
 反保と虹河原は教えてもらったスクールカウンセラーがいる場所へと向かった。保険室から少し歩いたところに『カウンセリングルーム』と記載された表示札があり、その部屋の前で二人は立ち止まる。
「少し入りにくいですね」
「部外者でそうなら、学生なら尚更かもしれないな」
 そんな会話を交わしたあと、ドアに掛かっているボードに『在籍中』という文字を確認すると、反保はノックをした。
「はーい」
 ドア越しに少しくぐもった女性の声が聞こえてきた。
「失礼します」
 ドアを開けて中に入ると、一人の女性がそこには立っていた。少し長めの黒髪を後ろで結い、小柄で赤い縁の眼鏡を掛けている可愛らしい容姿だ。歳は二十代半ばだろう。
「えっと、どちら様ですか?」
「警察とユースティティアの者です。学園長から連絡はありませんでしたか?」
 虹河原の言葉にその女性は少しハッとした表情を見せたあと、
「あっ、そういえば。すみません、自分は関係ないかと思っていました」
「私は虹河原、こちらは反保です。少し話を聞きたいのですが宜しいですか?」
「あっ、はい。私はスクールカウンセラーの百井(ももい)と言います。どうぞ、お掛けになってください」
 そう言って、百井は二人を近くにあるソファに座ることを勧め、二人も促されるままに座った。
 カウンセリングルームは十畳ぐらいの部屋で二人掛けのソファが二つあり、その間にテーブル、一番奥の窓際にはデスクがありパソコンとモニターが置いてあった。それ以外は特に目立つものはなく、質素な部屋に反保は感じた。
「えっと、どのようなご用件で?」
 百井がテーブルを挟んで向かいのソファに座った。
「色々とお話を聞きたいのですが……百井さんはこの学校に赴任して長いのですか?」
 まず最初に虹河原が質問をした。若さから経歴の浅さが気になったのだろう。歳が近い分、学生との距離は近いかもしれないが、相談や対応となると経験が重要だと考えているのだろう。学生も、頼りない人物に相談するほど甘くはない。
「私は赴任して五年になります」
「なるほど。この学校が初めての赴任先ですか?」
「そうです」
 虹河原は百井のハキハキとした回答を聞き、納得したのか反保の腕を肘で突いた。彼の中では五年も学校に所属している、ということはそれなりの結果を残している、と判断したのだろう。そして、質問する権利を反保に譲った。
「あ、その……ここ最近で学生からイジメに関する相談はありませんでしたか? もしくは、百井さんが実際に見たことがあるかどうかでも構いません」
「ありませんよ。私が赴任してからは一度も」
 百井が言うには生徒からは進路相談や愚痴などを聞くことが多いらしい。

 ――この部屋だとイジメられている当人が入るところを見られると、更にイジメられそうだもんなぁ。

 反保は心の中でそう思ったが、
「この部屋では入るところが他の生徒達に見られる可能性がある。イジメられている生徒なら、ここに入ったことを見られると余計にイジメられるのではないか、という心理が働いて、入りにくいでしょう」
 虹河原ははっきりと百井に告げた。
「えっと……確かにそうかもしれませんね。その勇気は必要でしょうけど、その一歩を踏み出す手伝いもできれば、と思ってはいまして……」
 百井は明らかに困惑した様子で、しどろもどろに答える。その反応は五年も勤めている割には対応力に難があるように思えた。
「あのー、実際に来ることはなくてもオンラインなどで匿名で相談が届いたりはしていませんか?」
 反保が百井に助け船を出すように、別の質問をした。しかし、それは彼女にとっては助けにはならなかったようだ。
「えっと、その……」
 百井は表情を明らかに曇らせた。それを二人が見逃すはずがない。
「何かあるんですね?」
 反保が更にもう一歩踏み込む。百井は更に困った表情で、額にじんわりと浮かんだ汗を拭ったあと、口を開いた。
「えっと、実は――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『千両役者のワンカラ―』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ最終話 積み上げてきた時間 信じて歩んできた道 振り返ればそこにある過去 たどり着いた現在 そして――未来へ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

処理中です...