有栖と奉日本『千両役者のワンカラ―』

ぴえ

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第九章:ラストダンス

有栖_9-1

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 有栖と天使は激闘を繰り広げていた。鏡写しのような構えから互いに円を描くようにステップワークで移動し、拳の応酬から隙あらばカウンターや蹴りを繰り出すが決定打にまでは至らない。

 有栖のストレートがガードの間隙を突いて、天使の顔面を捉えた。顔が一瞬跳ね上がり、膝が少し笑う。
 チャンスとみた有栖はワンツーを繰り出すが、天使はそれをスリッピングで避けると踏み込んで左ボディ。ドスン、と重い一撃で息が詰まる。そこに同じところに寸分狂わずにもう一撃。今度は先程と同じ痛みではなく、骨の軋む音が彼女にだけ聞こえた。ジワジワとあとから効いてくるボディブローではない。肋骨を砕き、そのまま身体を突き破ろうとしている一撃だ。
 ただでさえ避けにくいボディの攻撃だが、これ以上喰らうと不味いと考えた有栖はバックステップで距離を取る。しかし、その動きを予期していたのか天使は追従する――が、このバックステップは彼女の罠だった。退いて勝てる相手ではないことは重々承知していた。
 有栖はバックステップで下げた足で力強く地面を蹴り、膝蹴りで天使を迎撃する。突っ込んできた彼の勢いも重なって強い衝撃が生まれた。だが、それを彼はガードで防いでいる。しかし、腕が痺れたのか今度は彼がバックステップを二回して距離を取った。

 ――マジで怪我してるのか、この人

 有栖は鋭い眼光でこちらを睨む天使から目を逸らさずに苦笑いをした。虹河原から銃弾による一撃を受けているにも関わらず、彼女と互角の動きをしている。ただ前回の戦闘との違いがあるとすれば、相手の呼吸が少し荒い。

 ――ネガティブに現状を捉えるな。互角に渡り合えているし、こっちの攻撃も当たっている。

 そう思考を切り替えると、有栖は腹部へのダメージが呼吸器官にまで大きな影響を与えていないことを確認する為に大きく深呼吸をした。

「全力で行く。全力をぶつける。そうじゃなきゃ勝てない相手だ」

 自身に言い聞かせるように、有栖は呟いて、天使に向かって駆けだした。
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