有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ

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先輩と後輩と上司と部下

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「有栖先輩、ちょっといいですか?」
 その日の定時のチャイムが鳴ったあと、反保は有栖のデスクの横に近づいた。
「何?」
「今日って、給料日じゃないですか」
「え? まさか、先輩に奢らそうと……」
「違います」
 反保は頭痛を抑えるかのようにこめかみに指を当てると、一度大きく深呼吸し、少し決意を固めて話し出した。
「有栖先輩の……その右手のことなんですけど……」
「ん? あぁ――」
 反保の言葉を聞いて、有栖は自身の右手に視線を落とす。彼女は彼がそのことを口にするには勇気が必要だったことは理解していた。
 そこには反保がナイフで貫いた傷跡が残っている。
「これが、どうかした?」
 有栖はそれが大したことではないように振る舞い、視線を反保に戻す。その素振りが彼女の答えだと解っているが、それでも彼は納得できなかった。
「有栖先輩が気にしてなくても、僕は気になって……」
「だったら、何? お嫁にもでも貰ってくれるの?」
「え? いや、それは、その……好みのタイプじゃないので遠慮します」
「今の自分なら、反保が人質に捕られても全力で乗り込める自信がある」
「有栖先輩は優しいですね」
「んー、必死で助けに来てくれる先輩像を描いているなら違うから。それで、本題は?」
 話が噛み合っていないことは解っていながら、有栖はとりあえず先に進めた。
「有栖先輩は気にしてなくても、僕は気になりまして……その、今日の昼休みに買ってきました」
 反保は一つの箱をデスクの上に置いた。
「これあげます」
「何これ?」
 有栖は箱を開け、中身を取り出す。そこには黒のレザーの手袋が入っていた。
「着けろと?」
「よろしければ」
「あら、ぴったり」
「手のサイズは覚えてましたので」
「変なところで能力を使うな」
 有栖は手袋を着けた右手を閉じたり、開いたりと動作を繰り返す。しっくりと馴染み、当然ながら傷跡は隠れている。
「まぁ、後輩のお願いを聞くのも先輩の役目か。良いよ、解った」
「あ、ありがとうございます」
「でも、どうせボロボロなると思う」
「あぁ、先輩は粗暴ですからね」
「はは、殴るぞ」
 そんな会話を交わしていると、その様子を見ていた一色が近づいて来た。
「随分と楽しそうやんか。それだけ仲が良ければ次の任務も大丈夫そうやな」
「次の任務ってサイバーフェスの警備でしたっけ?」
「せや、大企業が開く先端技術のショーや。そこにユースティティアとして特務課からも全員参加やからな。チームワークが大事やし親睦会でも開こうか思ってたんやけど」
「回らない寿司、もしくは焼肉。イチさんの奢りで」
 即答した有栖を一色は呆れた目で一瞥すると、反保へと視線を向ける。
「なぁ、反保、コイツになんか言ったって」
 そう話を振られた反保は
「先輩を頼りにしてます、任せます」
 棒読みでそうスラスラと答えた。
「チームワークは大丈夫そうやな」
 一色は大きく溜め息をついて、そう言った。
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