タコのグルメ日記

百合之花

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Ⅳ章 豊穣の森

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そこそこの釣果を獲て、小屋に戻る。

「う~う~・・・」

結局その後も釣れなかったやまい。
不満そうだ。

「別にいいよ。分けてあげるから。」
「・・・う、うん。」

気落ちしたまま、ベッドに座るのを横目に、料理を始める。
まずは釣った魚をさばいて、三枚におろす。
骨を丁寧にとった後、醤油っぽい調味料に付けて置いておく。
その間に他の魚も調理していき、最後にデザートとして保管してあったリンゴっぽい果物を切り分けて――
などなどの調理を終えて、目の前に出すとやまいは目を輝かせた。

「た、食べて良いの?」
「もちろん。召し上がれ。」
「・・・はむ。・・・美味しい。」

がつがつとご飯を食べ始めるやまい。のどをつまらせないか不安になったが、飲み水を用意しておけば良いだろう。
ジュースとしてメープルシロップを湖の水で割ったものを汲んだ。
濃厚な甘さで、飲み水としてはちょっとというメープルシロップだったが、コレの場合はあっさりとした甘さと飲みやすさこそが特徴である。
ちなみに湖の水は炎の魔道具で煮沸消毒済み。それを氷の魔道具で冷やしたものでメープルシロップで割ってある。
僕やグリューネの場合はお腹を壊す心配は無いが、彼女の場合は分からないためである。

やまいが僕の料理を食べて笑顔になったのを見て、僕も箸を取る。
ちなみにこの世界ではフォークやナイフが一般的。箸も一応流通はしているものの、ほとんどの人が使わないみたいである。
そのため、やまいもフォークを使って食べていた。

「うん・・・うまい。」

口に広がる美味しさ。
今回はモリダイのステーキがメインディッシュだ。
モリダイはその鯛のような見た目とは違い、まるで牛肉のような濃い肉の味がする。
その味は噛み締めるほど深く、強い広がりを見せて、口の中に染み渡る。
その濃さのため、そのままで食べると魚の生臭さも強めなのだが、それを醤油の辛さで中和した。
その辛さ、もといしょっぱさがほんのりとしたアクセントになり、より唾液を多く分泌させる。
その唾液に含まれる酵素が、焼いたことによって弱くなった肉の組織を分解し、わずかな甘みをも出しながら、さらに湧き出る肉の旨み。
いつまで続くのかと思われる肉汁の洪水はその肉片の一つとして残さず飲み込むまで続いた。
うむ。
我ながら実に美味である。

ちょっとしてから、いつものように充足感がやってきて、体の糧になるのが分かる。
調理すると充足感の元?と言うべきものが減退するのが困りものだが、美味しいのだから仕方がない。
美味しいもののためなら多少の犠牲は仕方ないのだ。

食べ終わったやまいの口をまたアスクレピオスの葉っぱで拭いて、皿を片付ける。

「ごちそうさまでした。」
「・・・ご、ごちそうさまでした?」

僕の行動を見よう見真似で真似るやまい。
不思議そうである。
食べた後の感謝の挨拶みたいなものだと教えると、こんどは元気よく挨拶をした。

「よくできました。」
「・・・うん。」

なでてやると、少ししゅんとする。
いやだったのだろうか?

「どうして優しくするの?」
「うん?」
「・・・なんでもない。」

ぼそっとつぶやいて、そのままトテテテ。小屋の外に行ってしまった。
何事だろうか?
ちなみに難聴ではないので、ちゃんと彼女のつぶやきは聞こえている。
あまりに唐突だったのでつい聞き返してしまっただけである。
どうして優しくするの、ね。
引き取った責任、なんて言っても5歳児には分からないだろうな・・・まず間違いなく。
ていうか、あの子、なんだかんだで子供らしくないな。
僕が5歳のときにあんな気遣い出来ただろうか?
いや、そもそも僕と比べるのが大間違いと言える。
なにせ彼女は村をつぶしたと言う話なのだから。
ああいうことを言えてしまう環境に居たんだろうかね。

☆ ☆ ☆

皿を片付けて、しばらく経ったころ。

「やまい~、どこだ~。」

呼んでみたのだが・・・いない。
気配探知で探ってみると回りにはそれっぽい魔力が無かった。
いや、さっきまでは気配探知で捉えてたんだよ?
でも、あんまり動かなかったからちょっと気を抜いていた隙にだね・・・って自分に言い訳をしている場合ではない。

「えと・・・や、やばいぞっ!!」

急いで外に出て、周りを見渡す。当然いない。
気配探知をいっぱいに広げる。
が、驚くことにその範囲には存在していなかった。

東西南北どの方向に行くべきかを迷ったが、魔力の残り香のような痕をみつけてそれをたどることにする。

タコの姿から人の姿に変形。
入り組んだ森では人間の形の方が早く動けるためだ。
立体的な移動力や隠密性は劣るものの、そんなことにカマかけている場合ではない。

「食べられちゃったかな・・・」

そんなことをついとつぶやきつつも、森を駆け抜ける。
途中で襲ってくる動物達を跳ね除けつつ、森の奥へと行く。
予想以上に奥へ行っているが、そろそろ僕の縄張りから出るころだ。
僕の縄張りからそとに出ればそこはたちまち危険な肉食動物がはびこる厳しい世界となる。縄張り内は僕の強さを理解できない鈍い動物しかいない。
それは運がよければ生きて抜けることもできると言うこと。しかし外に出ればそうはならない。
5歳児の子供が、それも弱体化して普通の人間の子供よりも低い能力を持たない少女はたちどころに食べられてしまう。

抜け出るかどうかの場所で、残り香が掻き消えていた。
縄張りより外になれば魔力の強い動物がはびこっている。
あの子程度の魔力が漏れ出したかすかな痕跡など微塵も無かった。

「ど、どないしよう?」

口調が変わるほどの衝撃。
昨日今日の仲であるものの、自分のせいで子供一人が死んだともなればさしもの僕でもそれなりのショックは受ける。
それも僕が引き取ると決めて引き取った子供なのだ。
分別のつかない子供に対して、オマエが勝手に外に出てったせいだろ?なんて言う大人は居ない。
明らかに保護者たる僕の責任だった。
それに奴隷の首輪がある限り、主人からある一定の距離以上は取れないと聞いていたのだが、一体どういうことか?
これもあってあまり気を張っていなかったのだが、いや、そんなことは後で考えよう。
くっ、子供って奴は目を離すとすぐ居なくなる。
そんなこと自分の母親からよく聞かされていただろうに、なんてことを考えていると―

『お探し物はこの子かしら?』
「ひゃぁっ!?」

つい悲鳴をあげた僕。
悲鳴と言うよりは声出し魔法のコントロールを驚きでミスって出た、異音と言うべきだが。

「毎度の事ながらいきなり出てくるけど、今回は驚いた!
今はグリューネと話してる場合じゃ――やまいっ!?」

グリューネが抱えていたのは目を赤くしたやまい。

『ちゃんと見ていないと駄目でしょう?
子供はすぐどこかへ行くわ。特にこの子は。』
「あ、ありがとうっ!!
本当に助かったよ、グリューネっ!!」
『べ、別にたまたま見つけただけよ。
勘違いしないで頂戴。』

今更だけど、グリューネは軽いツンデレである。
顔を赤くして、そっぽを向いた。
感謝の意は改めて示すとして、まずはこちらである。

「良かった・・・無事で。」

やまいを抱きしめ、無事を喜んだ。

「・・・どれい、にしたくせに・・・」
「ん?」
「どれいにしたくせにっ!!」

バシッと手をはじかれる。
やまいは泣きながら、激昂する。

「どれいにしたくせに私に優しくするなぁあああああああああっ!!」

彼女の体から黒い光状のものが吹き出た。
・・・色々とちょっと分からないです。

『なるほどね。貴方からあれだけ離れることが出来たのはこのせいらしいわね。』
「このせいとはズバリ?」
『この子、加護を持ってるの。ちなみに、この森の動物はすべて加護持ちよ。私のね。』
「加護とはズバリ?」
『・・・。まぁ、いいわ。
加護とはズバリ、職業みたいなものよ。』
「なるほど分かりやすい。いや、分かりにくい。
加護を持つとなぜにこんな摩訶不思議なかっこいい技を使えるの?」

体から黒いオーラが吹き出る。
僕の中で眠っていた厨二魂が湧き出る。
正直、こんな技を使いたい。
エアスラッシュとか言う地味な技じゃなくて。
いや、確かに見えない刃は強いと思う。強いさ。
強いのは分かってるよ?
でも、やはり元日本人としてはいつぞやのエンデが使ったようなど派手だったり、いろんな魔法を使ってみたいものである。
エアスラッシュとあとはわずかな魔法しか使えない僕にとって、魔法使いとなる唯一の道かもしれない。
ここはズバリとは言わず、詳しく聞きたいものである。

『剣士と言う加護を得たら、剣の技能が増したり、剣に関するスキルを覚えたりする・・・らしいわ。貴方のような生物の場合、職業と言うよりは生まれた場所や、その生物の特徴をピックアップした加護が与えられる。たとえば私の加護、すなわちドリアードの加護が与えられているのね。
効果はこの森に居る限り、死に難くなり、若干の体力上昇ってところかしら?
あとは風魔法に対する適正強化。そんなところね。』
「へぇ。初めて知った。」

そういえば冒険者カードを作ったときに加護の欄にそんなことが書かれていたような、いなかったような。

『で、彼女は邪龍の加護を持っている。』
「なるほど。つまり僕も邪竜の加護を持っていればこの厨二魔法が使えると?」
『龍族の加護は竜にまつわる生物じゃないと与えられないわ。』
「なん・・・だと?」

そ、そんな条件があったとは・・・図られたっ!!
なんてふざけてる場面でもない。
ドウ考えても彼女のこの様子はこれが切欠としか思えないのだが・・・

「ちなみに効果は?」
『全種族に嫌われる。魔獣を含めてね。当然例外はあるけれど、種族としてではなく個人としてが精一杯。
一生のうちに嫌わない人間一人二人に会えれば御の字というところ?』
「・・・なんという、ぼっち能力。」

持たなくて良かったです。はい。

『ちなみに今はマイルドに表現したのよ。
亜人、魔人は同属殺しを最大の禁忌かつ、罪と捕らえているけれどそれを余裕でぶち敗れるほどに、嫌われ効果は高い。』
「な、なんてこったい。」
『しかもこれは生まれつきじゃない。彼女も辛かったでしょうね。
今まで優しかった人がいきなり手のひらを返したかのように冷たくなったのだから。』
「えと・・・僕はぜんぜん嫌いじゃないんだけどどういうこと?」
『・・・私が知るわけ無いでしょう?というよりむしろ誰かに教えてもらいたいものだわ。そしてなんで裸?』
「な、なんかごめんなさい。」

すっごく疲れた様子でそんな感じのことを言うので、つい謝ってしまった。
裸なのはしょうがない。
服を着てる余裕が無かったんだから。ていうかタコの姿に戻っておこうか?
それよりもだ。
ここまでのことは分かる。
だが、どれいにしたくせにとはどういうことか?
僕が彼女を奴隷にしたということは無い。
奴隷として扱っているわけでもない。
普通に接していたつもりである。

『さぁ?
なにぶん子供だから。
感情が爆発して、支離滅裂なことを言ったんじゃないかしら?
たとえば・・・そうね。
親にも嫌われるはずだから、親が彼女を奴隷として売った。今までは優しかった親が・・・それを貴方と重ね合わせてる。というのはどうかしら?
貴方も最初は優しくても後で裏切るんだろぉって感じ・・・?
というか、ただのやつあたり?』
「なんてはた迷惑な・・・」
『ほら、そろそろどうにかしないと来るわよ。』
「ん?
何が・・・のわああああっ!?」

オーラ状の竜の爪のような物が腕を振りかぶってきたのである。
当然避ける。

「ああああああああああああっ!!」

叫ぶやまいの右手に高エネルギー反応!
避けられませんっ!!
被弾します!!
・・・なんてね。

撃ち放たれた黒球を思いっきり横に弾く。

爆発して吹き飛ぶ森。
人の故郷をよくもまぁ木っ端微塵にしてくれるものだ。

やまいから伸びでた黒い触手、が、触手、もとい触腕の扱いならば当然負けるはずも無く、すべて叩き落し、時には引きちぎり、からめとる。

そして接近、いまだ分からんが癇癪を起こす子供への対応なんて限られている。

「よーしよし。
怖かったな?
僕が来たからにはもう安心だぞう?」

だっこして、ナデリコナデリコ。
猫なで声であやしてやることだろう。

「むーっ!むーっ!!」

僕の小さくはないお胸様に挟まれてうれしそうに身をよじるやまい。
正確には苦しそうにだが。
ここは男になって、パパ的なお胸様のほうが良かっただろうか?
いや、でもどちらかと言えばお母さんに抱きしめられたほうが安心する、と思うしな。
黒いオーラがまだなんかしようとするが、僕の触腕で巻きつけて押さえ込んだ。

『・・・わ、わけが分からないよ』


何に驚いてるのか、グリューネの呆けた顔が結構可愛かった。
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