タコのグルメ日記

百合之花

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Ⅳ章 豊穣の森

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やまいが特訓すると言って一週間が経過したことである事実が判明した。

「くろもやさんっ!!」

やまいが呼ぶくろもやさん―もとい黒い何か。
最初は制御がしづらかったものの、今では針に糸を通すような繊細なコントロールまで可能になったので早速その扱いを教え込もうと僕は思った。
けどもちろんのことんな得たいの知れない物を扱ったことなんてないし、それをどんな感覚で操ってるのかすら分からない。
そんな僕に何をどう教えろというのか。

ならば狩りの技能を教えようじゃないかということで、気配の消し方や音を立てない歩き方などなど。
狩りの素人レベルから玄人レベルまできっちり教えて一週間。

すでに僕が教えることがなくなったというこの事実。
僕の狩りは前にも言ったけれど自ら追いかけるタイプと待ち伏せの中立である。
周りの景色に溶け込み、相手の近くまで這い寄って、目の前を通りかかった瞬間に襲い掛かる。
これが僕の狩りであり、ほぼ毎日一匹を狩ってきた僕はまともに獲物に相対することがまず無い。

直接バトルするということがめったに無いのである。
何が言いたいかと言えば、やまいに対して戦い方なんて教えられないことに今更ながら気づいたのだ。
僕が教えることが出来るのは狩りの方法や経験から得た知識であって、身を守る方法ではない。

当然、そのことに気づいた僕はやまいに内緒でこっそり、いまやほぼ忘れ去られた漆黒を持って素振りとかしているのだが、やまいが気配を消す技能を取得するのと僕が剣を覚えるのとではやはり剣が不利に違いない。
動物よりの人間、もとい魔人だということで気配を殺す技能の習得も早いほうである。(グリューネ曰く)
僕の剣が形になるよりも断然早いに違いない。
そもそも一週間前に街に行った時、やまいが使うための剣を買ってきた段階でこのことに気づけばと思わないでもないが、たかだか一週間早めに練習したところでどうにもならなかっただろう。
結局意味無いなと思いつつ。
さてはてそれはさておき。

触腕をすべて使って8刀流(両足を除いて)とか練習してみようか?
いや、何を馬鹿なことを――とここでティンと来た。

「やぁっ!
やぁっ!!」
「ほおっ!
とあっ!!」

黒い何か、もといくろもやさんを振るうやまいの相手をしながら考える。
しかし、とどのつまり良く考えるまでも無いのだ。
僕が剣を使えないなら適当にその辺から剣を使える御仁を引っ張ってくれば良い。
その人にやまいを鍛えてもらえば万事解決。
ついでに僕も一緒に習おう。やまいに情けない姿を見せてしまうがこちとら親ではなく保護者である。
そもそも親然としているべき理由など無いのだ。
親ならば親としてのプライドから見栄を張るだろうが、保護者ならばそんな見え張りとも関係ない。
だが、問題が残る。

剣を教えるのに彼女のぼっち能力が邪魔だ。
教えてくれと頼んだところでまず受けてくれないだろうし、仮に受けてもらう状況――大金を積んだところで嫌々やられてもそれを毎日相手にしなくてはならないやまいのことを思うと却下である。または教えることに手を抜かれるかもしれない。
ここは僕が他の達人に教えを請いて、僕を中継してやまいを鍛えていくしかないかもしれない。
身を守るだけならくろもやさんで十分なのだが、いずれ森を出た時のためにあんな目立つ力は使わないに越したことは無い。
ぼっち能力抜きで避けられかねないし、手札を多くするためにもやったほうがいい。

そう思っていた。
思っていたのだが、僕はひらめいてしまったのである。

教えてくれる人がいないなら奴隷を使えば良いじゃない!と。
持ってて良かった奴隷。
一家にお一人奴隷様。

使った後は首輪をはずしてハイお逃げ。
よし来たっ!!
これ以上のチョイスは無い。
と思ったんだけどよくよく考えたらそもそも、奴隷とやまいを引き合わせること自体、彼女のトラウマを刺激するかもしれないし、お子様の教育には悪い。
そう考えると―やっぱり僕が学んでそれをやまいに、という形が一番なのかもしれない。

「結局訓練は続けておくのが無難か・・・」

剣はあくまでもカモフラージュのつもりだったのだけれども。

☆ ☆ ☆

さらに一週間が経過。
するとどうだろう?
あんなにも貧弱だったやまいがまるで野生たぎるピューマのように―は見えないな。

「たこ、たこっ!」
「なに?」

あれからしばらくまたもや魚天国、というべきか地獄というべきか。
味が変わるように工夫して調理しているものの、大元の味は三食ともに魚であるわけで、いい加減マジで自分の足を調理してやろうかと考え始めたところ。
そんな自分の追い詰められっぷりに笑いつつ、包丁を片手に自分の触腕を押さえたときのことである。
やまいが僕の名を連呼する。
ちなみに作ろうと思ってたジャムはまだ作れていない。
甘い果物は森の奥の方になっているので、何も出来ないやまいを連れた状態だと少し危険なのだ。獣よけはその特性上、魔力を感じる能力が発達してくる中型以上の動物にしか通用しない。

「きょ、今日は私がたこにご馳走する!!」
「ほう?
と言うならば、できたのだな?
あの技が?
あらゆる獣をしとめるという必殺技がっ!!」
「ひっさつわざ?
何の話してるの?そうじゃなくて、ご飯獲りにいこう。
もう足手まといにはならないもん!」

うきうきした様子でそう答えるやまい。
残念ながらバトル漫画風のネタフリは通じなかったようである。
そういえば僕には必殺技が無かったな。
必ず殺す技という意味で。
いや、タコ脚キャノンがあったっけ。なんてことはドウでもよくて。
実戦はまだ早いと思うのだが、何、いつかはやらねばならぬこと。
僕なんてこの世界に生まれてすぐに狩りをしたんだ。
やまいが出来ぬ道理はない。
そして僕も今までやってきた剣の試し切りができると思えば良い。
何よりもようやく魚天国から抜け出せる。
今日かた小動物も狩れると思えばうれしさで多少の危険はあえて背負うと思えるもの。危険なのはやまいなんだけどね。
そこは僕が一緒にいるから問題ないし、危険が無い場所でぬくぬくと育ってもらっても困る。
彼女は僕以上に苦労を背負い込む性質(ぼっち)なのだからして。

「・・・分かった。でも前にも言ったようにすっごく痛い思いをするかもしれない。辛いかもしれない。
それでもやるの?」
「う、うん!
おんがえしするっ!」

いつも静かな子だけに、今日はそこそこテンションが高い。
緊張か、奮い立たせているのか。
あるいはそのどちらともか、なんにせよ積極的なのはいいことである。
ただ、恩返しという言葉はいただけない。
あまり子供に気を遣って貰っても、逆にこちらが気を遣ってしまう。
いや、どこかで必要以上に気を遣うというそういう態度を取っているからこそ彼女に気を遣わせてしまうのかもしれない。
保護者とは難しいものだ。
とはいえ、恩返しという行為自体はうれしいことに変わりは無い。

「それじゃ、行こうか。」
「?
私一人で行くよ?」
「駄目だ。危険すぎる。」

過保護すぎる気もするがお店で、はじめてのお使いというほど簡単な話ではないのだ。
自然に、動物に、生き物に絶対は無い。
ごくまれに強い動物が付近をうろつく事だってあるし、隠した相手でも一瞬の油断や、横から入ってきたほかの動物に致命傷を負わされることもある。
命は一回きりのもの。
ここで命を賭ける必要は無い。
もっと力をつけてから安全に―

「いやっ!」

断固として譲らんとばかりにそっぽを向くやまい。
ええと、子供の気持ちになってこれを説得するには―――

「どうしてそんなに一人で行きたいの?
毎回言っているでしょう?
命は二個も無い。死んじゃったら眠れないし、凄く痛いし、誰とも会えなくなるよ?」

そういうとびくりと震えるやまい。
特に最後の言葉が堪えたようだが、それでも首を縦に振らない。

「たこだってそうだもん。」
「ん?」
「たこだって危ないことしてる。」

日々の狩りを言ってるのか?

「そら、しないとご飯が食べられない。食べられないとこれもまた死んじゃうからね。しょうがないさ。僕だって危険がないなら無い方がいいよ。」
「たこばっかりずるい。」
「ず、ずるいって・・・」

涙に目を溜めながらこちらをにらむやまい。
何がそこまで駆り立てるのか。
それともいまだに嫌われないように僕のご機嫌を伺っているのか。
僕は嫌いにならないと何度も言っているのに。

「やまい。別に焦らなくても良い。急がなくても良い。
そんな必要はどこにも無いんだ。
毎回言ってるけど嫌いにはなら―」
「いいからついてこないでぇっ!!」

そのままダッシュで森の中に入っていくやまいだった。

『難しく考えすぎよ。
お世話になった人の力になりたい。そう思ってるだけよ。』
「急に出てきましたな、グリューネさんや。」

そんなことは分かっている。
分かっている、つもりなのだが、やはり彼女の過去を気にしすぎなのだろうか?
そら単純に恩ある人を助けてあげたいって気持ちもあるだろうが・・・

『元はといえば貴方が原因よ?』
「は?」
『最近、魚がいやいやとぼやきすぎだったでしょう?』
「・・・まぁね。」

とりあえずだ。
僕は立ち上がった。

『・・・分かってるとは思うけれど甘くしちゃ駄目よ。
厳しく、優しく見守ってあげなさい。』

まるで僕がこれから何をしようとしてるのかすべて分かっているかのようなお言葉である。

『予想はつくわ。』
「そう。」

はじめてのお使いをこっそり後から見ることとしよう。




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